6月11日に開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)北中米3カ国大会で、国際サッカー連盟(FIFA)が猛暑にどう対応するのかに注目が集まっている。米国で昨年開催されたクラブW杯では、選手が危険な高温多湿環境でプレーを余儀なくされたためだ。

暑さによる選手への影響に焦点がこれまで当てられてきたが、本当に危険にさらされるのは観客、そして未来の選手たちだという現実を今大会は示すことにもなりそうだ。

本大会の開幕が迫り、米国とカナダ、メキシコにまたがる16会場それぞれで、どの程度の暑さリスクがあるのかが分かってきた。気候変動による異常気象への影響を評価する国際的な科学チーム「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」の分析によると、全試合の4分の1は湿球黒球温度(WBGT、暑さ指数)がセ氏26度を超える条件下で行われる可能性が高い。

この水準は危険と見なされ、頻繁な給水タイムが必要とされる。5試合ほどではWBGTが28度に達すると予想されており、米スポーツ医学会が試合の中止や延期を推奨するレベルだ。

調査に関わった研究者の1人は会見で、これらの数値を「保守的」と表現した。つまり、実際の状況はもっと悪くなる可能性がある。

FIFAは対応を

FIFAの暑さ対策は依然として明確ではない。気温に関係なく、前後半ごとに3分間の給水タイムを設けることは明らかになっている。昨年のクラブW杯では、国際プロサッカー選手会が介入した後にようやく、28度のWBGTで追加の飲水タイムが認められた。しかし、これらの対策はいずれも不十分だ。

選手らは苦戦を余儀なくされるだろうが、暑さに対応するためペース配分を行うとみられる。このため、試合のテンポは落ち、退屈な内容になる可能性の方が高く、医療上の緊急事態が多発するとは考えにくい。彼らは高い適応能力を持つエリート選手であり、サッカーは長距離走とは異なり、プレーが断続的に進行する競技だからだ。

むしろ、本当に危険なのは観客だ。サッカー選手などのトップアスリートは万全のコンディションにあり、医療専門家の厳格な監視下に置かれている。一方、観客はそうではない。W杯では、500万-700万人が現地で観戦すると見込まれている。

これほどの規模の観客になると、体力レベルや年齢層、既往症などは多様であり、暑さへの脆弱(ぜいじゃく)性も異なる。空調設備を持つ3会場のいずれかで試合が行われたとしても、観客は会場までの移動や長時間の待機、屋外ファンゾーンでの観戦を通じて暑さにさらされる。また、多くは高温時に推奨される対策を取らない可能性が高い。そもそも、ビールは水分補給に向いていない。

人々の安全を守ることは、それほど難しい話ではない。FIFAは水を容易に入手できるようにし、無料で提供すべきだ。スタジアム周辺やファンゾーンには冷却設備や日陰を設ける必要がある。また、暑さリスクや対処法について十分な情報提供も行うべきだ。しかし、FIFAは選手の安全すら十分重視しているとは言い難く、観客の健康が後回しにされても不思議ではない。

スポーツへの脅威

さらに見過ごされがちなのは、異常気象によるスポーツへの脅威が大型イベントにとどまらず、スポーツ参加そのものにも及んでいる点だ。子どもたちは冠水したグラウンドでサッカーを学ぶことはできない。猛暑では、安全にランニングすることも難しくなる。政府が気象災害対応へ資源を振り向けざるを得なくなれば、地域スポーツ支援に回せる資金も減る。

調査会社イプソスが2021年に実施したグローバル調査では、半数超が運動を増やしたいと答える一方、17%が主な障害として厳しい気象条件を挙げた。

世界経済フォーラム(WEF)の報告書によると、現在の傾向が続けば、身体活動不足の深刻化と気候変動、自然環境の悪化が複合的に作用し、スポーツ産業の年間売上高は2030年までに最大14%、金額にして5170億ドル(約82兆4000億円)減り、50年には減少率が18%に達する可能性がある。主因はスポーツ参加率の低下と関連用品需要の減少だ。

ケニアの7人制ラグビーのケビン・ウェケサ選手は英紙ガーディアンに対し、通常なら緑豊かなケニアの地域にある学校で無料ラグビー教室を予定していたが、「プレー不可能なほど乾燥したグラウンド」を見て中止せざるを得なかったと明かした。

生徒らは、そうした状態が数カ月続いていると話したという。子どもたちがラグビーボールを追いかけて走り回れなくなれば、未来のトップ選手はどこから生まれるのか。

非営利団体フットボール・フォー・フューチャーは、元イングランド代表主将デービッド・ベッカム氏やキリアン・エムバペ選手、リオネル・メッシ選手らがサッカーを始めた世界18地域について気候予測を分析した。その結果、50年までに、WBGTが32度の日数は45%増加し、同35度を超える日は150%増えると見込まれた。そのような環境でドリブル練習をしたいと思う人はいないだろう。

将来のスター選手候補だけでなく、一般のスポーツ愛好者すら安定して練習できなくなれば、スポーツの未来は暗い。だが、これは経済や健康の問題だけではない。体を動かすこと自体が楽しい行為だ。つまり、気候変動は安全や健康だけでなく、私たちの日常のささやかな楽しみさえも脅かしているのだ。

(ララ・ウィリアムズ氏は気候変動分野を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:A World Cup Problem That Could Disrupt All Sports: Lara Williams(抜粋)

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