戦争と歴史的なエネルギーショックは、金融安定リスクとして比較し難いものだ。

だが、アンソロピックが開発した未公開の人工知能(AI)モデル「Mythos(ミトス)」は、約80年前に国際経済の調和促進を目的として設立された2つの機関に集まった政策当局者らの議論に、不安を一段と強める要因となった。

国際通貨基金(IMF)と世界銀行の春季会合では、中東の軍事衝突が議論の中心を占め、各国政府は危機対応計画の再点検や可能な範囲での協力、財政・金融手段による需要下支えを求められた。一方、ミトスについては答えよりも疑問の方がはるかに多かった。

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は14日にブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、ミトスの破壊的な潜在力に言及し、「もし誤った手に渡れば、本当に深刻な事態になり得る」と語った。他の中銀総裁や財務相、規制当局者、投資責任者らも同様に、脅威と防御策に関する情報を探っている。

この問題の大枠が公の場に浮上したきっかけは、ボットが自律的にサイバー攻撃を仕掛ける新時代の到来を告げるAIモデルが近く登場すると警告するためベッセント米財務長官がウォール街の銀行首脳らを招集したとブルームバーグが報道したことだった。

ベッセント長官は15日にCNBCに対し、「強靱(きょうじん)性の増強に向け、全員が同じ方向に向かっていると確信している」と語った。

だが、米国外では、この会合の緊急性が高いと受け止められたことで、高官や銀行関係者の間に警戒感が広がった。従来のサイバー防御を突破し、金融システムを未知の脅威にさらしかねない技術への不安が一部で強まっている。

イングランド銀行(英中銀)のベイリー総裁は、今週初めにニューヨークのコロンビア大学で開催されたイベントで、「湾岸地域の出来事が現在の世界における最大の課題だと考えるのは当然だ」が、「アンソロピックがサイバーリスクの世界全体を打破する手段を見つけた可能性に気付いたとき」には、考えは一変すると指摘した。

主な疑問点

ベイリー総裁ら金融安定の専門家が直面する課題は、脅威の実態を十分に把握できておらず、長年警告してきたサイバーセキュリティーリスクの深刻化について、ミトスがどれほど大きな前進を意味するのか理解できない点にある。

ミトスは銀行口座の大規模な不正引き出しや国際決済システムのまひ、さらには金融システムの根幹である信頼を揺るがす危機を引き起こすのか。すでに規制当局が詳細に研究している量子コンピューティングのリスクに類するものなのか、それとも全く新たな対応策が必要となるのか。

こうした疑問は、今週、国際金融協会(IIF)が高官や経営者を招き会合を開いたワシントンのウィラード・ホテルの廊下や会議室で飛び交った。

多くの疑問は依然として答えがでていない。

アンソロピックが、ミトスに関する詳細やアクセスを米国外の当局や銀行とどの程度共有しているかは明らかでない。欧州系銀行の米国人トップの1人は説明の機会を約束されたと述べた。ただ、アクセスが限られるため、サイバー脅威の進展の「最前線」で状況を把握するよう求めるIMFの助言に従うことが困難になる世界の金融システムも一部出てくる恐れがある。

カナダのシャンパーニュ財務相は15日のインタビューで、ミトスには「十分な注意が必要だ」とし、各国財務相との間で議題に取り上げたい意向を示した。「金融システムの強靱さを確保することは共通の利益だ」と付け加えた。

事情に詳しい関係者によると、米財務省の技術チームは脆弱(ぜいじゃく)性の特定に着手するためミトスへのアクセスを求めている。

ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は16日、「これらのAIツールが脆弱性の特定や、それらを悪用する可能性の両面において、多くの予想を上回る速さで進展していることが示されている」と述べた。ニューヨーク連銀は世界の金融取引と安定性リスク監視の中枢を担う。

金融安定への脅威は従来、金融安定理事会(FSB)を通じて調整されてきた。FSB議長は現在、英中銀のベイリー総裁が務めている。ただ、FSBはサイバーリスクに関しては後手に回ることが多い。中国などを含む幅広い加盟国の中で透明性確保に慎重な国があるためで、結果としてサイバー分野は主要7カ国(G7)などより小規模な枠組みに委ねられている。

15日のG7財務相・中央銀行総裁会議では、ミトスのリスクはどの国も単独では対処できないとの認識の下、AIのガバナンスを監督する国際的な制度的枠組みの必要性が議論されたと、協議に詳しい2人が明らかにした。

原題:Mythos AI Sparks Fear and Confusion Among Global Finance Elite(抜粋)

--取材協力:Daniel Flatley、横山恵利香、Maria Eloisa Capurro、Tom Rees.

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