(ブルームバーグ):トランプ米大統領は先に、次期連邦準備制度理事会(FRB)議長にケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名した。5月15日で任期満了となるパウエル議長の後任となる。新議長は通常、厳しい審査にさらされるものの、権限移行はほぼ例外なく円滑かつ大きな波乱なく進む。だが今回は事情が異なる。
FRB議長就任には上院本会議での承認が必要で、ウォーシュ氏は21日、最初の関門として上院銀行委員会の公聴会で証言する予定だ。しかし、現時点では同委での承認は阻まれている。障害となっているのは野党民主党の反対ではなく、同委メンバーの1人で、与党共和党のティリス議員による就任阻止の姿勢だ。
ティリス氏はパウエル議長や連邦準備制度に対するトランプ氏の対応を強く批判している。こうした状況は前例がなく、トランプ氏のパウエル議長への執拗(しつよう)な攻撃姿勢が皮肉にも、パウエル氏の在職期間を長引かせる可能性がある。
ティリス議員は何を問題視しているか?
連邦準備制度は中央銀行として、政治的圧力やホワイトハウスの干渉から独立して運営することとなっている。ただトランプ氏は政権2期目の発足当初から、パウエル議長に大幅な利下げを繰り返し迫ってきた。
連邦準備制度は労働市場の悪化防止を目的に一定の利下げを実施してきた。それでも、トランプ氏は満足していない。
トランプ氏は住宅ローン不正の疑惑を理由にクックFRB理事の解任も試みている。クック氏はこの疑惑を否定して政権を相手取り提訴し、この係争は連邦最高裁で審理中だ。
このほか司法省は、首都ワシントンにあるFRB本部の改修事業を巡り、パウエル議長が昨年6月の議会証言で虚偽の説明を行ったかどうかについて刑事捜査を開始した。
トランプ氏からの度重なる批判を冷静に受け流してきたパウエル議長も、司法省がFRBに大陪審への召喚状を送付したのを受け、この捜査は金利を巡るトランプ氏の不満が動機だと反論した。これまでのところ裁判所も同様の判断を示し、召喚状送付は不適切な動機を反映するものだとして退けた。
複数の共和党議員も、パウエル議長が法令に違反したとは考えておらず、捜査は打ち切るべきだとの見解を示している。ただ、トランプ氏の支持を受ける担当検察官は上訴し、捜査を継続する方針を示している。
来年1月に議員を引退するティリス氏は、ウォーシュ氏の指名自体は支持する一方、司法省の捜査が打ち切られない限り承認手続きを本会議に前進させない考えを示している。上院で共和党は多数派ながらも民主党との差はわずかで、銀行委の勢力もティリス氏の反対を覆してウォーシュ氏の就任を承認するのに十分な票数には満たない。
ウォーシュ氏が5月15日までに承認されない場合、どうなるか?
双方が譲らなければ、FRB議長のポストは5月16日に空席となる。連邦準備法によれば、議長が不在の場合、理事会の副議長が会合を主宰する。ただし多くの法律専門家は、これは職務の空席ではなく、あくまで本人が物理的に不在の場合を指す規定だとみている。
今回のケースでは、パウエル氏は既に「議長としての任期満了までに後任が承認されなければ、承認されるまで暫定的に議長を務める」とし、自身が臨時議長を務める意向を示している。
パウエル氏は5月15日を最後にFRBを去るのではないか?
必ずしもそうではない。パウエル氏のFRB議長としての4年の任期は5月15日に満了となるが、理事としての14年の任期は2028年1月末まである。FRB議長は7人で構成される理事会の一員でもある。このため、同氏は今後約2年間、理事として在任し続けることが可能だ。
実務上は、議長任期の満了に伴い理事職も辞して組織を去るのが通例だが、パウエル議長は3月、「捜査が完全に終結し、透明性を確保して最終的に決着するまでは、理事会を離れるつもりはない」と語った。これにより、同氏が臨時議長としてとどまる余地が生じている。
トランプ氏はパウエル氏が暫定的に議長を務めるのを阻止できるか?
