(ブルームバーグ):孤独な高齢者向けの人工知能(AI)コンパニオンは一見すると、どこかディストピア的に映る。イノベーションというより、社会の機能不全を示す暗い兆しのようにも感じられる。
筆者は先日、東京都内の介護施設で数日を過ごした。そこでは、人間の赤ん坊ほどの大きさのぬいぐるみ型ロボットが、入所する高齢者に手渡されていた。また、家族や地域社会のケアが行き届かない部分を補うことを狙った会話型人形の試作品も見た。
その場で思い出したのは、昨夏に祖母が他界した後、97歳の祖父にChatGPTの高度な音声モードを見せた時のことだ。祖父は強い嫌悪感を示し、作り物めいた陽気な声と会話する気はないと突っぱねた。
しかし、こうしたものに対する抵抗感は、より厳しい現実の前では揺らぐ。日本はアジアの多くの国と同様に高齢化が急速に進み、介護の担い手が不足している。政策当局がテクノロジーに活路を見いだそうとしているのも無理はないだろう。
日本では2040年までに、介護職員が現状と比べて57万人不足すると見込まれており、解決策の模索は一段と急務となっている。こうした中、AIの急速な進展を受け、介護用の対話型ロボットは有力な政策目標として浮上している。
ただ、AIコンパニオンは万能薬ではない。将来の介護に一定の役割を果たす可能性はあるが、より大きなリスクは、政府や企業がこれを口実に、介護を不可欠な社会基盤と位置付けるための本質的な改革から目をそらすことだ。具体的には、介護職員の賃上げ、自宅での生活を望む高齢者への支援、高齢になっても自立した生活を続けられるよう支える技術の活用などが含まれる。
産業オートメーションの分野で世界をリードしてきた日本は、介護ロボットの実用化にも長年取り組んできた。だが、大きな期待や注目、巨額の政府資金にもかかわらず、成果はまちまちだ。
こうした過去の取り組みの名残は、いまも現場で使われている。実際、筆者が訪れた施設の一つでは、ソフトバンクグループが生産を終了した「ペッパー」が、人間の担当者と並んで体操教室の進行役を担っていた。一部の入所者は、触れると鳴いたり反応したりするぬいぐるみ型ロボットに引きつけられているようにも見えた。
文化人類学者のジェームズ・ライト氏は、2023年の著書「ロボットは日本を救わない:高齢者介護自動化のエスノグラフィー」で、日本が多額の資金を投じて進めてきた介護の自動化は、しばしば想定外の結果を招き、場合によっては職員の負担を増やしたと指摘する。資金の多くは、別の用途に回した方がよかった可能性があるとも述べている。もっとも、同氏の現地調査の多くは、AIの衝撃以前に行われたものだ。
一般に言われているのとは異なり、日本ではロボットを友人として受け入れる考え方は広く浸透していない。21カ国を対象としたイプソスの調査でも、AIコンパニオンに「非常に期待している」と答えた人の割合は最も低かった。一方で、過去12カ月間にAIツールやアプリを利用していないと答えた人の割合は46%と最も高かった。
AIが業務の進め方を大きく変える可能性があるのは間違いなく、とりわけ介護施設ではその効果が期待される。ただ、AIの活用は、介護職員が入所者と向き合う時間を置き換えるのではなく、事務負担の軽減に振り向ける方が有効かもしれない。
ある介護施設では、AIコンパニオンへの期待が広がっていた。家族でも24時間付き添うことは現実的に不可能だ。そんな状況下では、ぬいぐるみと触れ合う方が、壁を見つめて過ごすよりは望ましいだろう。若者への影響が懸念されるチャットボットの作られた親しみやすさも、孤独な高齢者の認知的な関わりを保つうえでは有効かもしれない。
こうした試みはアジア全体に広がっている。韓国では政府主導の福祉プログラムを通じ、ChatGPTで会話するぬいぐるみ型AI機器「ヒョドル」が高齢者に1万4000台配布されている。中国では、一部の高齢者が取扱説明書の小さな文字を読み取るといった日常の不便に対応するため、字節跳動(バイトダンス)の「豆包(Doubao)」のようなAIツールを利用している。
テンセント・ホールディングス(騰訊)は先月、自社のAIチャットボット「元宝(Yuanbao)」で生活の知恵やレシピを相談する方法を高齢者に教える講座を200回以上開催したと明らかにした。中国政府は「シルバー経済」を新たな成長エンジンと位置付けており、大きな収益機会も見込まれる。
人手不足が深刻さを増す中、各国政府に残された時間は多くない。議論はしばしば、テクノロジーか移民かの二者択一として捉えられている。政策当局者、とりわけ日本の当局者は、人手不足を補うため外国人労働者の受け入れ拡大を進めるのが賢明だろう。ただ、それだけで持続的な解決になるわけではない。
これは、もはや日本だけの問題にとどまらない。2050年までに、経済協力開発機構(OECD)のほぼすべての加盟国は、人口の20%超が65歳以上となる「超高齢社会」に入る見通しだ。高齢化が進むアジアでの介護体制を巡る動きは、世界の多くの国が近く直面する圧力を先取りしている。
AIが私たちの生活のより身近かつ個人的な領域にまで入り込むなか、AIコンパニオンはその技術を良い方向に使おうとする試みに見える。しかし、それは数ある手段の一つにすぎない。本来は、高齢期の尊厳を守り、介護者の負担を軽減するというより大きな目的のもと、効果が期待できるあらゆる方策を講じるべきだ。
自動化にもなお役割はある。昨年公表された日本の介護施設に関する研究では、ロボットの導入が離職率の低下につながり、ケアの質向上にも関連していることが分かった。ロボットの活用により、職員は「人のぬくもりや共感、手先の器用さ」が求められる業務により多くの時間を割けるようになる。
ただ、調査で示された一つの事実が現実を突きつける。介護職の賃金は、最低賃金をわずかに上回る水準にとどまっているのだ。ロボットの実証にさらに多額の資金を投じる前に、賃上げを着実に進めることが次の政策として考えられる。それは、仕事そのものの尊厳と地位を回復するための、より広い取り組みの一環となる。
親や祖父母が年を重ねるなかで、AIコンパニオンがその生活に入り込んでくるのは避けられないように見える。問われるのは、それが人によるケアを支える有用な手段となるのか、それとも、それを放棄するための口実にすぎないのかだ。
(キャサリン・トーベック氏はアジアのテクノロジー分野を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。CNNとABCニュースの記者としてもテクノロジーを担当しました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:AI Is Coming for Our Aging Parents: Catherine Thorbecke(抜粋)
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