気の毒なのは、戦略的に厳しい立場に置かれた米国の同盟国だ。中国とロシア、そして両国に同調する現状変更を図る勢力による脅威は高まっている。米国の政治的安定性と地政学的関与を巡る不確実性も強まるばかりだ。

長年にわたり米国との同盟を頼りにしてきた国々にとって、不安をかき立てる時代だ。世界各地で、いわゆるミドルパワー(中堅国)はこの圧力に対処する戦略を練っている。

欧州では「戦略的自律性」を追求している米同盟国もある。分断が進む世界で独自の進路を描ける欧州を目指す構想だ。

カナダのカーニー首相は今年1月、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、米国も中国も「経済統合を武器として利用している」と指摘し、米中より小さな国は米中両国に対して自主性を保つべきだと示唆するスピーチを行い注目を集めた。東南アジアから中東に至るまで、ヘッジ戦略を取る国も増えている。

しかし、米国にとって最も重要な同盟国である日本は、異なる選択をしている。

筆者は最近、国家安全保障当局者や有力なアナリストらとの会談のため東京を訪れた。最近の米国の行動パターンに対する懸念の声は確かにある。ただし、それらは抑制された形で表明される。

責任あるオブザーバーらから、日本は単独で行動すべきだとか、米国と決別すべきだという主張を聞くことはない。

日本は、自国の強みや代替的な関係構築への投資を急ぎながらも、米国との結び付きを強めている。中国の勢力拡大に対する集団的な障壁を高める一方で、米国の曖昧な姿勢による悪影響を管理し、静かに抑え込もうとしている。

その結果、日本は米政府と太平洋地域の安定にとって着実に価値を高めている。同時に、将来的に米国が本当に世界から後退した場合に直面するより大きな危険にも、より巧妙な形で備えつつある。

日本の戦略は、米国を信頼しきれない一方で、米国が不可欠でもある時代における最善の選択を示している。もっとも、その戦略によって日本が厳しい試練を免れるわけではない。

日本外交の新時代

1850年代以降、日本は世界的な大変化に対応するため、繰り返し自らをつくり変えてきた。そして今、日本の外交政策は第4の時代に入りつつある。

19世紀半ば、産業革命が起きたことによって、欧米列強の帝国が拡大する中で、日本は取り残されかねない状況に直面した。その結果として明治維新が起こり、近代経済と強力な軍隊が築かれた。わずか数十年で日本は大国となり、中国、そして後にはロシアを短期決戦で打ち破った。

第2の変革は戦間期に訪れた。第1次世界大戦後、日本は議会制民主主義を受け入れた。しかし、世界経済が崩壊し、1930年代にファシズムが台頭すると、日本は軍国主義と武力による拡張、自給自足型の巨大なアジア帝国の建設へと向かった。一時は世界のほぼ4分の1を制したが、米国との戦争によって壊滅的な敗北を喫した。

その惨禍の後、第3の時代が始まった。日本は米国の力と和解した。日本の指導者たちは独自外交を放棄し、米国の保護に依存するようになった。日本は米国の占領下で民主化され、西側共同体の一員として復興し、繁栄した。変貌した日本は東アジアの変革にも貢献し、この地域は前例のない繁栄と安定、平和を享受することになった。

しかし現在、国際環境は悪化しており、第4の変革が進行中だ。中国の軍備増強は東シナ海で日本への挑戦となり、西太平洋の安全保障を脅かしている。中国は、日本の南西方面を守る位置にある台湾に圧力をかけるとともに、日本との長年の因縁を清算する機会をうかがっている。

日本の戦略家たちは、東南アジアの一部がすでに中国の勢力圏に取り込まれたことを懸念している。防衛計画の担当者は、尖閣諸島周辺での中国の行動や、台湾に対する侵攻・封鎖の可能性、あるいは税関・検疫を利用した事実上の封鎖措置などを警戒している。

より広い視点で見れば、冷戦後の比較的平和な時代は競争と対立の時代へと移行しつつある。国際経済は、対立によって貿易関係が揺さぶられる中で分断が進んでいる。

日本を取り巻く環境は、この数十年で最も危険なものとなっている。そして、日本が後ろ盾として頼る超大国、米国の信頼性を巡る疑問も、一段と大きくなっている。

疲弊する超大国

こうした疑念が公の場で語られることはめったにない。シンガポールで先月開かれたアジア安全保障会議「シャングリラ会合」では、小泉進次郎防衛相が米国の太平洋地域の安全保障への関与は揺るがないとの認識を示し、その確認をヘグセス米国防長官に公然と求めた。

