イラン情勢の悪化が無視できない状況になり、3月相場と同じ展開

7月23日の米国株式市場は、イラン情勢の悪化によってまとまった幅で原油価格が上昇する中、軟調な展開だった。この日はトランプ米大統領が米ニュースサイトのアクシオスの取材に対して、イランへの大規模な攻撃を検討していると明らかにしたことが懸念された。7月はイラン情勢の悪化が続いているが、この日はWTI原油価格が90ドルを超えた。原油価格は80ドル程度の推移になるという観測が多かったことを考えると、90ドルを超える動きは多くの市場参加者にとって想定外だっただろう。リスク回避的な動きにつながっているとみられる。インフレ懸念とFRBの利上げ観測が強まる中、長期金利が上昇していることも、株式市場にとっては悪材料である。

注目は、4月相場にシフトするかどうか

もっとも、現在は債券も買いにくい状況となっているため、キャッシュ化の動きが強いことが予想される点には注意が必要である。仮に株売り・債券買いという形で市場のテーマが変わっているのであれば、株価は軟調な動きが続くだろう。しかし、足元ではキャッシュ化の動きが優勢だとすると、比較的早い段階で次の動きが出てくる可能性がある。3月にイラン情勢が悪化した際、3月だけは株安・債券安となった。しかし、4月以降は原油価格が高止まりし、インフレ懸念が続く中でも、AI・半導体関連株を中心に株価が上昇した。機会損失を防ぐために何らかの市場でリスクを取らなければならないという考えが台頭してくれば、相対的に安全なリスク資産に投資資金が向かうのである。そのように考えると、教科書的には割引率の観点から株価にネガティブな影響を与えると言われる金利上昇は、実際には株価の形成にはそれほど重要ではないと考えられる。

3-4月相場との違いはAI・半導体の警戒感、投資資金は右往左往する可能性

とはいえ、足元のイラン情勢の再悪化が、3-4月相場の再現になるとは限らない。3-4月相場以降にAI・半導体関連株に投資資金を振り向けた投資家が多いことが予想されるためである。以上を整理すると、①イラン情勢の不透明感が強まる過程では短期的には株安・債券安の状況になるが(1ヵ月程度?)、②徐々にリスク量を復元する動きが生じ、③その際にまだインフレ懸念が続いていて債券が買いにくい状況だとすると、④AI・半導体関連株のような景況や金利の悪影響を受けにくい投資対象を模索する流れになるだろう。しかし、AI・半導体関連株の高値警戒感が強く、投資資金の受け皿となるような対象が見つからない場合、⑤すべての市場で動意を欠いた状態が続く可能性もある。なお、仮に8月7日に公表される予定の7月雇用統計が弱い結果となれば、債券の買い戻しにつながる可能性がある。その場合は、③の前提が崩れるため、新たなシナリオを考える必要がある。債券の買い戻しが続く場合、AI・半導体関連株も含めて投資資金が流出し、株式市場は調整することになると、筆者はみている。長期金利が低下することは株式市場にポジティブな面があるものの、投資資金の行き先が変化する方が市場にとっては重要だろう。

原油高でも低下したBEIを考慮すると、債券市場は底堅い

7月23日の米国債券市場では、原油高が進んだことや新規失業保険申請件数が強い結果となったことを受け、利上げ観測が強まった。イールドカーブのフラット化が進んでおり、長期金利の上昇幅は限定的である点も注目される。長期金利の水準だけをみれば上昇が続いているものの、利上げ観測の強まりによって短中期金利が上昇していることを考慮すると、長期・超長期債は非常に底堅い動きになっていると評価できる。この日は、長期金利は前日比+3.9bp、2年金利は同+4.9bpだった。FF金利先物市場では9月までの利上げ確率が105.6%に達した(前日は101.6%)。26年中の利上げ回数の織り込みは約1.75回となり(同約1.71回)、一段と警戒感が強くなってきた。一方、引き続きインフレ懸念はFRBの利上げ観測につながっており、長期のインフレ予想は安定している。この日は、10年実質金利が前日差+5.7bp、10年インフレ予想(BEI)が同▲1.8bpと、原油高が90ドルを超えたのにもかかわらず、長期のインフレ予想は低下した。

インフレ予想が低水準であることから利上げは不要であるという考え方ができる一方、それは市場がFRBの利上げを前提にしている(織り込んでいる)からであると言え、FRBは市場の期待に応えるために利上げをせざるを得ないという考え方もできる。FRBのメンバーの間でも、スタンスが分かれてくる可能性があるため、今後の発言に注目が必要だろう。仮に9月FOMCまでに短期的なインフレ懸念が強い状態が続く場合、市場の期待に応えるための利上げは避けられないとみられるが、筆者は雇用統計などが弱めの結果になると予想しているため、9月は利上げが実施されないという想定を維持している。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)