これまでトランプ米大統領は繰り返し、イランとの対立終結に向けた合意が目前であると述べてきた。しかし、現実はそれほど単純ではない。理由の一つは、交渉そのものの進め方にある。

トランプ氏は11日にも、合意は間近に迫っており、早ければ今週末にも署名される可能性があると記者団に語った。これに対し、イランはトランプ氏の主張を否定。準国営のファルス通信は、イラン指導部は米国とのいかなる合意文書も承認していないと報じた。

誇張表現や脅し、そして譲歩を示唆する発言を多用するトランプ氏の言動が混乱の一因ではあるが、合意が実現しにくい理由は他にもある。それは、米国とイランが実際に進めている交渉の仕組みが極めて複雑であることだ。

米政府当局者やアナリスト、事情に詳しい関係者によると、交渉は実際の協議というより、メッセージの往復に数日を要する煩雑なプロセスになっている。非公開の交渉形式について、関係者は匿名を条件に語った。

米国側からの提案は、複雑な外交ルートをたどってイラン側へ伝えられる。とりわけイラン側では、負傷している最高指導者モジタバ・ハメネイ師の所在を隠すために、しばしば伝令役が使われている。イラン当局はハメネイ師が暗殺の標的になる可能性を懸念しており、その居場所は厳重に秘匿されている。

戦時下で不安定な通信環境も事態を複雑にしており、WhatsAppのメッセージが届くまで48時間かかることもあると、ある外交官は匿名を条件に語った。関係者によれば、交渉ではパキスタン当局者が電話やテヘラン訪問を通じて米国の提案や返答を伝達し、その後にイラン国内で伝令役が派遣される仕組みになっている。

米政権高官の1人は、イラン側のシステムはいら立たしいほど遅く不透明だと語った。たとえ米国がイランの要求をすべて受け入れたとしても、合意署名までには5日を要すると、この高官は匿名のもとで語った。

ルビオ国務長官も、こうしたプロセスの遅さについて不満を表明している。ルビオ氏は先週、返答を得るまでに「5-6日」かかることがあると議会で語った。

「多くの場合にわれわれが直面している問題は、返答が関係者に届くまで時間がかかることだ。だからこそ、数日以内に合意に達する可能性があるとの報道が出ている」とルビオ氏は述べた。

現時点では、双方は戦争の停止を巡って協議しつつ、より難しい問題は後回しにしているとみられる。そのため、将来的により大きな合意を実現するためには、対面協議へ戻ることになるかも焦点となる。

米フロリダ州マイアミで開かれたイベントに出席したウィトコフ特使(3月27日)

「仲介者や携帯電話を介したやり取りで、実りある交渉が本当にできるのか。答えはノーだ」と、米国務省で中東交渉を長年担当したアーロン・デービッド・ミラー氏は指摘した。「制裁や凍結資産、イランの核濃縮など、双方が取り組んでいる問題はどれも膨大な論点を抱えている。そうした問題を交渉で詰めるには、数週間どころか数カ月かかる可能性もある」という。

トランプ政権とイランはいずれも、交渉の実態について詳しい説明を避けている。しかし事情に詳しい関係者の説明からは、その交渉がトランプ政権発足初期に実施された米イラン高官による対面協議とは大きく異なることが分かる。

また、その手法はオバマ元大統領時代にイランとの多国間核合意「包括的共同作業計画(JCPOA)」を成立させた際の、数カ月に及ぶ交渉とも全く異なる。当時、米国とイランの当局者はウィーンの高級ホテル、パレ・コーブルクに約3週間滞在し、最終的な詳細を詰めた。

関係者によると、米国のウィトコフ特使はイランのアラグチ外相と直接テキストメッセージで連絡を取れる関係にあり、米国はこのルートをより頻繁に利用している。ただしウィトコフ氏は、イスラマバードで行われた前回の米イラン対面協議以降、中東を訪問していない。

トランプ氏にとって不利なのは、この煩雑な交渉手法が意図的に採用されている可能性があることだ。別の関係者によると、イランはハメネイ師の所在が特定され、暗殺の標的となるリスクを避けるため、デジタル上の痕跡を極力残さないようにしている。

ハメネイ師の前任者で父親の故アリ・ハメネイ師は、戦争開始時に殺害された。またイランは、2度にわたる交渉の後に米国がイランを攻撃したことから不信感を抱いている。イスラエルも過去に交渉関係者を標的としており、カタールの首都ドーハではイランが支援するイスラム組織ハマス幹部が攻撃され、5人が死亡した。

交渉では多くの利害関係者にも配慮する必要がある。トランプ氏は11日、イランへの攻撃中止を表明したSNSへの投稿の中で、イスラエル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、トルコ、パキスタン、バーレーン、クウェート、ヨルダン、エジプトなど少なくとも10カ国に言及した。

ファルス通信は、交渉失敗の責任は全面的にトランプ氏にあると主張した。同通信によると、米交渉団が従来のイランからの提案を受け入れた後になって、トランプ氏は新たな条項の追加を求めたという。

交渉の停滞には、米国の同盟国も不満を募らせている。事情を知る関係者によると、UAEは今週イランと対面協議を実施した。またイランメディアによれば、カタールも停滞する米イラン協議を前進させるため、今週独自の代表団をテヘランへ派遣した。

外交官や湾岸諸国の当局者は、イランが米国への圧力を維持するため意図的に時間を引き延ばしている可能性も指摘している。

「それはイランの利益にかなうものであり、われわれの焦りを強めているように見える」と、中東和平交渉で米国の首席交渉官を務めた経験を持つデニス・ロス氏は言う。「イランはそうした焦りにつけ込んでいる。トランプ大統領が合意は近いと発言するたびに、時間稼ぎを続けるのが得策だと考える。トランプ氏に圧力が効いてくるのを待っているのだ」と述べた。

原題:Trump’s Iran Deal Slowed By Couriers in Complex Peace Process(抜粋)

--取材協力:Golnar Motevalli、Kate Sullivan、Dave Warren、John Harney.

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