ヘグセス氏はインド太平洋地域における米国のコミットメントを改めて強調したが、小泉氏がその質問をしたという事実自体が、何かを物語っている。

もっとも、日本の政府関係者は長年にわたり、米国の地政学的な持続力に懸念を抱いてきた。20年近く前に、米国は海外での国家建設より国内再建に注力すべきだと宣言したのは当時のオバマ米大統領だ。

オバマ氏は、シリアでの化学兵器使用に対して越えてはならない一線とする「レッドライン」を自ら設定したが、使用疑惑に対し軍事行動を起こさず、約束をほごにしたことは、日本政府にも地政学的な衝撃を与えた。

2016年の米大統領選では、主要2政党の候補が共に環太平洋経済連携協定(TPP)を否定した。その後、日本はこれを環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)として発効させることに貢献。そして、トランプ大統領時代の、しばしば予測不能で時に摩擦を生む外交が続いた。

東京における基本的な見方は、過度なグローバル化と2001年同時多発テロ後の中東戦争の行き過ぎに対する反動が、米国を長期的な地政学的疲労と政治的混乱へ追い込んだというものだ。トランプ政権はその混乱の産物であると同時に、それを加速させる存在でもある。

トランプ氏は第1次政権で、米国の同盟の価値に疑問を呈した。第2次政権では、関税によって世界経済を揺るがし、同盟国の領土を奪う可能性に言及し、米国の安全保障上のコミットメントにも疑念を生じさせている。

その混沌としたリーダーシップは、同盟国がワシントンで何が起きているのかを理解することを困難にし、ましてや影響を及ぼすことを難しくしている。

勢力圏によって分割された世界への関心を示しているように見えるトランプ氏の姿勢は、ロシアや中国の影響圏にある民主主義国にとって不吉な意味を持つ。そして、さらに最近の出来事も影を落としている。

トランプ氏が2月末に始めた激しい対イラン攻撃は、米軍の軍事力を印象付けた。日本の当局者は、こうした力の誇示がロシアや中国に対する抑止力になることを期待している。

しかし、イラン戦争は世界経済に打撃を与え、米国の兵器備蓄を減少させた。また、米軍部隊を太平洋から中東に振り向け、日本向けトマホーク巡航ミサイルの売却にも遅れを生じさせた。

さらに根本的には、この戦争は米国の意思決定の質に疑問を投げかけた。トランプ氏は長期化し混迷する危機に不用意に踏み込み、そこから抜け出すのに苦しんでいる。一方で、最近の対中融和姿勢や、台湾向けの米支援に関する曖昧な発言は、日本側の懸念を呼んでいる。

もちろん、日本の安全保障当局者は、同盟国に防衛支出増額を求めるトランプ氏の主張には一定の価値があるとみている。

筆者が話を聞いた中で、米国が不可逆的な衰退に入ったと考える人はいなかったが、米国が国内での対立と地政学的な不安定さの時代に入りつつあると危惧されている。日本の戦略に近いある有識者によれば、この問題は日本の外交官がアジア各国の関係者と協議する際の「暗黙の議題」となっている。

これは、米国が築いた世界の中で繁栄してきた日本にとって歴史的な課題だ。そして日本は、それに対して驚くほど野心的な対応を示している。

防衛力増強への傾斜

こうした対応は、昨年10月の高市早苗首相就任のはるか以前から形を成し始めていた。約20年前、当時の安倍晋三首相は日本が抱える歴史的な重しを振り払い、日本を「普通の国」にしようと試みた。2010年代の第2次安倍政権では、日本を「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の断固たる擁護者として位置付け、中国の拡張主義に対抗した。

日本はここ数年、防衛支出を大幅に増やしている。ロシアの侵略に対抗するウクライナを支援すると同時に、西太平洋における中国の威圧的行動に異議を唱えてきた。

前首相の石破茂氏は2024年11月の所信表明演説で、日本は「厳しい安全保障上の現実を直視」しなければならないと言明。そして今年2月の総選挙で圧勝した高市氏は、安倍氏の政治的後継者として、日本の大戦略をさらに前進させようとしている。その柱は三つある。

第1の柱は、自国の力を拡大することで日本そのものを強化することだ。軍事支出は2022年以降、国内総生産(GDP)比1%から2%へとほぼ倍増した。

日本の当局者によれば、この積極的な増額は今後も続く。具体的な目標はなお明確ではないものの、2030年代初頭までにGDP比3%以上へ達する可能性がある。

その時点で日本は、中国と米国に次ぐ世界3位の軍事予算を持ち、長距離ミサイルや攻撃型潜水艦、航空・海上ドローン(無人機)など先進兵器を多数備えた軍事大国になっているかもしれない。

