高市早苗首相は、日本初の女性首相として自らのレガシー(遺産)を残そうと、今後数十年にわたって国内の産業基盤を再構築するという前例のない計画に挑んでいる。

こうした抜本的な見直しの必要性は、日に日に明白になりつつある。中国政府は29日、日本向けのレアアース(希土類)供給を制限する新たな輸出規制を発表した。これは、高市首相が軽減を目指しているサプライチェーン(供給網)のリスクを改めて浮き彫りにした。

高市首相の構想は、官民が連携して進める総額370兆円規模の投資計画が中核をなしている。その対象範囲と規模は歴代首相が描いた構想と一線を画す。高市氏が政治の師と仰ぐ故安倍晋三元首相が進めた「アベノミクス」に少なくとも匹敵する野心的なものだ。

今回の違いは、その規模の大きさ、14年間という期間の長さ、そして地政学的リスクの管理に焦点を置いた点にある。安倍氏が需要喚起を狙った広範な構造改革に的を当てたのに対し、高市首相(65歳)は、AIや半導体から、防衛や造船に至るまで幅広い産業に巨額の資金を投じることで、供給側の問題に対処することを目指している。世界の舞台で中国とハードパワーを巡る競争が激化する中、首相は経済および国家の安全保障の双方において、極めて重要な17分野を特定した。

1990年代以降の日本の政策決定を分析した立命館大学の上久保誠人教授は、高市首相の計画について、「3本の矢とうたいながら成長戦略が実質的になかったアベノミクスとは完全に違うものだ」と指摘。「これが本当に実現できるならば、世界から遅れた老人国家日本を抜本的に変える可能性がある」との考えを示した。

高市早苗首相

もっとも、高市首相の成長戦略には不透明な部分も残っている。計画では資金の半分余りを民間から調達することを前提としているが、それをどう実現させるのかについて高市首相は説明していない。ただ、企業はどのような状況であれ、工場や設備に数千億円規模の投資を毎年行っている。

政府資金をどこから調達するのかに関しても、高市首相から言及はない。一方、1990年ごろのバブル崩壊以来となる持続的なインフレを背景に、近年は税収が過去最高を記録しており、こうした状況が追い風になる可能性はある。

高市氏は、2012-20年の第2次安倍政権下で閣僚を務めた。安倍氏が掲げた「Japan is back(日本は戻ってきた)」というスローガンは、高市氏に受け継がれている。

安倍氏と同様、高市氏は長年続く政治慣行にも挑む姿勢を示している。安倍氏は政府高官の人事を握ることで、絶大な権限を持っていた官僚機構を掌握した。高市氏は現在、財務省が主導してきた予算編成の在り方に対し、第2次世界大戦後で最大規模の改革を進めようとしている。

これまでの単年度予算や、補正予算に頼る財政運営の在り方を転換し、高市氏は複数年にわたる枠組みの構築に取り組んでいる。7月には、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を高市政権下で初めて公表する予定だ。ブルームバーグは、高市氏がこの方針を通じて、政府の方向性に合わせて適切な金融政策を日本銀行に求める見通しだと報じた。

高市氏の構想の規模に匹敵するほど、日本経済が抱える課題も大きい。物価高が家計の購買力を低下させ、日銀の利上げや大規模な為替介入も、円相場が対ドルで1980年代以来の安値水準へと下落する流れを食い止めるには至っていない。資源に乏しい日本では、円安によって輸入するエネルギーや食料、原材料のコストが押し上げられている。

日本の政府債務残高対GDP(国内総生産)比は依然として世界最高水準にあり、高市氏の積極財政路線によって財政の持続可能性が損なわれることを投資家は懸念している。長期金利ははここ数カ月で1990年代以来の高水準に達した。

高市氏の構想には、財源が示されていない支出項目が積み上がっている。与野党間では、飲食料品の消費税を2年間実質ゼロする案が議論されているが、その財政負担は約5兆円に上ると見積もられている。

防衛費についても、GDP比2%の目標を達成するには少なくとも年間2兆円の追加支出が必要となるだけでなく、インフレに伴う名目GDPの拡大によってその必要額はさらに膨らむ可能性がある。また、ガソリン税減税により歳入が約7600億円減少すると見込まれている。

国債の利払い費も財政を圧迫する要因だ。日銀による利上げで政策金利は31年ぶりの高水準となった。アベノミクス当時のように、日銀の大規模金融緩和と大量の国債買い入れによって、政府が低コストで借り入れを行えた時代は終わった。

明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミストは、「これまでのところインフレが進んでいることで、政府は税収増加という形でかなり恩恵を受けている」と指摘。もっとも、「債務の支払いも着実に増えていくので、財政状況が一方的に良くなるということではない」と語った。

中国要因

財政規律だけを重視すれば、日本は競争力の面で不利な状況に置かれる恐れがある。ドイツにおける過去10年の事例は、均衡財政は鉄道システムから防衛態勢に至るまで、幅広い分野で機能低下を招く代償を伴う可能性があることを示している。

一方、中国は産業・技術基盤の強化に加え、軍事力の増強にも資金と人材を投入している。

サプライチェーンのリスクを浮き彫りにするかのように、中国政府は29日、日本に対する輸出規制を強化した。商業・軍事の両用途に利用可能な中国製品の輸出を原則禁止する規制対象リストに、日本の20企業・団体を新たに追加した。

神田外語大学で講師を務めるジェフリー・ホール氏は、高市首相が重点投資の対象とする分野について、「いずれも日本にとって戦略的に重要な産業であり、中国との競争に関わるものだ」と分析。その上で、この投資戦略は首相の支持基盤である保守支持層へのアピールとしても捉えられるとの見方を示した。

さらに、「これらはすべて、日本が直面する外国からの脅威から国を守る取り組みとして位置付けることができる」とも語った。

高市氏の複数年にわたる計画が持続的な支持を得られるかどうかはまた別の問題であり、答えが出るまでには時間を要する。現時点では、高市内閣に対する支持率は歴史的に見ても高い水準を維持しており、朝日新聞とANNが最近実施した世論調査では60%だった。

立命館大の上久保教授は、真の問題は、高市首相の計画が「実現可能かということだ」と語った。

原題:Takaichi Aims to Shape Legacy With Unprecedented Economic Plan(抜粋)

--取材協力:梅川崇、氏兼敬子、横山恵利香.

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