〈VIX指数が低下したことで市場はヘッドラインへの反応が大きくなっている〉

2026年4月23日の米国市場は、米国とイランの戦闘終結に向けた交渉が難航しているとの見方から、悲観的な見方が強まった。

また、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡を許可なく航行したとして船舶2隻を拿捕したとされ、ホルムズ海峡の解放への期待感が低下し、原油価格が上昇した。

これらの動きはイラン側の足並みがそろっていないという印象を与え、先行きの不安感を高めることになった。

ダウ平均は一時600ドルを超えて下げる局面があり、楽観的な動きは一巡したようである。

他方、SOX指数が17日続伸したことが注目されているが、先行き不透明感が強い中でややディフェンス的にハイテク・AIという長期的なテーマに沿って動いている半導体関連株が選好されやすいのだろう。

むろん、米経済がリセッションに陥るような連想が高まれば、半導体関連の業績にも悪影響を与える可能性があるが、リセッションを警戒するほどの悲観論は少ないことから、半導体関連株やハイテク関連株にはちょうど良い相場環境なのだろう。

もっとも、イランと米国の交渉が難航するという不安材料は、今に始まったことではない。

4月前半にほぼ一貫して上昇してきたダウ平均が足元で伸び悩んでいる背景は、イラン情勢そのものの変化ではないだろう。

株価の水準がイラン情勢の悪化前に近づいたことに加えて、VIX指数がイラン情勢悪化前の水準まで低下したことが大きいとみられる。

VIX指数が高いときには、そもそも市場参加者が考える不確実性が高い状態にあるので、多少の悪材料が出ても織り込み済みであると捉えられるが(市場への影響は限定的)、VIX指数が低い状況では新たなヘッドラインに対する市場の反応が大きくなりやすい。

イラン情勢を巡る状況が大きく変わったのではなく、市場側の受け取り方が変わっているだけであると、状況を冷静に捉える必要がある。

〈長期のインフレ予想が直近のピークを上回って上昇〉

4月23日の債券市場は、原油高が進んだことで、金利が上昇した。

長期金利は前日差+2.2bp、2年金利は同+3.6bpだった。長期金利の上昇を主導したのはインフレ予想だった。

長期のインフレ予想(BEI)は同+3.7bpと上昇し、約2.43%となった。この水準は3月18日につけた約2.42%を超え、25年8月以来の高水準である。

原油価格が上昇したことがインフレ予想を押し上げるという流れに違和感の余地はないが、WTI原油先物価格が100ドルを超えた3月下旬から4月上旬よりもインフレ予想が高くなっていることについては、説明が必要である。

足元でインフレ予想が上昇し、それによって名目金利が上昇している重要な背景は、リスク回避的な動きが一巡したことだろう。

当初は、原油価格が上昇して短期的なインフレ懸念が強まっても、先行き経済への不安感も同時に高まり、長期のインフレ懸念にはつながりにくかった。

例えば、5年後5年のフォワードBEIは2月末に2.15%程度で推移していたが、イラン情勢への悲観論が強まった3月下旬には約2.07%まで低下した。

4月に入り、イランと米国の交渉が(紆余曲折がありながらも)進む中、この数字は上昇して足元では約2.21%となっている。

米国経済に楽観的な見方が生じるのと同時に、原油高などのインフレ要因が生じると、長期的なインフレ懸念につながりやすい。

経済に対する悲観論があった3月と比べ、楽観論も同居している足元の方が長期的なインフレ予想は上がりやすく、金利上昇リスクが高いと言える。

〈「モラルハザード⇒長期のインフレ予想上昇」はFRBの因果応報〉

イラン情勢悪化後の経済指標が十分に揃う前に長期のインフレ予想を押し上げるような楽観論が強まることを、筆者は予想することができなかった。

これだけ早く楽観論が台頭した要因として考えられるのは、株価の急速な回復である。

そして、経済指標が揃っていないのにもかかわらず株価が急速に回復した背景を考えると、株高に乗り遅れる恐怖「FOMO(Fear Of Missing Out)」という考え方が強かったと言わざるを得ない。

では、なぜFOMOと言われる動きが生じるのか。

ウォーシュ次期FRB議長に尋ねれば、FRBのバランスシートが大きすぎること(市場に流動性を供給し過ぎていること)と答えるのだろう。

この問いに対して、筆者は過去にFRBが市場を救うことを繰り返したことの経験(モラルハザード)が市場参加者の成功体験になり、FOMOと言われる動きにつながっているとみているが、モラルハザードの代表例が資産買入れ(=バランスシートの拡大)だと考えると、基本的なアイデアはウォーシュ氏と同じである。

このように考えると、FRBがもたらした市場のモラルハザードが市場に楽観論をもたらし、長期のインフレ予想を押し上げ、FRBを悩ますという因果応報という構図になっていると言える。

足元では株価の上昇も一巡していることから、今後は楽観論がやや落ち着いてくると筆者はみているが、SOX指数が連騰している事実などを考慮すると、上記の因果応報によってFRBが想定していた利下げを実施できなくなるリスクは相応にありそうである。

「ノーフリーランチ」という言葉で説明できる動きである。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)