年内に改定が予定されている「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」、いわゆる安保3文書では、国民の支持を得るため脅威がより明確に描かれる見通しだ。自衛隊は台湾に近い南西諸島で、より高度な兵器の配備と装備品の備蓄を進めている。

自衛隊は、最近の教訓を取り入れながら将来の戦争にも備えており、ドイツにある北大西洋条約機構(NATO)のウクライナ支援司令部に要員を派遣し、ドローンや電子戦などに関する知見の吸収を進めている。日本政府はウクライナ戦争で見られるような長期戦を支えるため、生産能力の強化を図る。

小泉防衛相は、攻撃型の原子力潜水艦を建造する必要性にも言及している。これは日本の核を巡るタブーを打破する一歩であり、将来的には核兵器保有へとつながる可能性もある。静かで平和主義的な日本というイメージはもはや時代遅れだ。日本は軍事的な大国としての力を築きつつある。

日本が採る戦略の第2の柱は、広範な関係網の構築だ。長年にわたり、日本の外交政策は米国との二国間同盟を基軸としてきた。しかし現在、日本は太平洋地域で最も積極的な多国間主義の担い手の一国となっている。

日本はオーストラリアやフィリピンと、軍事協力を段階的に深める準同盟関係を築いてきた。インドから東南アジア各国に至るまで、日本の戦略的パートナーシップは拡大している。

日本は豪州とインド、米国による非公式な安全保障枠組み「クアッド」で重要な役割を果たしており、歴史問題で複雑な経緯を持つ韓国との関係改善の勢いも維持しようとしている。

高市政権はまた、エネルギー価格上昇に苦しむマレーシアやタイなど東南アジア諸国への支援資金拠出を約束。経済的困窮が中国の影響力拡大につながることを防ぐためだ。また、中国による経済的圧力への対抗策として、豪州とカナダ、インドネシアとの重要鉱物分野の協力も推進している。

安保3文書改定では、「集団的自律性」が打ち出される見通しだ。これは、日本が敵対的勢力に対して行動の自由を維持するには、増え続ける友好国との緊密な協力が不可欠だという考え方だ。

中国のプロパガンダ機関は日本の軍国主義復活を絶えず警告しているが、アジアの大半では、日本の力は中国に対する有力な均衡要因として歓迎されている。

こうした第1、第2の柱を結び付けているのが、積極的な産業外交だ。日本は4月、残されていた武器輸出規制の大半を撤廃。フィリピンや豪州などに対し、ミサイルやフリゲート艦といった装備品の輸出契約を進めている。

その狙いは友好国の防衛力を強化すると同時に、長らく停滞していた日本の防衛産業基盤を活性化し、将来の危機に備えさせることにある。

「新たな黄金時代」

もっとも、こうした取り組みはいずれも米国との同盟に取って代わることを意図したものではない。東京の戦略における第3の柱は、米国との協力深化だ。

日本の指導者たちは、ワシントンとの公然たる対立を慎重に避けながら、不均衡な貿易譲歩や巨額の対米投資といった米国の要求も受け入れてきた。高市氏とトランプ氏は同盟の「新たな黄金時代」を祝福し合い、トランプ氏は今年、日本での総選挙に先立ち、公然と高市氏支持を表明した。

軍事演習の頻度も増している。自衛隊と米国防総省は、日本の南西諸島を沿岸防衛の拠点として強化するとともに、有事に機能する指揮体制や高度な相互運用性の構築を進める。

中国による急速な核戦力拡大も、米国の拡大抑止を維持するための日米協力をさらに促している。日本は米国から距離を置こうとしているのではなく、むしろ米国を地域により強固に定着させようとしている。

実際、日本にとって第1の選択肢は、自国をより強くし、地域との結び付きを深めることで、米国にとってより価値が高く魅力的な同盟国になることだ。もちろん、同じ取り組みは、最悪の事態が起きていつの日か米国が本当に引き揚げた場合に必要となる代替案の基盤づくりにもなっている。

人口縮小

これを日本外交の革命と呼んでも誇張ではない。日本の政治的リーダーシップは、生き残るためには大胆な行動が必要だと確信している。また、中国を長年警戒してきた有力な官僚たちが、官僚機構をその方向へ導いている。

危険と不確実性が高まる中、民主主義陣営には、より大きな存在感と活力を持つ日本が必要だ。高市氏とその前任者らによる改革は、米国にとって最も重要な同盟国として、日本の地位を固めるはずだ。

