(ブルームバーグ):トランプ米大統領は2月下旬に対イラン戦争を開始した際、短期間で圧倒的な勝利を収めると約束していた。しかし、終結の見通しが立たず、成果も不透明な戦争の継続を余儀なくされている。
トランプ氏の狙いは、イランによるホルムズ海峡支配を打破し、自身の戦争がもたらした損害を回復することだ。これは極めて困難な課題であり、同時に現在のトランプ外交を象徴している。
政権2期目発足から1年半が経過し、トランプ氏が好む手っ取り早い勝利を得る機会は少なくなっている。残されているのは、複雑な問題と容易には屈しない敵対勢力ばかりだ。
政権1年目を特徴づけたのは「衝撃と畏怖」だった。トランプ氏は米国の世界的な立ち位置を変える決意で就任し、強硬かつ攻撃的な形で米国の力を行使することをいとわなかった。
競合国のみならず同盟国に対しても貿易戦争を仕掛け、米国の同盟関係の条件を抜本的に見直すよう要求した。数多くの紛争でトランプ氏自ら和平仲介に乗り出す一方、さまざまな敵対国やならず者国家と軍事的対立も繰り広げた。さらに、新たな領土を米国に加える構想についても語っていた。
多くの人が予想したような孤立主義へ後退するどころか、トランプ氏は全方位で慌ただしく積極的な外交を展開した。米国の比類なきパワーが迅速かつ劇的な成果をもたらすと見込んでいたのだ。
しかし、この手法は米国の要求に抵抗する意思と能力を備えた敵対国には効果を発揮しなかった。ロシアのプーチン大統領は、トランプ氏によるウクライナ和平仲介を意に介さなかった。
中国の習近平国家主席は、報復関税と重要鉱物の輸出規制によってトランプ氏の関税攻勢を封じ込め、同氏を屈辱的な後退へ追い込んだ。
転落前の絶頂
それでも、世界の多くの指導者を不安にさせたのは、より弱い国や米国への依存度が高い国々を相手に、トランプ氏がしばしば要求を通したことだった。
米国の安全保障に依存する欧州の同盟国は、防衛支出の大幅増額を求めるトランプ氏の要求を受け入れた。厳しい貿易戦争を仕掛け、米市場や米国の安全保障に依存する国々に、米国に有利な条件を受け入れさせた。
欧州連合(EU)は不利な関税水準を受け入れざるを得なかった。韓国や日本、台湾などは巨額の対米投資を約束した。そしてトランプ氏は同盟国を従わせる一方、ならず者国家にも強硬姿勢を取った。
米軍は2025年6月にイランの核施設を破壊し、2026年1月にはベネズエラのマドゥロ大統領(当時)を深夜の急襲作戦で拘束した。この作戦は圧倒的な力を示しただけでなく、戦略的にも大きな成果だった。敵対的だった外国政府を事実上、米国の従属国家へと転換した。
しかし、それは転落前の絶頂でもあった。ベネズエラで完璧に見えた体制転換作戦は、トランプ氏を戦略的な万能感に酔わせたようだ。米国の力はほぼ無限だと確信させ、その後、同氏は2つの重大かつ高くつく過ちを犯した。
第一に、デンマーク自治領グリーンランド獲得を目指す動きを一気に加速させた。欧州諸国が結束して強く反対したことで最終的には引き下がったが、その前に北大西洋条約機構(NATO)に深い傷を残した。ロシアでも中国でもなく、同盟国である米国がNATO加盟国の主権に対する最大の脅威となったからだ。
第二に、何を引き起こすことになるのか十分理解しないまま、またイランが直ちに屈服しなかった場合の計画もほとんど持たないまま、テヘランを攻撃した。その結果、中東は混乱に陥り、米軍の軍事的優位の限界が露呈しただけでなく、米国の国力を世界規模でしばらく消耗させるかもしれない。
これまでのところ、2026年の主要な地政学的イベントは、トランプ政権下の米国を無謀で弱く、捕食的な国家として映し出している。これは政権1年目から見れば大きな失速であり、今後を考えれば憂慮すべき前例でもある。
もちろん、勢いを取り戻す機会は残っている。ウクライナは戦場で優位に立ちつつあり、長距離攻撃によってロシア経済にも打撃を与えている。
最も有害な本能
トランプ氏は看板政策である「ドンロー主義」の一環として、中南米におけるもう一つの長年の敵対相手であるキューバの共産党政権への圧力も強めている。しかし、勝利を期待すべきではない。トランプ氏が直面しているのは、複雑な課題と粘り強い敵ばかりだからだ。
トランプ氏は、世界経済を破壊せず、米国の力を消耗させる泥沼にも陥らず、ホルムズ海峡をイランに恒久的に支配させない形で、イラン戦争を終結へ導かなければならない。
また、最終的にプーチン氏にウクライナでの停戦を受け入れさせるため、多国間による圧力を構築し、それを維持する必要がある。さらに、自信を深め影響力を強める中国に対抗しつつ、習氏との外交も継続しなければならない。
加えて、トランプ政権には米国の国力基盤を強化することが求められている。防衛産業の基盤を強め、重要鉱物のサプライチェーンを確保し、イノベーションを阻害することなく破滅的リスクを抑えるAI規制の枠組みを構築しなければならない。こうした課題はいずれも、大言壮語や即興性、そして安易な解決策を追い求めるトランプ外交には向いていない。
必要なのは、習氏やプーチン氏に対する影響力を着実に積み上げ、同盟国と協力して集団的な強靱(きょうじん)性を高め、イランとの長期対立を勝ち抜く戦略を策定するといった地道で粘り強い積み重ねだ。しかし、それはトランプ氏がしばしば軽視してきた手法でもある。
トランプ氏はまた、自らの戦略的失策を棚に上げて同盟国を非難したい衝動や、容易に解決できない問題から手を引きたいという誘惑など、自身の最も有害な本能とも闘わなければならない。
それはトランプ氏にとって、これまでとは全く異なる統治スタイルになるだろう。それでも、変化の必要性は否定し難い。「衝撃と畏怖」を掲げた大統領にとって、この半年は厳しいものとなった。困難な課題に満ちた世界で外交手法を変えることができなければ、今後もさらなるダメージと失望が待ち受けているだろう。
(ハル・ブランズ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授です。シンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所」のシニアフェローで、マクロ・アドバイザリー・パートナーズのシニアアドバイザーも務めています。最近の著作は「The Eurasian Century: Hot Wars, Cold Wars, and the Making of the Modern World(ユーラシアの世紀:熱戦、冷戦、そして現代世界の形成)」です。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:Trump Won’t Have More Easy Foreign-Policy Victories: Hal Brands(抜粋)
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