(ブルームバーグ):米メタ・プラットフォームズによる中国の人工知能(AI)スタートアップManus(マナス)買収について、中国政府が解消を命じたことを受け、中国発テック企業の重鎮である陳天橋氏が、自社の中国事業と米国事業を厳格に隔てる方針を打ち出した。地政学的緊張に対応するための、やむを得ない対応だという。
中国のオンラインゲーム業界の先駆者、陳氏が創業したミロマインドは、国境を越えた情報やコードの共有を禁止し、人員やデータ、資産の移動も最小限に抑えるプロトコルを導入した。陳氏によると、この決定は、メタによるマナスの買収発表後、中国の規制当局から問い合わせを受けたことを発端としている。
違法な技術移転の可能性を巡る数カ月の調査を経て、中国の国家発展改革委員会(発改委)は27日、マナスの買収取引の解消を命じた。中国政府は、国内有力AI企業への事前承認のない米国投資の流入を制限する動きも進めている。
陳氏のチームは3月、技術を一方的に国外へ移転しないよう当局から警告を受けた。陳氏は、各地域の事業をそれぞれ現地で完結させる内部のファイアウォール構想を説明したことで、問題は解決したとしている。
陳氏は先週、カリフォルニアの自宅からのオンラインインタビューで「これまでは中国と世界の人材を結集し、人類の未来に貢献できると考えていた。だが、マナスの件以降、完全なファイアウォールを導入せざるを得なくなった」と明かす。また、「正直なところ、このアプローチは自らの手足を切り落とすようにも感じられるが、現在の規制環境では必要な妥協だ」とも述べた。
陳氏は、マナスの買収の停止命令が出る前に取材に応じた。同氏は28日、当局の発表後も考えは変わっていないとして、方針を維持する考えを示した。
陳氏は中国で創業したが、2025年に本社と主要人員をシンガポールに移転している。
監視強化
マナスを巡る調査に加え、テック業界はオフショア上場や米国資本の投資を巡る監視の強化にも直面している。こうした圧力は、資金やユーザーを求めて米国や西側市場へ向かう志向の強い起業家が、国内事業を放棄する動きを加速させかねない。
ミロマインドがとる手法は、グローバル展開を目指す国内スタートアップにとって、一つの指針となる可能性がある。中国国内事業と海外事業を明確に分離することで、マナスを巡って生じたような規制の不確実性を回避しつつ、資金調達や国際事業の運営を可能にする狙いがあると、陳氏は語る。
マナス調査に関与している発改委と商務省は、ファクスでのコメント要請に応じなかった。
陳氏は、自身の盛大グループで「ディスカバラブルAI」と呼ぶ分野に総額20億ドル投資する方針で、そのうち1億ドルをミロマインドに投じている。
ミロマインドは、資産運用会社やエネルギーインフラ企業との取引を通じて収益が本格化しつつあり、今年後半に初の外部資金調達を始める見通しだ。シンガポール、東京、シアトルなどに拠点を置き、60人以上の研究者を抱えている。
審査前
マナス問題後の議論の核心は、同社が当局による審査を受ける前に、外国企業への売却を可能にする形で組織再編を行った点にある。
マナスはシンガポールで法人登記されているが、創業者は中国在住時に技術を開発していた。7月には中国拠点の従業員をシンガポールへ移し、その過程で数十人規模の人員を削減した。
ミロマインドの陳氏自身も、かつて米国資本の恩恵を大きく受けた人物だ。だが、現在の起業家には、それが一層困難になりつつある。
オンラインゲームのブームに乗り、盛大グループは2004年にナスダック上場で1億5200万ドルを調達し、陳氏は30歳で億万長者となった。その後、テンセントやアリババといった競合に押され、2012年に同社を非公開化し、投資会社へと転換した。陳氏は過去16年間、シンガポールやカリフォルニアで海外生活を送っている。
陳氏は「国際環境は極めて複雑だ。現在の地政学的状況では、企業は事実上、どちらかの側を選ばざるを得ない」と述べた。
原題:Chinese Billionaire Overhauls AI Startup After Warning on Manus(抜粋)
(詳細情報を加え更新します)
--取材協力:Fengjiao Mao.
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