米国では、人工知能(AI)技術の進展とほぼ同じ速度で、AIへの反発が拡大しているように見える。一方で、日本は対照的な例を示している。

日本のAI導入は遅れてきたが、異例なほど冷静に受け止められている。外から見れば、この出遅れはデジタル分野での低迷を示す新たな例と片付けられがちだ。だが、実際には、熱狂やリスク、高額な試行錯誤を伴った導入初期の混乱を飛び越える好機になる可能性がある。

日本は先行する国々から学び、AI技術を実際の経済インフラに落とし込むという、より重要な段階へ一気に進むことができる。ここでは、AIは話題性より実用性を重視する技術になり得る。労働力が縮小する中で、雇用喪失への不安も比較的小さい。高齢化社会への対応や言語の壁、ソフトウエア面の遅れといった日本の制約は、まさにAIが解決できる種類の課題でもある。

普及はようやく加速している。日本のAI導入率は今年1-3月(第1四半期)に3.4ポイント上昇し、世界平均の3倍超のペースだった。マイクロソフトのAIエコノミー・インスティテュートの第1四半期報告で明らかになった。NTTドコモの別の調査でも、今年2月の生成AI利用率は前年同月に比べてほぼ倍増した。

ハードウエアでは長く評価されながら、ソフトではそうではなかった日本で、エンジニアはAIを活用し、その差を縮めようとしている。マイクロソフトの報告によると、ソフトウエア開発プラットフォーム、ギットハブへの日本の開発者によるコード変更のアップロード数は1年前に比べて129%増と、世界平均の78%増を大きく上回った。AI支援ツールによって開発速度が増している可能性を示している。

世界のテクノロジー企業も注目している。日本では新たなスタートアップの波が起きており、サンフランシスコに本社を置くパープレキシティAIのドミトリー・シェヴェレンコ最高事業責任者(CBO)は、東京で最近開かれたイベントで、「われわれもそのストーリーの一部になりたい」と筆者に語った。米OpenAIやアンソロピックなども相次ぎオフィスを開設している。

もっとも、日本市場は依然として比較的閉鎖的で、海外勢に全面的に依存することには慎重さも残る。日本のAI変革に関わりたい企業は、長期的な利害関係者として振る舞うべきだ。現地人材を採用し、日本側と腰を据えた協力関係を構築する必要がある。これには大学や研究コミュニティーとの関係強化も含まれるだろう。

エデルマンの調査によると、日本で高い社会的信頼をなお維持している数少ない集団の一角が科学者だ。AI企業が日本で信頼を得ようとするなら、シリコンバレー型の誇大宣伝よりも、日本の大学や研究機関との連携を重視すべきだろう。

シェヴェレンコ氏の言葉を借りれば、「ここで成功できれば、極めて高品質なものをつくり上げたという、世界への本物のシグナルになる」。同氏の指摘通り、ユーザーの厳しい目は日本の強みだ。

勝者は全力疾走した者ではない

企業経営者は、AIがもたらす将来の理想像を語るよりも、目の前の現実的な課題解決に力を注ぐべきだ。シリコンバレーの売り込みが米国で以前ほど響かなくなっている理由の一つでもある。

日本では観光が典型例だ。AIは単にメニューを翻訳する以上のことができる。より効率的な旅行プランを提案し、観光客をなお必要としている地域に旅行者を誘導して混雑を緩和し、過去最高水準の訪日需要を過密地域以外に分散させることが可能だ。

日本政府は、世界で最もAIに友好的な国になることを目指し、比較的緩やかな規制アプローチを採用している。ただ、当局は後発であることの利点も認識すべきだ。日本は他国を観察し、学び、うまくいったものを取り入れることができる。これは特に、機械に大きな自律性を委ねるエージェント型AIのような高リスク分野で重要になってくる。

無論、これで成功が保証されるわけではない。日本の企業文化は依然として慎重であり、現在の消費者の関心がそのまま広範な変革につながるわけでもない。経営者や当局がスタートアップ支援を推進するのは正しいが、中小企業にもサポートの輪を広げる必要がある。また、中高年層の労働者は、AI利用率が低い水準にとどまる一方、労働力全体では大きな割合を占めている。

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、OpenAIに対する600億ドル(約9兆5000億円)規模の出資を通じ、AI分野に世界でも屈指の大胆な投資を行っている。それが先見性ある判断だったのか、それとも無謀だったのかは、まだ分からない。ただ、その時間軸は示唆に富む。後藤芳光最高財務責任者(CFO)は直近の決算説明会で、ここから30年を見据えていると述べ、AI革命は始まったばかりだと付け加えた。

日本にとって、この長期視点は正しい。現在の熱狂は、今すぐ巨額投資を行い、後で正当化するというFOMO(乗り遅れることへの恐怖)を生み出している。

しかし、AIが本当に変革的な汎用技術であり、単なるスマートフォン向け新アプリではなく、産業革命を後押しした蒸気機関に近い存在なのだとすれば、勝者は最初に全力疾走した者ではない。

AIを経済全体に最も深く浸透させるという、長距離走をやり抜いた者が勝つのだ。

(キャサリン・トーベック氏はアジアのテクノロジー分野を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。CNNとABCニュースの記者としてもテクノロジーを担当しました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:In the AI Race, Japan Is the Tortoise: Catherine Thorbecke(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.