「人の売り見て我が売り直せ (元句:人の振り見て我が振り直せ)」
後から振り返ると、バブル相場の天井はバカみたいに高く、暴落時の底値は恐ろしく低いが、価格が付いたということは売買の成立した証拠であり、当然のことながら高値で買った人や安値で売った人が存在する。
このように相場が大きく上下動する原因の一つは、「相場が上昇すればするほど自信を深め、相場が下落すればするほど不安がつのる」という行動経済学の「確証バイアス」であり、上昇すると嬉しくなって高値を買いたくなり、下落すると怖くなって安値を売りたくなるのが人間心理というもの。
しかし、理屈で説明できないようなバブルの高値や暴落時の安値の場合は、確証バイアスと「横並びバイアス」の合わせ技で起こるケースが多いと思われる。横並びバイアスとは、「周囲の多くの人がとっている行動に追随してしまう傾向。もしくは、周囲の多くの人と逆の行動を選べない傾向」であり、世界のエスニック(国民性)ジョークを見ても、日本人は横並び意識が強いと言われている。
たとえば、バブル発生時の場合、相場上昇の中で確証バイアスを背景に個々人の買いが増えると同時に、横並びバイアスで購入者のすそ野も拡がる結果、市場に大量の資金が流れ込む。その後も「相場上昇→資金流入→相場上昇」の繰り返しが続くと、相場はとんでもない高値に上昇するが、周囲の多くの人が買っている時、一人だけ売るのは相当な勇気と根性が必要になる。
この確証バイアスや横並びバイアスは、そもそも人間に備わっている非合理的な行動パターンと思われ、その証拠に、江戸時代の米相場の頃から関連する多くの相場格言が伝承されている。言い換えると、米相場の時代から現代の投資まで、失敗パターンは意外と変わっていないのかもしれない。
相場格言①「大衆は常に高値を買い 安値を売る」の原因は、確証バイアスと横並びバイアスの合わせ技であり、勢いのついた相場は往々にオーバーシュートしてしまう(②「行き過ぎもまた相場」)中、急上昇の後は暴落の可能性に注意(③「山高ければ谷深し」)。
このようなジェットコースター相場の高値や安値を正確に予想することは至難の業であり、ほどほどの水準で満足する我慢が大切(④「頭と尻尾はくれてやれ」)。また、⑤「人の行く 裏に道あり 花の山」や⑥「幽霊と相場はさびしい方に出る」のように、相場格言は皆と逆の投資行動を勧めているが、このような相場格言を知っていても横並びバイアスに逆らうのは容易でない。
我々は多くの人が同じ行動をしていると安心しがちであるが、多くの人だからと言って正しいとは限らない。残念ながら、相場格言の勧める天邪鬼な投資行動は難しいが、多くの人々が同じ方向に突っ走っている時こそ立ち止まり、冷静になることが重要なポイントと思われる。つまり、「人の振り見て我が振り直せ」ならぬ、「人の売り見て我が売り直せ」なのである。
情報提供、記事執筆:三菱UFJ信託銀行 トラストファイナンシャルプランナー 荒 和英