人工知能(AI)活用が進む大手企業の価値観が変わりつつある。これまで従業員に対して利用自体を奨励していたが、費用が急増する中で成果を求め、利用上限を設定する企業も相次ぐ。伊藤忠商事など一部日本企業でもコストパフォーマンスの高いAIの使い方を模索する動きが現れ始めた。

米小売り大手ウォルマートは、従業員に対して一定量の「トークン」を割り当てる方式に切り替えた。従来は自社開発のAIエージェントを無制限に利用できたという。同社の広報担当者は、社員に価値を創出する形での活用を望んでおり、適切な業務に適切なAIを使えるよう支援していると説明する。ウーバー・テクノロジーズも利用制限を設けた1社だ。

トークンとは、AIがデータ処理する際の最小単位を指す。トークンを大量消費する「トークンマキシング」が礼賛される風潮も一時期あったが、米国企業は費用対効果にシビアになりつつある。社員から見れば、AIを使うだけでは不十分で、成果を上げることが求められるフェーズに入ってきているといえる。

背景にあるのが、自律的に業務を遂行するAIエージェントの登場だ。チャット形式では文章の要約など簡単なタスクが中心だったが、エージェントの場合は契約書の1次レビューなどより高度な作業も可能になる。

ただ読み込むデータが膨大になり、データ収集、処理、検証を繰り返すため、トークンの消費量も費用も跳ね上がる。各種AIに横断アクセスできるOpenRouterのデータによれば、ここ半年でトークン使用量は約7倍になった。

こうした状況下で、米国最大の暗号資産(仮想通貨)交換業者コインベースは、よりトークンの単価が安いAIモデルを使うことでコストを抑えようとしている。同社CEOのブライアン・アームストロング氏が、X(旧ツイッター)上の投稿で明らかにした。今後12-18カ月の間に8割の仕事は、従来より99%安いモデルで処理できるようになるとの見方も示した。

投資家も

AI投資への見極めが厳しくなっているのは投資家も同じだ。モルガン・スタンレーのリポートでは、市場は単なるAI導入のストーリーでは満足せず、投資収益率(ROI)に関心が移りつつあると指摘する。AI活用を確実に進めてきた会社とそれ以外での格差がさらに広がりそうだ。

日本でも早くからAIを導入してきた企業では、コストと効果のバランスに目を向けている。伊藤忠は2023年に生成AIと連携した社内業務アプリを開発。議事録作成や投資検討支援などの機能を順次提供してきた。

資料用画像や社内申請書などの作成機能をこのほど試験提供し始めたが、生成作業はトークンの消費数が増えるとみて、回数制限を設けているという。利用状況を見ながら、本格的に提供する際の利用条件を検討する。

AIによって業務時間の削減効果は試算できているが、同社はそれでは不十分だと考えている。今年度はAIエージェントの業務への組み込み、プロセスの効率化、最適化を進める考えだ。同社の浦上善一郎IT・デジタル戦略部長は、経済的な効果、人員の再配置など「浮いた余力をどう活用したか」が測られる段階に移りつつあると話す。

パナソニックホールディングスでは、グループ全社員に汎用的なAIツールを支給するほか、希望する部門では「ChatGPT」の法人向けサービスなどを提供している。パナソニック オペレーショナルエクセレンス、イノベーション共創課の奥野竜介課長は、「AIの活用が拡大する中で、コストマネジメントは重要なテーマの一つと認識している」と説明する。

汎用的なAIツールに関して、今期(27年3月期)から利用上限の設定や、用途やコスト効率を考慮したモデルの選択を促しているという。

マネジメント

請求書処理や経費精算関連のAIサービスを提供するLayerX(レイヤーX、東京・中央)の福島良典最高経営責任者は、「トークンマネジメント」の重要性を説く。

利用者は最新の最上位モデルを使いたがる傾向にあるが、「わざわざフロンティアモデルを使わなくても解ける問題はたくさんある」と福島氏は指摘する。旧モデルでも期待する結果が得られるかどうか評価し、業務に最適なモデルを割り当てるプロセスが欠かせないという。

レイヤーXは、AIサービスを提供するだけでなく、各AIと連携した業務効率化ツールを社内でも利用する。仕事の難易度に合わせて自動的にモデルを切り替える仕組みで、トークンの使用量自体は増えているが、コストの上昇を抑えられているという。

「AIは基本的に生産性をレバレッジできるすごい武器」であることは変わらず、アップサイドまで捨ててむやみに制限を設けるのは悪手だと福島氏は話す。利用状況を把握しながらメリハリをつけて使うことが必要だと強調した。

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