(ブルームバーグ):今年これまでで私が最も気に入っているテクノロジートレンドは、AIとは全く関係がない。
それは、クールな若い女性たちが独自のサイバーデッキを作っていることだ。サイバーデッキとは、奇妙でDIY色が強く、高度にカスタマイズ可能なパーソナルコンピューター(PC)で、AIを明確に拒絶している。
見た目はサイバーパンク映画の小道具のようで、多くはシングルボードコンピューター(SBC)「Raspberry Pi」をベースに余った部品を組み合わせて作られている。
人魚をモチーフにしたサイバーデッキの動画が数千万回再生されたことで知られる愛好家は、「サイバーデッキについて私たちがすべきことは、AIや巨大企業からそれを守ることだ」と語る。
サイバーデッキのブームは、アップルが四半世紀ほど前に発売した「iPod」の人気に続くZ世代の新たなハードウエア熱の表れだ。現在オンライン上で探し求められているモデルの多くは、今の所有者が生まれる前に発売されたものだ。
中古・整備済みテクノロジー製品を扱うバック・マーケットによると、iPodの販売は昨年約50%増加した。米電子商取引大手イーベイによれば、「iPod」の検索は1時間当たり1300回を超えている。
アナログ回帰が流行するのは今に始まったことではない。しかし、今回の現象は単なるノスタルジーではない。アルファベット傘下グーグルが主力検索エンジンへのAI統合を発表した後、AI非搭載の検索エンジン「DuckDuckGo(ダックダックゴー)」へのアクセスが急増した。
検索エンジンにロマンを感じている人はいない。人々が求めているのは選択肢だ。チャットボットや自動化があらゆるものに組み込まれる世界で、注意力やプライバシー、自律性を守る「AI抵抗テクノロジー」が台頭している。これは、十分な同意もないまま進められた技術革命に対する消費者の反応だ。
単機能デバイス
AIは強力で避けられない存在かもしれない。しかし、人々が心を奪われているのはAIではない。単機能デバイスや反AIデバイスの流行は、テクノロジーを取材することが楽しかった時代を思い出させる。
そこには奇妙で近未来的なガジェットがあり、熱狂的な実験家たちがいて、人々をつなぎ情報を民主化すると約束するプラットフォームがあった。
だがその後、テック業界の権力層が支配力を強め、デバイスは中毒性が高く、利用者の私生活にまで入り込むよう設計された閉鎖的で独占的なエコシステム(生態系)へと変わった。
ソーシャルプラットフォームは、想像し得る中でも最も非寛容で怒りをあおる言論の温床となり、とりわけ若い利用者に深刻な影響を与えた。巨大テック企業は、今回の革命を社会に受け入れさせる前から信頼を勝ち取っていたわけではない。
AIについては、意識を持つかもしれない、人類を滅ぼすかもしれない、仕事を奪うかもしれないと言われる一方で、豊かさへの不可避な道だとも説明されている。
人々が機能の少ない機械に手を伸ばすのも無理はない。私にはその魅力が理解できる。今年お気に入りのガジェットは、AI開発競争を静かに拒む単機能デバイスばかりだ。本を読むことしかできない小型電子書籍リーダーを毎日使っている。
最近では、日本の文具メーカー、キングジムのデジタルメモ端末も購入した。これでできるのは、ソーシャルメディアやAIによる提案に気を取られず原稿を書くことだけだ。
そして透けて見える紫のボディーには、2000年代のテクノロジー楽観主義を象徴した最後の優れたビジュアル言語とも言える「Frutiger Aero(フルティガーエアロ)」の雰囲気が漂っている。

成長し始めたAI業界を厳しく描いた「Empire of AI(AIの帝国)」の著者カレン・ハオ氏は最近、人々がAIに対抗する手助けをするオンラインディレクトリー「AI抵抗リスト」の立ち上げに関わった。
ある団体はAI学習に利用されないようデータを汚染する方法を教え、別の団体は労働者による連帯組織づくりを支援している。こうした動きは、一般の人々が理解したり十分な同意を与えたりするよりも速いペースで導入されているテクノロジーに対する、政治的かつ文化的な反応となっている。
業界もこうした動きに気付き始めている。マイクロソフトのブラッド・スミス社長は最近のブログ投稿で、卒業式の祝辞でAIに言及した際に卒業生たちからブーイングを受けたことに触れ、これを「テクノロジー業界への強い警鐘」だと論じた。
若者は通常、新しいテクノロジーの普及を先導する存在であり、その彼らが反発しているなら業界は注意を払うべきだと付け加えた。
スミス氏の指摘は正しい。Z世代は誰よりも長くアルゴリズムに支配された生活を経験してきた。自分たちの注意力が収奪され、社会生活がエンゲージメント向上のために最適化される感覚を知っている。
また、利便性がいかに素早く依存へと変わるかも目の当たりにしてきた。AIの利用をできるだけ先延ばしにすることは、むしろ良いことかもしれない。
セールスポイント
宿題や論文、さらには思考そのものまで外部に委ねるのは簡単だ。しかし、成長過程の脳にとって重要なのは格闘することだ。問題に取り組み続けることで、判断力や審美眼、粘り強さ、そして急速に変化する時代を生き抜くために必要な問題解決能力が養われる。
評価すべき点として、スミス氏は業界がもっと行うべきことを実践している。つまり、AIについて人間らしい言葉で対話しようとしているのだ。
同氏は、カリフォルニア州の消防隊が山火事の発見にAIを活用していることや、ウクライナで地雷除去に取り組むチームがAIを利用していることなど、実際に命を救う可能性のある事例を挙げた。
こうした例は重要だ。医療や災害対応、アクセシビリティー向上のためにテクノロジーが活用されていることは、AIに意識があると装うよりもはるかに説得力のあるセールスポイントだからだ。
しかし、こうした有益な用途が、他のあらゆる場面での強制的な導入を正当化するのだろうか。若い消費者たちはそうではないと言っている。この違いはテクノロジー業界にとって重要だ。
シリコンバレーが好んで使う論法は、自らが定義する進歩に抵抗することは進歩そのものを拒むことだというものだ。だが、労働や著作権、創造性、ディープフェイク、環境負荷を巡る議論を押しつぶす上で、不可避性を強調する言説が都合の良いものであることは間違いない。
新たな反AIテクノロジーの波は、そのような宿命論を拒絶している。人々には依然として、自分が使う技術や差し出す注意力、提供するデータを選ぶ権利があるという考え方だ。
AIへの抵抗は、この革命に投じられている数百億ドル規模の資金に対抗できず、いずれ敗れる運命なのだろうか。恐らくそうだ。それでもAIレジスタンスよ、永遠なれ。
(キャサリン・トーベック氏はアジアのテクノロジー分野を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。CNNとABCニュースの記者としてもテクノロジーを担当しました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:The Hottest Gen-Z Tech Trend? Anti-AI: Catherine Thorbecke(抜粋)
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