トランプ米大統領は21日朝、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、在任1期目にアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)から初めて電話を受けた時のことを振り返った。クック氏は当時、CEO就任から5年を経ており、トランプ氏にしか解決できない企業上の大きな課題に直面していたとされる。

トランプ氏は世界的企業のトップから電話を受けたことに即座に心をくすぐられたと記している。「私は『ワオ、ティム・アップル(クック!)から電話が来た、これはすごいことだ』と言った」と振り返り、「アップルのトップが私に『へつらう(kiss my ass)』ために電話してきたことに非常に感銘を受けた」とコメントした。

アップルは20日、ハードウエア責任者のジョン・ターナス氏が9月にクック氏の後任としてCEOに就くと発表した。クック氏の15年に及ぶ在任を巡る回顧では、オペレーション上の卓越した成果や前任のスティーブ・ジョブズ氏との比較に基づく製品ビジョン面での苦闘に焦点が当たりがちだ。

しかし、ワシントンでの外交的手腕もクック氏が残すレガシーの中核を成す要素と言える。巧みな政治対応により、アップルはサプライチェーンの危機や貿易戦争、そしてトランプ氏が期待する忠誠にも対処してきた。

ターナス氏(ニューヨークでのイベントで、3月)

トランプ氏がホワイトハウス入りした当初、両者は政治的に対立しているように見えた。クック氏は2016年の大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補を支持しており、アップルは製造を中国に委託する米企業の典型例でもあった。

これは製造業の国内回帰を掲げたトランプ氏にとって問題視すべき点だった。それでもクック氏は最初の電話で新しい大統領を巧みに説得し、その後に起こる浮き沈みの中でアップルを守る関係を築いた。トランプ氏によれば、「それが長く非常に良好な関係の始まりだった」。

クック氏はトランプ氏の長女イバンカ氏や娘婿ジャレッド・クシュナー氏とも親しい関係を築いた。ホワイトハウスでのCEO会合や夕食会、ニュージャージー州のゴルフクラブでの会合にも参加した。

2018年まで国家経済会議(NEC)委員長を務めたゲーリー・コーン氏は以前、クック氏が4-6週間ごとにワシントンを訪れていたと語っていた。他のテクノロジー企業の経営者より頻繁だったという。

「どこで協力できるかを見極めることを自身の課題にしていた。私たちの夕食会ではアップルの関税や技術の話ばかりではなく、75%は人生の話だった」そうだ。

会長就任後

クック氏の外交の要諦は、トランプ氏との良好な関係を保つために表面的な経済的成果を与えることにあった。

例えばトランプ氏は2017年、クック氏が米国内に「3つの大工場、美しい工場」を建設すると私的に約束したと誇示したが、これは事実ではなかったものの、「MAGA(米国を再び偉大に)」派の支持者を喜ばせる見出しを飾った。

トランプ氏は2019年にはアップルがテキサス州オースティンに置く組立工場を視察後、同社にこの主要製造拠点の開設を促したと主張したが、この工場はすでに6年前から稼働していた。

後にホワイトハウスの開示文書で、クック氏が同工場で生産された6000ドル(約100万円)の新型「Mac Pro」1台をトランプ氏に贈っていたことも明らかになった。

アップルは主に関税の適用除外という形で見返りを得た。こうした構図は、トランプ氏の政権2期目にも続いている。クック氏は昨年8月、ホワイトハウスの大統領執務室で、名前を刻んだガラス製のプレートを24カラットの金の台座に載せてトランプ氏に贈呈し、米国内生産を掲げる同氏の方針へのコミットメントを示した。

このガラスはケンタッキー州にあるアップルの提携先の生産ラインで製造されたものだ。クック氏はまた、個人として100万ドルを2025年の大統領就任式委員会に寄付した。

もっとも、代償もあった。公民権運動指導者マーティン・ルーサー・キング・ジュニアを敬愛してきたクック氏は、連邦移民当局の銃撃事件などトランプ政権の物議を醸す政策に対し、十分な反対姿勢を示していないとして社内から批判を受けている。

今年1月に発生したある銃撃事件の夜、クック氏はホワイトハウスでメラニア大統領夫人に関するドキュメンタリーの上映会に出席していた。

ターナス氏は9月にCEOに就任しても、直ちにアップルの対政府窓口としての役割を引き継ぐ必要はないとみられる。グーグル在籍時のエリック・シュミット氏のように、他のテック企業でも政治的に敏感な問題を扱うためワシントンに精通した人物を置くケースがある。

ブルームバーグ・ビジネスウィークは先月、クック氏の執行会長としての主要な役割の一つが今後もこうした対応になるとアップルの社内関係者はみていると報じた。

トランプ氏はクック氏の実績を高く評価し、今後の役割にも期待を示した。「ティム・クックは驚異的で比類なきキャリアを築き、今後もアップルのために素晴らしい仕事を続けるだろう」と投稿し、「とにかくティム・クックはすごいやつ(incredible guy)だ!!!」と称賛した。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:Cook’s Show of Trump Fealty Is Important to His Apple Legacy(抜粋)

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