日本の能力と日本との協力は、米国が中国とのバランスを図り、望ましい国際秩序を維持する上で必須だ。しかし、今後の課題を過小評価してはならない。

第1の課題は、民主主義陣営による抵抗が権威主義国家の敵意を招くことだ。日本の政策は中国にとって格好の標的となっている。高市氏は昨年11月の国会答弁で、中国が台湾に武力行使し、米軍が出動すれば、日本が関与せざるを得なくなる可能性を示唆した。これに対し、中国は予想通り怒りをあらわにした。

中国の大阪総領事はソーシャルメディア上で高市氏に対し「斬首」を示唆する投稿を行った。その投稿はすぐに削除されたが、中国は東シナ海で攻撃的な行動を展開し、重機械や造船分野を対象とする対日経済制裁も発動した。

中国は高市氏を見せしめにしようとしている。日本に対する圧力と威圧の強化は今後、常態化する公算が大きい。

次に、日本とその友好国が中国の挑戦に対応し続けられるかどうかという不確実性がある。中国の通常戦力と核戦力の増強は衰える気配がない。中国人民解放軍の活動範囲も拡大している。

ある日本の当局者は、日本列島からインドネシアへ連なる「第1列島線」の外側で、中国の空母2隻が同時に活動するのを見ることになるとは思わなかったと語った。そうしたことは昨年までなかった。

地域の連携強化に向けた努力にもかかわらず、西太平洋には侵略に対処するための強固な多国間枠組みがなお存在しない。

中国の軍事力は、日米およびその同盟国や友好的なパートナーが対応できるペースを上回って増強されている。日本では縦割り行政が経済安全保障など喫緊の課題への対応を鈍らせることも少なくない。目覚ましいスピードで対応力を高めている日本だが、それでも十分でない可能性がある。

3番目の課題は、日本政府の野心には大きな代償が伴うということだ。高市氏は財政健全性より安全保障を優先している。防衛支出を増やす一方で消費税減税も目指しており、財政規律への配慮を投げ捨てた形だ。

さらに、ペルシャ湾危機を受けたエネルギー補助金が財政を一段と圧迫している。日本政府は、防衛力強化の費用を最終的にどのように賄うのかについて明確な答えを持っていない。その結果、国債市場で投資家の反発を招き、高市政権の計画が頓挫するリスクもある。

第4の課題は、国家の存続に関わるものだ。日本の人口動態は極めて深刻な状況にある。2024年の合計特殊出生率は女性1人当たり1.1で、人口維持に必要とされる2.0を大きく下回った。

今後数十年で人口は急減し、経済への負担はさらに増すだろう。自衛隊が必要な人員を確保することも一段と難しくなる。

移民受け入れの仕組みは拡充されつつあるが、日本の均質的な社会には、新たな移住者を日本社会へ統合する文化が十分に根付いていない。短期的には、日本は地政学的な存在感を高めている。だが長期的には、深刻かつ破局的な退潮に直面している。

日本が力を持つ時代

課題は避けられない。中国の強硬姿勢と米国の攻撃的な振る舞いという二重の衝撃が、日本が繁栄してきた国際秩序を揺さぶっている。不安定な環境の中では、どの道に進もうとも危険をはらんでいる。しかし、日本のアプローチは現代のリアリティーに適応したものとなっている。

米国との関係を緊密に維持することは依然として不可欠だ。少なくとも当面の間、中国の力に対抗できる他の選択肢は存在しない。日本の対外関係を広げることも重要だ。

日本と友好的なパートナーが繁栄できる環境を維持するには、より大きな集団的な取り組みが必要になる。米国の後退に備えることは賢明だが、その可能性について大声で懸念を表明しても得るものは少ない。そして、米政府と公然と対立することに至っては、さらに利益が少ない。

日本の戦略は、動かし難い現実を直視している。同時に、最悪の未来にも静かに備えようとしている。これから訪れる危険な時代が、日本の力が強まる時代となるならば、日本と米国、そして世界の民主主義陣営にとって望ましい未来が開けるだろう。

(ハル・ブランズ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授です。シンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所」のシニアフェローで、マクロ・アドバイザリー・パートナーズのシニアアドバイザーも務めています。最近の著作は「The Eurasian Century: Hot Wars, Cold Wars, and the Making of the Modern World(ユーラシアの世紀:熱戦、冷戦、そして現代世界の形成)」です。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Japan Is the Superpower of the Middle Powers: Hal Brands(抜粋)

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