(ブルームバーグ):中東紛争が2カ月余り続く中、ホルムズ海峡の航行は依然として大きく制限されており、アジア各国は重要なエネルギー供給の長期的な逼迫(ひっぱく)に直面する可能性がある。
各国政府はすでに、エネルギー価格抑制のための補助金拡充や燃料使用の制限、公務員への在宅勤務指示など政策手段を総動員している。代替の石油・ガス調達に向けて各国当局者が制裁下のロシアを含め世界各地を奔走しており、対応は財政負担を伴う。
こうした混乱は、アジア地域がいかに中東エネルギーに依存しているかを浮き彫りにしており、在庫の減少で台湾の半導体供給網から域内の主要食糧であるコメの収穫に至るまで、幅広い分野に影響を及ぼす可能性を示している。
ナティクシスのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「補助金や輸出規制、在宅勤務の義務化は当面の痛みを和らげるが、混乱が長引けばより深刻な問題を防ぐことはできない」と指摘。「政治的な応急措置で、短期的には人気があるが、財政コストがかさみ、市場をゆがめる」と述べた。
仮にホルムズ海峡が再開しても、回復には時間がかかる見通しで、アジア各国にとって財政基盤とエネルギー安全保障の強化が急務であることが改めて浮き彫りとなった。
ガルシア・エレロ氏は、戦争が長期化した場合の最悪のシナリオとして停電や食品・肥料価格の急騰、工場稼働の鈍化を挙げた。一方、海峡が再開されれば「アジア太平洋地域の回復は迅速で、物流の再構築や精製の流れの安定化には数週間程度」との見方を示した。
ローウィー研究所インド太平洋開発センターの主任エコノミスト兼ディレクター、ローランド・ラジャ氏は「紛争と高価格がどれだけ続くかに左右されるが、アジアの多くの国は長期間耐えられる余裕がない」と指摘。新型コロナウイルス禍や関税のような「ショックが相次ぎ、財政余力は急速に消耗する」と述べた。
以下は、燃料逼迫に対する各国のこれまでの対応の概要。
中国
世界最大の原油輸入国で、イラン産原油の最大の購入国でもある中国は、長年にわたる供給源の多様化により影響を抑えている。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によると、最大14億バレルとされる国家備蓄には手を付けていないが、国有精製企業に商業在庫の一部利用を認めた。
エネルギー価格統制を導入し、民間精製業者に対してはコストにかかわらず2025年水準の生産維持を指示したとされる。事情に詳しい関係者によると、国有航空会社への支援も検討した。石炭からガスへの転換プロジェクトも再開している。十分な在庫を背景に、中国のタンカーはベトナムやフィリピンなど近隣国へ軽油などを供給しているとみられる。

インド
世界3位の原油輸入国であるインドは、供給確保を急いでいる。5月と6月にベネズエラ産原油約1600万バレルを受け入れる予定で、米国の制裁緩和措置を受けてロシア産原油を国営精製会社が大量に確保した。
軽油や航空燃料の輸出税を引き上げたが、航空燃料価格の倍増はすぐに見直しを余儀なくされた。国営石油会社には国内価格の安定維持が指示され、ガソリンスタンドでの広範な値上げは回避された。ただ、国内貨物の約70%を担うトラック業者の一部は軽油の配給制に直面していると報告している。
シンガポール
化石燃料の約60%を液化天然ガス(LNG)の海上輸送に依存するシンガポールは、中南米やアフリカから調達を進めるとともに、発電事業者に軽油備蓄の確保を義務付けた。10億シンガポールドル(約1250億円)の支援策を打ち出し、減税や生活費支援を拡充。官公庁では空調設定を25℃以上とし、不要な機器の電源オフも義務付けた。世界初の持続可能な航空燃料(SAF)税の導入は10月1日まで延期した。
オーストラリア
オーストラリアは主要エネルギー輸出国ながら、精製燃料の備蓄が先進国で最も少ない国の一つ。燃料税の半減や売上税引き上げの停止などの対策を講じ、影響を受けた企業向けに10億豪ドル(約1150億円)の無利子融資を実施。軽油規格の緩和や備蓄放出も行った。
アルバニージー首相は公共交通機関の利用や買いだめの自制を呼びかけ、一部の州では公共交通を無料化した。国内2カ所の石油精製事業所のうち1カ所で火災が発生する前から、米国やメキシコからの調達など供給源の多様化を進めている。首相は韓国、ブルネイ、マレーシアから追加の軽油を確保するためアジアを歴訪した。
日本
石油の90%以上を中東に依存する日本は、戦争の影響を受けやすいが、湾岸地域からのLNG依存低減にも取り組んできた。ガソリン補助金を導入し、国家備蓄や民間在庫を活用。非効率な石炭火力発電所の稼働を4月から1年限定で増やし、東京電力の原発再稼働と合わせて、ホルムズ海峡経由のLNG輸入の約40%を代替できる見通しだ。ガソリン価格の不当な引き上げへの取り締まりも強化している。

また、国内供給の強化と並行し、東南アジアの石油調達や重要サプライチェーン確保を支援するため100億ドル(約1兆6000億円)の金融支援を表明した。
マレーシア
マレーシアは巨額の補助金を投じ、ガソリン価格を対象ドライバー向けに1リットル当たり1.99リンギ(約80円)と世界屈指の低水準に維持している。イラン戦争開始以降、月18億ドルの負担が生じており、より対象を絞った補助制度への見直しが検討されている。
密輸対策として100カ所以上の給油所に警察を配置し、国民1人当たりの月間燃料購入上限を200リットルに引き下げた。4月15日から公務員の在宅勤務も義務付けた。バイオディーゼル混合率の引き上げや供給源の多様化も計画している。アンワル首相は燃料価格を巡る偽情報の取り締まり強化を求めた。
タイ
田植えの時期を控え、タイはオマーンからの燃料やロシアからの肥料の確保に向け交渉した。37億バーツ(約182億円)の支援策と、クリーンエネルギーや農家、企業向けに総額1350億バーツの融資制度を承認。燃料密輸の取り締まりを強化し、買いだめや価格操作の調査を指示した。
フィリピン
燃料の98%をペルシャ湾から輸入しているフィリピンはショックに極めて脆弱(ぜいじゃく)だ。卸電力スポット市場の一時停止や、一部産業に対する旧式燃料(ユーロ2規格)の使用容認などの緊急措置を講じた。燃料補助や無料乗車、鉄道運賃割引を実施し、輸入コメ価格の上限設定も提案。マルコス大統領は不足国に需要の最大10%の燃料を供給する2009年の地域協定の発動を東南アジア諸国に呼びかけた。
パキスタン
パキスタンはここ数年で最悪のエネルギー危機に直面しており、地方では最長14時間の計画停電が続く。政府は1日2時間の停電や週4日勤務、公用車の燃料配分半減など緊縮策を実施。燃料節約のため、クリケット観戦も自宅で行うよう呼びかけた。補助金を廃止し、ガソリンや軽油価格を引き上げた。
同国はLNGのほぼ全量をカタールから調達しているが、3月以降は供給が途絶え、2年以上ぶりに高額なスポット市場での調達を余儀なくされている。イランと米国の仲介役を担う一方で、外貨準備の補強に向けて国際通貨基金(IMF)から12億ドル、サウジアラビアから30億ドルの支援確保を進めている。
原題:How Asia-Pacific Is Fighting a Fuel Shock That Could Get Worse(抜粋)
--取材協力:Rosalind Mathieson、Rakesh Sharma、小田翔子.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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