(ブルームバーグ):大西洋を航行していたクルーズ船で、呼吸器疾患などを引き起こす「ハンタウイルス」の集団感染が発生した。3人が死亡し、数人が重体となっている。
世界保健機関(WHO)は警戒を呼びかけており、ネズミなどげっ歯類由来のまれな感染症がこのような特殊な環境下でどのように拡大し得るのかを巡り懸念が広がっている。
発生は、アルゼンチンから欧州に向かっていた極地探検船「MVホンディウス」で起きた。重度の呼吸器症状が見られた乗客・乗員の一部は南アフリカとオランダの病院に搬送された。船内での感染経路は当局が調査中だ。
ハンタウイルスとは何か
ハンタウイルスはげっ歯類が保持するウイルス群で、ヒトに重篤な疾患を引き起こす可能性がある。株によって、肺に影響するハンタウイルス肺症候群や、腎臓に影響する腎症候性出血熱を発症する。
感染はまれだが重症化し得る。ハンタウイルス肺症候群の一部では致死率が最大40%以上に達する。
クルーズ船での集団感染で分かっていること
今回の集団感染は、南極や南大西洋の離島に寄港した航海で約150人の乗客を乗せていたホンディウスに関連している。最初に確認されたのは70歳の男性乗客で、発熱や消化器症状を発症し、船がセントヘレナ島に近づく中で死亡した。
69歳の妻も後に発症し、南アフリカの病院で亡くなった。5月2日にはドイツ人女性乗客が船内で死亡した。感染が確認された2人がヨハネスブルクとチューリヒで入院中のほか、5月6日に搬送された3人を含む疑い例が調査されている。
感染経路
主にげっ歯類からヒトへ感染する。通常は、げっ歯類の尿やふん、唾液で汚染された粒子を吸入することで感染し、閉鎖的または換気の悪い空間で起きやすい。汚染物質への接触や、まれに咬傷(こうしょう)でも感染する。
ヒトからヒトへの感染は極めてまれだが、南米で見られるアンデス型ハンタウイルスでは限定的なヒトからヒトへの感染が確認されている。今回のクルーズ関連では少なくとも2例でアンデス型が特定されており、濃厚接触者間での感染の可能性が示唆される。
こうした点から、通常は農村部や屋外でのげっ歯類との接触に関連することが多いこのウイルスが、船内という環境で集団発生した点は特異とされる。
症状
初期症状は発熱や倦怠(けんたい)感、筋肉痛、頭痛などインフルエンザに似る。吐き気、嘔吐(おうと)、腹痛を伴うこともある。
重症例では肺に体液がたまり、急速に呼吸不全へ進行することがあり、これがハンタウイルス肺症候群の特徴とされる。酸素投与や人工呼吸管理など集中治療が必要になる場合がある。
潜伏期間は暴露後、約1-8週間とされている。
なぜ懸念されるのか
ハンタウイルス感染はまれで、通常は孤発例が中心であり、船のような管理された環境での集団発生は珍しい。
感染がどこで起きたのかが焦点で、寄港地での上陸中か、船内かが問われている。発症までに数週間を要するため、乗客が発症前に移動している可能性があり、接触者追跡や封じ込めを難しくしている。
オランダ人夫婦は乗船前にアルゼンチンのウスアイアで埋め立て地を訪れた際に感染した可能性があると、調査に関与するアルゼンチン当局の話としてAP通信が報じた。
また、クルーズ船という閉鎖空間は、患者の隔離や搬送、感染拡大防止といった対応を一段と難しくする。
この疾患は昨年、俳優ジーン・ハックマンさんの妻ベッツィー・アラカワさんが米ニューメキシコ州でハンタウイルス肺症候群で死亡したことで広く注目を集めた。ハックマンさんは数日後に心疾患で亡くなったが、アルツハイマー病が一因と当局は説明している。
治療法やワクチン
特異的な抗ウイルス治療薬や広く利用可能なワクチンはない。治療は主に支持療法で、低酸素や臓器不全などの合併症の管理が中心となる。特に重度の呼吸器症状では、早期の医療介入が改善につながる。
今後の見通し
WHOは各国当局および船舶運航会社と連携し、医療搬送や乗客・乗員のリスク評価を含む対応を進めている。検査で新たな症例の確定や感染経路の解明が進めば、追加情報が公表される見通し。
原題:What Is Hantavirus and How Did It Kill Cruise Ship Passengers?(抜粋)
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