米株式市場は夏相場入りした。リセッション(景気後退)の確率は警戒を要するほど高くなく、米国とイランは協議を続けている。米企業の利益は過去最高水準にあり、通商政策も少なくとも現時点では大きな懸念材料ではない。

それでも、23日の米株式相場下落はAIブームに支えられた株高の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにした。韓国市場を中心にアジア株が大幅安となった流れを受けたものだ。

また、オプション市場では、この日の相場下落前からトレーダーが市場の変動拡大に備えていた様子がうかがえた。

シカゴ・オプション取引所(Cboe)のボラティリティー指数(VIX)のコールオプションとプットオプションのオープンインタレスト(未決済建玉)比率は、年初来の最高水準に上昇している。S&P500種株価指数の下落に備えたヘッジ需要の高まりを示す動きだ。

この比率は、イラン戦争への懸念からウォール街の主要な予想変動率指標であるVIXが20を大きく上回った2月初旬の水準を超えている。VIXが20を上回る水準は、一般に市場ストレスの高まりを示す目安とされる。

米国とイランの暫定和平合意が発効した後も、トレーダーが今後の市場ボラティリティーに警戒を続けていることは明らかだ。米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長によるインフレ抑制重視の発言は金融市場に波紋を広げている。消費者物価指数(CPI)が3年ぶりの高い伸びを記録したことを受け、市場ではインフレ抑制に向けFRBが早ければ10月にも利上げを開始するとの見方が織り込まれている。

EPウェルス・アドバイザーズのポートフォリオ戦略担当マネジングディレクター、アダム・フィリップス氏は「多くの投資家は米国とイランの暫定合意を、株式市場に戻るための『安全宣言』のように受け止めたようだが、われわれはそうは考えていない」と指摘した。

「この合意によって金利見通しが変わるわけではない。FRBは近いうちに利下げを実施できない可能性が高く、年内には一切利下げができないかもしれない。従ってトレーダーは、借り入れコストとインフレ率がしばらく高止まりする可能性を前提に、見通しの修正を迫られている」と述べた。

フィリップス氏によると、同社は株式全体に対しては中立的な投資スタンスを維持している。一方で、バリュエーションの高さを理由にテクノロジー株の組み入れ比率を低めにしている。反面、原油価格の高止まりに備えるヘッジとして、エネルギー株と資本財株の組み入れ比率を高めているという。

ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのクロスアセット戦略担当ストラテジスト、チャーリー・マケリゴット氏は「一般的な『イラン合意』を理由にウォーシュFRB議長が様子見姿勢を取り、夏場の経済指標でインフレが一時的なものかどうかを見極めようとするのであれば、それは危険だ。インフレ圧力が収まらなかった場合に『後追い的な利上げ』を余儀なくされる可能性を高めかねない」と指摘した。

決算シーズン開始まで約1カ月ある中、投資家は株価を上下いずれかの方向に大きく動かす材料をほとんど見いだせていない。S&P500種は先週、心理的節目とされる7500を突破したが、その後は新たな相場の推進力に乏しい状況だ。

投資家の関心は、25日に発表される米個人消費支出(PCE)価格指数に向かっている。FRBが重視するインフレ指標だ。FRB当局者の金利見通しが利上げ方向へ大きく傾く中、その内容が注目されている。

インフレ指標が市場予想を上回れば、S&P500種の力強い戻り相場は揺らぐ可能性がある。

「われわれは株式相場や経済そのものを懸念しているわけではない」とEPウェルスのフィリップス氏は話した。その上で、「経済成長や企業利益の伸び、ひいては株価の重荷となり得る問題がどこかに潜んでいないか、常に警戒しながら市場を見ているような状況だ」と語った。

原題:‘Looking Over Our Shoulder:’ Traders Are Loading Up on VIX Calls(抜粋)

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