トランプ米大統領はイランとの戦争終結に向けた交渉で、合意に近づいていると繰り返し表明している。しかし、トランプ氏は二つの相反する動きの板挟みとなっている。

具体的には、攻撃停止や経済制裁の緩和などを要求するイランと、同国の核開発プログラムや代理勢力への支援などを打ち切らせる取り組みを「最後までやり遂げる」べきだとし、少なくとも悪い合意に署名すべきではないと主張する共和党タカ派との間で、難しい立場に置かれている。

こうした相反する圧力により、これまでのところ戦争終結に向けた合意は実現していない。その結果、政権のメッセージも、合意が間近だとの期待を示す発言と、軍事作戦再開を示唆する脅しとの間で揺れ動いている。

事態を難しくしているのが、トランプ氏自身の過去の言動だ。今回最も打開につながる可能性が高いと考えられる案と類似した合意を巡り、過去の政権が署名したり検討したりしたとして、トランプ氏は激しく批判してきた。

現時点では、トランプ氏自身の行動が事態を一段と深刻化させている。イランの核開発計画や軍事力、ミサイル能力を標的とした一連の攻撃を経ても、同国はホルムズ海峡のへ支配力を維持している。その結果、エネルギー価格が急騰してインフレは加速し、11月に中間選挙を控えるトランプ氏への圧力が高まっている。

元米政府高官で、現在は戦略国際問題研究所(CSIS)の中東専門家、モナ・ヤクービアン氏は「こうした情勢が大統領に何らかの解決策を見いだすよう圧力を強めている要因だ」と指摘。その上で、「イランが結果的に優位に立ったように見えない形でそれを実現するのは至難の業だろう」と話した。

過去数週間の目まぐるしい展開は、この難題を浮き彫りにしている。米国とイスラエルは2月末にイランへの攻撃を開始。その後、イランがホルムズ海峡の事実上の封鎖を維持する中で、4月初めに停戦で合意した。

トランプ氏はその後数週間にわたり、合意は近く、イランは紛争終結を切望していると繰り返し述べてきた。だが、実際の解決には至っていない。先週後半には、双方が合意成立寸前にあるとの観測も広がったが、トランプ氏はイランの軍事施設などへの新たな攻撃を命じた。

トランプ氏は27日のホワイトハウスでの閣議で、悪い合意には応じないとし、「制裁緩和については全く議論していない。資金も何もない」と強調した。一方で、「彼らが適切に行動し、正しいことをすれば、彼らの資金を使えるようにする」と語った。

それからわずか数時間後、米軍はイランの軍事施設への空爆を実施し、自爆型攻撃ドローン4機を撃墜した。米当局者が明らかにした。不安定さを増す停戦をあらためて揺さぶる動きだ。

自縄自縛も

トランプ氏は政権1期目に、オバマ元大統領がまとめた2015年のイラン核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」を「史上最悪の合意」と批判して、離脱した。トランプ氏はJCPOAについて、「イランの体制の核活動に対する非常に弱い制限」と引き換えに「イランへの壊滅的な経済制裁」を解除したほか、中東各地の武装勢力に対するイランの支援を抑制できなかったと批判していた。

ホワイトハウスは現在、ホルムズ海峡の再開放を優先し、核問題やイランの通常型ミサイル計画、代理勢力への支援に関する協議を先送りする暫定合意を検討している。背景には、米国内で不満が高まるエネルギー価格の上昇を抑える短期的な圧力がある。

トランプ氏のタカ派寄りの政治的盟友の間では、戦争終結を急ぐあまり、大統領が不利な合意に応じる恐れがあるとの批判がある。また、イランへの経済的圧力を緩和するよりも、同国を攻撃して海峡を開放させる方が理にかなっているとの見方もある。

上院軍事委員会のウィッカー委員長(共和)は22日の声明で、「今はトランプ大統領のレガシーを決定づける局面だ」とコメント。「大統領の本旨はイランで始めた仕事を最後までやり遂げることにあるが、紙に書く価値もないような合意を追求するよう誤った助言を受けている」と批判した。

トランプ政権1期目に国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏は、トランプ氏が現在検討している合意について、オバマ元政権が15年の核合意で用いた「手法」に酷似し、「『米国第一主義』では全くない」と論じた。これに対し、ホワイトハウスのチャン広報部長はポンペオ氏について「愚かな口を閉じ、本当の仕事は専門家に任せるべきだ」と反論した。

ブッシュ(子)元政権で中東政策を担当した元ホワイトハウス高官で、現在はワシントン近東政策研究所(WINEOP)でマネジングディレクターを務めるマイケル・シン氏は、「トランプ大統領は右派からの批判に非常に敏感だ。大統領が共和党を極めて強く掌握していることを示してきた点を考えると、それはある意味では理解し難い」と論評した。

シン氏は「海峡を再開できなければ、トランプ氏がこの紛争で成功、勝利したと主張するのは明らかに困難だ」と述べた。

イラン側の交渉担当者は凍結資産へのアクセスも要求しており、ホルムズ海峡の再開と戦争終結で合意すれば、対イラン制裁緩和や資金供与につながる可能性がある。これもまた、トランプ氏自身が批判してきた事態だ。

トランプ氏は、23年10月7日のイスラム組織ハマスよるイスラエル攻撃の直前に、バイデン前大統領が捕虜交換の一環としてイラン資産60億ドルの凍結解除を承認したことを「無能で愚かだ」と批判していた。

トランプ氏は戦争開始以降、政権自体が盛り上げた期待感も克服しなければならなくなっている。米政府高官は一貫して、イランは合意を切望していると主張。ヘグセス国防長官は約2カ月前に「圧倒的勝利」を宣言していた。

元米政府高官で現在は米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のシニアフェロー、コリ・シェイク氏は「大統領の戦争遂行は、選択肢をエスカレーションか屈辱かに限定してしまった」と分析。「その両方を避けるため、彼は交渉を長引かせる公算が大きいと考えられる」と話した。

原題:Trump’s Bind Deepens With Hormuz Shut and Hawks Pushing War (1)(抜粋)

--取材協力:Catherine Lucey.

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.