日本経済は長年、「価格の硬直性(rigidity)」に悩まされてきた。その現象は今も意外な場所に残っている。結婚式のご祝儀だ。

筆者も40代半ばとなり、結婚式に出席するのは久しぶりだった。同世代の多くがすでに結婚するか独身を貫くかしており、新たに結婚式へ招待される機会もめっきり減っていたからだ。

先日、友人であり同僚でもある人の結婚式に参列した際、ある慣習を確認しなければならなかった。ご祝儀を幾ら包むべきなのか、ということだ。

日本では、プレゼントや欲しい贈り物を事前に登録するブライダルレジストリーの代わりに、新郎新婦に現金のご祝儀を贈るのが慣例となっている。

時に出費はかさむものの、人間関係を円滑にし、失礼を避けるための日本らしい慣習の一つだ。金額も慣例でほぼ決まっており、友人の結婚式なら通常は3万円、夫婦で出席する場合は5万円が目安とされている。

いまだに3万円

筆者が日本で暮らしてきた約25年間にわたり、この金額は変わっていない。だが、結婚式に前回出席したのは新型コロナウイルス禍よりずっと前だ。その後のインフレによって、結婚にかかる費用も他のあらゆるものと同じく上昇した。

ゼクシィの調査によると、人件費やエネルギー価格、とりわけ飲食費の高騰を背景に、招待客1人当たりの費用は従来より約3分の1高くなったという。本来、ご祝儀は結婚式にかかる新郎新婦の負担を和らげる役割を果たすものだ。

ところが、マナーの方は変わっていなかった。ご祝儀を巡る相場はいまだに3万円のままだ。出席者にとっては、デフレ時代の価格がそのまま残っているようなもので、飲み放題も含め、以前と同じかそれ以上のもてなしを3万円で受けられる。インフレ時代に入っても、失われた数十年の名残が見られることを示す興味深い例と言える。

価格の粘着性は、経済学でいう「名目硬直性」の一例であり、日本で長年にわたり続いた問題だった。原材料などのコストが横ばい、あるいは下落する環境が続いたため、人々は同じ価格を払い続けることに慣れてしまった。

その代表例が、ラーメン「1000円の壁」だ。1000円札は最も額面の小さい紙幣であり、多くのラーメン店では券売機で食券を購入する。このため、1000円を超える価格には客も特に敏感になる。

この1000円の壁がラーメン店の値上げを難しくし、過去最多の倒産につながる一因となっていた。しかし、インフレによって値上げを先送りできない状況となり、こうした壁も崩れ始めている。キャッシュレス決済の普及も心理的な抵抗を和らげ、1000円を超えるラーメンも今では珍しくなくなった。

簡単には変えられず

一方、結婚式となると、新郎新婦が自由に決められることはそれほど多くない。しかも、ご祝儀は今なおアナログな慣習のままで、手書きの表書きをした祝儀袋に、新札を折らずに入れて渡すのが作法とされている。

伝統があるだけに、金額も簡単には変えられない。3万円は単なる切りの良い数字ではない。1万円札3枚は2人で均等に分けられないため、結婚祝いには縁起が良いとされている。一方、その次の切りの良い数字である4万円には、4が「死」を連想させるという、大きな問題がある。5万円は親族や職場の上司など、より格上の相手に贈る標準的な金額だ。

もっとも、この慣習自体はそれほど古いものではない。多くの説によれば、3万円のご祝儀が一般化したのは、ホテルで大規模な結婚式を挙げることが流行した1980年代のバブル期だ。

コア消費者物価指数(CPI)が前年比で最後にマイナスとなってから、今月で5年となった。それでも当局はなお、デフレへの後戻りを警戒している。高市早苗首相が今週、閣議決定した成長戦略でも、デフレへの逆戻りを回避する必要性に繰り返し言及している。

ほぼあらゆる業種で、企業は長年続いた値上げへのためらいを捨てつつある。東京都内の銭湯の入浴料は数年前まで500円未満だったが、600円に引き上げられる。20年間にわたり1800円に据え置かれていた映画館の一般料金も、大手チェーンでは2200円に値上げされる。コンビニのコーヒーも発売当初は1杯100円だったが、現金で支払う人が減る中、値上げが相次いでいる。

円相場は1ドル=163円台と1986年以来の安値を更新し、訪日客の間では日本の物価の安さに驚く声が絶えない。だが、日本で生活する人々にとっては、暮らし向きはかつてないほど厳しく感じられる。この問題への対応が遅れていることが、高市首相の支持率が下落し始めている主な要因だ。

招待されなくても気を悪くするな

では、結婚式のご祝儀問題はどう解決すればよいのだろうか。日本が誇る別の技術を活用し、ご祝儀をQRコード決済にすれば解決するのか。これなら現金を用意する手間はなくせる。

しかし、自由な市場とは異なり、社会的な慣習では価格を決める主体が存在しない。慣例や礼儀作法によって定められた義務は簡単には変えられず、そのしわ寄せは価格決定力が最も弱い人たちに及ぶ。結婚式の場合、それは新郎新婦だ。

新郎新婦にできることと言えば、カメラマンなどのオプションを削ったり、招待客を減らしたりして、結婚式全体の費用を抑えることくらいしかない。

もし招待されると思っていた結婚式に呼ばれず腹を立てたとしても、気を悪くする必要はない。その原因はインフレにあるのだ。結局、その費用を負担するのは新郎新婦なのだから。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Japan Wedding Gifts Are Leaving Couples Deflated: Gearoid Reidy(抜粋)

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