(ブルームバーグ):英国の首相にアンディ・バーナム氏(56)が就く可能性が高まっている。同氏は政治家と演説家、組織運営者として優れた資質を備えているとされ、多くの下院議員は現職のスターマー首相はそうした点で劣るとみている。
前マンチェスター市長のバーナム氏は、労働党党首のスターマー氏が22日に辞意表明したことを受け、党首選での勝利を経て、次期首相となる公算が大きい。
バーナム氏とはどのような人物なのか。また、経済停滞に苦しみ、この4年間で5人目の首相を迎えることになる英国の進路を、実際にどのように変えることができるのか。
バーナム氏の経歴は
バーナム氏はリバプール近郊で生まれた。父親は電話技師、母親は受付係として働いていた。15歳で労働党に入党した同氏は、ケンブリッジ大学で英文学を学び、卒業後は多くの英政治家と同じように議会で調査員として働いた。
2001年に初めて下院議員に当選し、その後、当時のブレア首相の下で顧問および閣僚を務めた。2003年には米国と共に英国がイラクに軍事介入することを支持した。
最も重要な役職は、ブレア氏の後任であるブラウン首相の政権で務めた保健相だった。その後、労働党から追放された強硬左派のコービン元党首と協力した数少ないブレア時代の主要政治家の一人となった。
バーナム氏は2度にわたり党首選に出馬したが、イラク戦争支持の過去がいずれの党首選でも足かせとなった。2015年の党首選ではコービン氏に大差で敗れ、2017年に議会を去った。その後、マンチェスターの市長を2期余りにわたり務める中で、イングランド北部の労働者階級を擁護するという新たな立ち位置を固めた。
バーナム氏の市政下で、大マンチェスター圏は大きく発展し、経済成長率は全英平均の倍に達した。バーナム氏は地域の知名度向上に貢献し、全国的な停滞感とは対照的な自信に満ちた地域のチアリーダーと見なされた。
新型コロナウイルス禍でのマンチェスターに対する中央政府の対応を厳しく批判する熱弁を振るうと、人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の登場人物になぞられ「北の王」という異名を得た。この呼び名はそのまま定着した。
バーナム氏はここ1年ほど、市長としての実績を国家再生の青写真へと転換しようとしてきた。その結果生まれたのが、地域による重要な公共サービスの統制と、自身が地元で示してきた楽観主義を組み合わせた政治戦略「マンチェスター主義」で、代表的な政策はバス交通システムの改革だ。
バーナム氏の政策は
バーナム氏は、低迷する英経済の運営において、より介入主義的なアプローチを採用するとみられている。これまで、富裕層がより多くの税負担を担うべきだと繰り返し主張してきた。
苦境にある社会サービスの抜本改革を訴え、公営住宅建設プログラムを提案し、地域のバス運賃を2ポンド(約430円)に上限設定する政策を支持している。
また、イングランド南部の大部分に水道サービスを提供する民間企業テムズ・ウォーターの公有化も提言している。これらの政策を実行できるかどうかは、税制・歳出政策を統括する財務相に誰を起用するかにも左右される。
また、イングランド北部全域で「再工業化の推進」を行うべきだと訴え、教育制度についても、現在の「大学進学偏重」ではなく、産業分野の職業へ人材を導く仕組みに改革する必要があるとしている。
もっとも、バーナム氏は典型的な左派進歩主義者ではない。国防支出の増額財源として福祉支出の削減を示唆している。スターマー政権のマフムード内相による移民制度改革はさらに踏み込むべきだと主張した。
また、一部の進歩派的な刑事司法政策に反対したことで「反ウォーク(社会正義に目覚めた)」と呼ばれるマンチェスター警察本部長を支持している。
スターマー氏が党首として率いた労働党は、2024年の総選挙で圧勝し、14年ぶりの政権交代を果たしたが、同氏は2年足らずで党内外で支持を失った。
バーナム首相誕生は債券市場にとって何を意味するのか
バーナム氏は昨年、英国は債券市場への「in hock(従属)」から脱却しなければならないと述べた。
すでにスターマー氏の後継候補として注目されていた同氏の発言を投資家は財政赤字や債務の拡大を意味するものと懸念し、バーナム氏がスターマー氏への挑戦に近づくにつれて、指標の国債利回りを押し上げる形で反応した。
バーナム氏は自身の発言は誤解されていたと説明し、最近では投資家の安心感を高めるため、リーブス財務相が設けた歳出・借り入れに関する自主規律を維持すると約束した。
その規律は、日常的な政府支出を税収で賄い、債務残高の対国内総生産(GDP)比を低下させることを求めるものだ。バーナム氏はまた、数週間前のブルームバーグとのインタビューで例外措置の可能性に言及していたにもかかわらず、防衛支出についても例外を設けないと表明している。
財政ルール変更に対する市場の反応は、その内容だけでなく、実施のタイミングや説明の仕方、さらに誰を財務相に起用するかにも左右され得る。バーナム氏の側近らによれば、リーブス氏を再任する予定はないという。
なぜ労働党議員の間で人気があるのか
バーナム氏は庶民派のイメージを築いてきた。マンチェスター市長としてイングランド北部の代弁者となり、労働者層の有権者を擁護してきたことが、地域の政治家から首相候補への飛躍を支えた。
イングランド北部の多くの町では、有権者の支持が労働党からリフォームUKにシフトしている。反移民を掲げる同党は英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を推進したファラージ党首が創設した。
リフォームUKは、遅くとも2029年までに実施される次回総選挙で、労働党にとって最大の脅威と広く見なされている。労働党議員の多くは、リフォームUKの政権獲得を阻止する最善の候補がバーナム氏だと考えている。
バーナム氏への批判は
バーナム氏を支持するミリバンド・エネルギー安全保障・ネットゼロ相らは、中道派のブレア氏と左派のコービン氏の双方と協力した過去の実績を、現実主義的で柔軟な適応力の証拠とみている。
一方、批判派は、それがスターマー氏にも見られた弱点、すなわち一貫した統治プロジェクトを構想し実行するために必要な中核的信念の欠如を示していると主張。バーナム氏は、連携する相手を変えてきたことを否定しておらず、それは派閥優先ではなく党優先で行動しているからだと話している。
最近の幾つかの方針転換により、柔軟性が時にご都合主義に見えるとの批判も再燃した。かつて支持していたにもかかわらず、英国のEU再加盟を目指す試みを否定したことで、一部の支持者の反発を招いた。
もう一つの懸念は、バーナム氏に野心的な政策を実行するだけの財政的余裕がない可能性だ。選挙陣営が現行の歳出・借り入れ規律を維持すると約束したことで、英経済の現状では、バーナム氏も結局は自身が交代を目指すスターマー氏と大差ない政策路線を取らざるを得ないのではないかと懸念する声が労働党内にある。
原題:Who Is Andy Burnham, the UK’s Likely Next Leader?: Explainer(抜粋)
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