ゴルディロックス的な経済指標のバランスでも株式市場は軟調推移

7月16日の米国株式市場は、AI・半導体関連株の弱さが目立った。この日に公表された6月の小売売上高は概ね市場予想と一致し、堅調な結果となった。CPIやPPIなどのインフレ指標が弱めの結果となったことと合わせて考えると、経済は堅調でインフレが鈍化するというゴルディロックス的な環境と言える。むろん、現在はイラン情勢悪化の影響が経済指標に反映される過程にあり、月次の統計で経済環境を決めつけることはできないが、短期的には株式市場にとって望ましい流れになっていることは事実である。

それでもこの日の株式市場では、ダウ平均が前日比▲0.20%、ナスダック指数が同▲1.47%、S&P500指数が同▲0.51%と、軟調な展開。特にSOX指数が同▲4.29%と、まとまった幅で下落したことから、AI・半導体関連株の弱さが目立った格好である。今後もAI・半導体関連株を避ける動きが続く場合、その投資資金の行き先が重要である。この日は「投資資金は半導体関連やAI銘柄から流出し、ヘルスケアや消費関連銘柄などに向かいやすかった」(NQN)という指摘もあったが、株式市場が全体的に軟調だったことを考えると、強い動きにはなっていないだろう。さらに、債券市場も弱めの推移だった。現状ではいずれのリスクも落とす(キャッシュ化)動きが強かった模様であり、相場は転換点にある以上のことは言い難い。

堅調な小売売上高というピースが、米景気のパズルを再び難しくした

イラン情勢が改善に向かう中(依然として右往左往しているものの)、7月は米経済のファンダメンタルズに注目が集まっており、いくつかの指標が揃ってきた。結論を言えば、6月の小売売上高が堅調な結果になったことによって、米経済の状況を説明することが困難になった。ファンダメンタルズを見極める動きは振り出しに戻ったと、筆者は考えている。足元までに公表された主な経済指標から得られるインプリケーションをまとめると、
①雇用統計では労働参加の減少が示され、
②CPI・PPIでは物価上昇圧力の弱さが示され、
③小売売上高では消費者の需要の堅調さが示された。これらの結果について、矛盾なく経済状況を説明することは難しい。例えば、(1)米経済は個人消費を中心に堅調だという仮説を立てると、物価上昇圧力が弱いことと矛盾する。労働参加が減少していることを考慮すると、賃金が消費を支えているとは言えないため、株高が消費を支えているという連想になる。株高によって労働参加する必要がなくなった人が労働市場から退出していると考えると、需給バランスの観点(株高による需要の強さと、労働参加減少による供給の低下)から物価上昇圧力は強くなりそうだが、そうはなっていない。また、(2)物価上昇圧力が弱いという仮説を立てると、言うまでもなく、個人消費が堅調であることと矛盾する。

前述したように、そもそも振れの大きい月次の統計で判断することは難しいのだが、少なくとも足元までに得られたデータの解釈は困難であり、データの蓄積を待つ時間帯が続きそうである。
筆者は、米国経済はやや弱めの推移が続き、インフレ率も市場予想対比で弱めの結果が続くと予想している。前述したデータで言えば、小売売上高の堅調さはややイレギュラーな結果(W杯要因?)であり、今後は弱くなっていくだろうとみているということになる。実質可処分所得が弱く、株価も調整が続いていることを勘案すると、個人消費も弱含んでいくだろうと考えている(現状ではそれほど確度が高くない予想だという自覚はある)。

米国経済が弱めの推移となり、FRBが利上げを実施しないという展開となれば、米国債が選好されやすいだろう。その結果、インフレ懸念によって債券市場から株式市場に退避していた投資資金が逆流し、株式市場全体はやや軟調な展開になると予想される。その際、まずは株式市場の中でもこれまでのトレンドの逆回転が生じると予想され、AI・半導体関連株は調整幅が大きくなりやすいだろう。他方、米経済が弱めの推移になるとすれば、景気敏感株や消費関連株に資金が向かうイメージも持ちにくい。その一方で、リセッションに向かうほど米経済の状況が悪いということもないという微妙な評価になっていく可能性が高いため、ディフェンシブ銘柄が選好されるわけでもないだろう。これまでは、こういった評価が難しい状況ではAI・半導体関連株が選好されてきた。市場はAI・半導体関連株に代わる「いい塩梅」の投資対象を探していくことになると予想されるが、現時点で筆者にはそのアイデアはない。

金利は堅調な小売売上高(上昇要因)と株安(低下要因)で小動き

7月16日の米国債券市場では、小売売上高が堅調な結果となったことを受け、利上げ観測が小幅に強まった。長期金利は前日比+0.6bp、2年金利は同+0.6bpと、小幅に上昇した。小売売上高が堅調な結果となったことからディスインフレが進むとの見方がやや後退した。もっとも、株式市場が軟調な結果となったことから、金利上昇幅は限定的だった。インフレ懸念が和らげば、米債市場に投資資金が流入し、金利低下が続くことになるだろう。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)