トランプ氏がパウエル氏の留任を阻止できるかどうかは、完全には明確ではない。
パウエル氏は、自らの主張を裏付ける根拠として、連邦準備法の二つの規定を挙げることができる。第1に、FRB理事の任期が満了した場合でも、「後任が任命され資格を得るまでその職務を継続する」と法律に定められている点だ。一部の法律専門家は、この考え方が議長にも当てはまるとみている。
第2に、法律では理事会に対し、そのいかなる権限についてもメンバーの1人に委任することを認めている。このため理事会は、通常議長に与えられる権限を伴う形で、パウエル氏を臨時議長に選任することが可能となる。公の発言を踏まえると、ウォーシュ氏の承認が間に合わない場合に備え、パウエル氏が臨時議長としての地位を主張する上で、既に理事会の過半数の支持を得ていないとは考えにくい。
一方でトランプ氏は、別の理事を議長代行に指名する権限を主張する可能性がある。これはFRB議長の空白が生じる可能性があった1978年に司法省がまとめた法的見解でも示唆されている。当時はカーター大統領が、G・ウィリアム・ミラー氏の承認・就任までの間、退任予定だったアーサー・バーンズ議長を「議長代行」に指名した経緯がある。
ただこれらは全て、FRB議長の指名に上院による個別承認が必要となる法改正以前の出来事だ。1979年1月1日以前は、大統領が承認済みの理事の中から昇格させることで議長の空席を埋めることが可能で、理事を議長代行に指名することは大統領の権限の範囲内とされていた。だが、その後の承認要件の追加により、この手法は阻まれると考えられる。
トランプ氏はパウエル氏を解任することができるか?
トランプ氏は実際、パウエル氏の解任について公に言及しており、4月15日には、同氏が「予定通り」にFRBを去らなければ解任すると警告した。連邦準備法は、大統領に理事の解任権限を明示的に付与しているが、それは「正当な理由」がある場合に限られる。過去の事例では、不正行為や職務怠慢などがこれに該当すると解釈されており、裁判所もそのハードルを極めて高く設定してきた。
現在の連邦最高裁は、過去の判例よりも政府機関トップに対する大統領の権限を広く認める姿勢を示しているが、同時にFRBについては「独特の構造を持つ準民間的な組織」との認識も示している。
FRB本部改修を巡る捜査では、刑事訴追の根拠は言うまでもなく、召喚状の正当性すら司法省が示していないとして、判事が批判している。また、クック氏を巡る訴訟でも、最高裁は大統領によるFRB理事の解任を容易にすることには慎重な姿勢をあらためて示している。ただ最高裁は実体的な論点や、訴訟継続中のクック氏の在任を認めた下級審判断については、いずれも最終判断を下していない。
これら全てが金融政策に及ぼす影響は?
司法省の捜査が打ち切られない限り、パウエル氏は理事会を主導し続ける可能性が高いだけでなく、連邦準備制度の金利決定機関である連邦公開市場委員会(FOMC)の議長も引き続き務める公算が大きい。
FOMCは19人で構成され、7人のFRB理事全員と12地区連銀の総裁が参加する。理事と総裁5人(ニューヨーク連銀総裁は常任の投票権を持ち、それ以外の4人が輪番で入れ替わる)が、年8回の会合で金利やその他の金融政策について議決権を持つ。また、議決権を持つメンバーは毎年最初の会合でFOMC議長を選出するが、この手続きは形式的な意味合いが強く、慣例的にFRB議長がそのままFOMC議長も兼ねることになっている。
FRB議長が空席の場合やパウエル氏が臨時議長となった場合、誰をFOMC議長に選出するのか?
FOMCは1月、2026年通年の議長にパウエル氏を選出した。FOMC副議長でニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、ブルームバーグテレビジョンのインタビューで、新たなFRB議長が上院で承認されれば、FOMCは正式にその人物を新議長に選出することを明確にした。
しかし、それがパウエル氏のFRB議長としての任期満了後初の会合となる6月16、17日のFOMC会合までに実現しなければ、現状が維持される見通しだ。パウエル氏がFOMC議長にとどまることになる。
FOMC議長は独断で決定を下す立場ではなく、12票のうちの1票を持つに過ぎない。ただ、金融政策を巡る委員会のコンセンサス形成で中心的な役割を担う。また、委員会全体を代表して発言できるのは議長のみだ。このため、ウォーシュ氏の承認が間に合わなければ、6月17日の会合後の記者会見で演壇に立つのはパウエル氏となる。
これら全てが決着するのはいつか?
トランプ氏が司法省の捜査打ち切りを指示すれば、この対立をいつでも解消できる。その場合、ウォーシュ氏は主に党派に沿った表決で上院の承認を得る公算が大きいが、一部の民主党議員の支持も見込まれる。
トランプ氏が譲らなければ、ティリス氏の議員任期が終了する来年1月以降、上院がウォーシュ氏の承認をあらためて審議する機会を得る。
だが、民主党が11月の中間選挙で上院の多数派を奪還し、トランプ氏のFRB人事を全て阻止するリスクもある。その場合、トランプ氏が金融政策への新たな影響力を確保する道は閉ざされる。
原題:How Trump’s Fed Drama Might Extend Powell’s Tenure: Explainer(抜粋)
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