(ブルームバーグ):日本のサラリーマンにとって「インドカレー」のランチはごちそうだ。マイルドなスパイスの料理が2、3品に、ほんのり甘くふんわりしたナンが食べ放題で付くのが一般的で、小さなサラダとドリンクも付く。それでいて約1000円と手頃な価格だ。
こうした「インド料理店」は全国に4000店以上あるとみられ、マクドナルドの店舗数を上回るが、その多くはネパール人が経営している。
だが、このカレーランチが危機に直面しているとの懸念が高まっている。24時間営業の居酒屋など、外国人労働力への依存を強める外食産業全体にも影響が及びかねない。すでにインフレの圧力にさらされている業界にとって、移民労働者・経営者はビザ(査証)制限によってさらに締め付けられている。
問題は二つあり、同時に進行している。一つ目は「経営・管理」ビザ規制強化だ。資本金要件が500万円から3000万円へ引き上げられるなど条件が厳格化され、多くのネパール人経営者はこうした条件を満たすことができない。
実態のないペーパーカンパニーを利用する不正なビザ取得阻止が目的だが、家族経営の外国人レストランにも打撃を与えていると危惧されている。この分野の倒産件数は昨年、30年ぶりの高水準となり、調査では20店に1店が閉店を検討していることが分かった。
同時に、飲食店が外国人スタッフを雇うことも難しくなっている。2019年に創設された「特定技能制度」はさまざまな業種に海外から労働者を受け入れる仕組みだが、外食分野では上限の5万人に達し、新規発給が停止された。
もともと価格に極めて敏感なこの業界はここ数年、とりわけ大都市で外国人への依存を強めており、それはネパール人経営のレストランに限らない。
これらが高市早苗首相の移民規制強化の結果だと思われるかもしれないが、いずれも以前の政権にさかのぼる問題だ。焦点は、高市氏がどう対応するかにある。ビザ枠の拡大や資本金要件の撤廃を政府に求めている企業もある。
誰かのコスト増に
ただし、対応は慎重さが求められる。国内有数の低価格外食チェーンである日高屋を展開するハイデイ日高の青野敬成社長の発言への反応を見れば明らかだ。外国人を採用できなければ、店は高校や大学の新卒に頼らざるを得なくなるとテレビ番組で述べたところ、日本人労働者を軽視しているとの批判がSNSで広がり、同社は謝罪に追い込まれた。
しかし現実には、これらの仕事を担う国内人材は不足している。少なくとも現在の賃金水準ではそうだ。賃上げコストは最終的に商品価格に転嫁され、ランチは値上がりすることになる。何かを犠牲にせざるを得ない。
この問題は一種の「トリレンマ」を示している。人口減少が進む日本は、安価な日常サービス、賃上げ、最低限の移民受け入れの3つのうち2つしか同時に維持できない。すべてを手に入れることは不可能だ。
失われた30年の大半で、日本は低価格と移民受け入れの抑制を選んできた。賃金は上がらなかったが、カレーが安い限り問題は小さかった。実際、生活の快適さが保たれていたことが社会の安定を支えていた面もある。
だが、景気回復や仕入れコストの上昇、人口減少が進む中で状況は変わりつつあり、日本は新たな選択を迫られている。オートメーションは生産性を高め得るが、労働集約的なインド料理店の仕事のどこまでを機械で代替できるのかは疑問だ。
さらに、日本の労働市場の構造も問題を複雑にしている。低賃金の仕事を外国人が担うことで日本人が高賃金職に移行しやすくなるはずだが、実際には雇用の流動性が低く、転職も少ない。状況は改善されつつあるが、他の先進国に比べれば依然として硬直的だ。
賃上げを実現するには、物価上昇(そして恐らくサービス低下)を受け入れるか、移民を増やす必要がある。ただし、日本のモデルは西側諸国で失敗した制度のようになる必要はなく、実際そうはならないだろう。
筆者が高市氏の不法在留取り締まりなどの政策を評価してきたのはこのためだ。断片的な戦略を見直せば、必要な労働力を受け入れつつ、定住する移民の統合に重点を移すことができる。
外食産業を巡る懸念は警告ではあるが、まだ危機ではない。経営・管理ビザの申請が95%減少したと報じられていることは、ペーパーカンパニー対策以上の影響が出ていることを示している。勤勉な起業家を締め出し、不要な閉店を招かないよう、制度を修正する余地は残されている。
日本は依然として手頃な価格のカレーランチを維持できる。しかし、そのためには誰かがより多くのコストを負担する必要がある。客か、雇用主か、労働者か、あるいは有権者かだ。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Japan’s Cheap Curries Face an Impossible Trinity: Gearoid Reidy(抜粋)
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