百貨店文化が外国より長く続いていた日本でも、その終わりがついに訪れたのだろうか。

渋谷のスクランブル交差点近くにある西武渋谷店の閉店が迫っているというニュースは、一つの時代の終わりを示している。

西武百貨店が1968年にオープンした渋谷店は、この地域を活気のない闇市的な裏通りから世界的に有名な若者サブカルチャーの発信地へと変貌させた立役者とされてきた。

約20年にわたる再開発の真っただ中にある渋谷では、西武百貨店は生き残る数少ないランドマークの一つと考えられていた。しかしオーナーのフォートレス・インベストメント・グループは地権者との契約更新に至らず、約60年の歴史に幕を下ろし、渋谷店は9月に閉店する。

百貨店は世界中で苦境に立たされている。そもそも百貨店という言葉自体がどこか古い時代を思わせる響きを帯びている。米高級百貨店サックス・グローバルは破産法の保護下にあり、英国のデベナムズはすでに閉店した。

こうした流れが日本にも及びつつある。売上高は新型コロナ前の水準に回復したようだが、その多くは訪日客による免税品購入に支えられており、1990年代のピーク時の半分にも満たない水準にとどまる。

理由は明白だ。世界の電子商取引市場は年14%で成長し、2027年に5兆5000億ドル(約878兆円)規模に拡大すると見込まれている。日本も例外ではない。

市場調査会社ケイデンスのリポートによれば、「かつてそごうや高島屋といったデパートが圧倒的な存在感を誇ったアジアでも環境は急速に変化しており、若年層はデジタルプラットフォームに向かっている」。

デパートはもはやアマゾン・ドット・コムや楽天、さらには中国の格安通販アプリ「Temu」「SHEIN」といった小売りの競合に太刀打ちできなくなっている可能性がある。

筆者は数年前、そごう・西武の歴史そのものが日本型資本主義の変遷を映す年代記だと指摘した。

2000年のそごうの破綻と西武との統合、そして2023年にセブン&アイ・ホールディングスがアクティビスト(物言う株主)の圧力を受けて、傘下のそごう・西武をフォートレスに売却した経緯などがそれに当たる。デジタル化への移行は新たな章の始まりかもしれない。

リアルな体験

日本の百貨店は、しばしば鉄道会社と結び付いており、乗降客を取り込む形で交通拠点周辺に建設されてきた。

だが、西武はやや異なる。戦後の実業家、堤康次郎氏の帝国の一部として鉄道と百貨店はあったが、同氏の死後に息子の義明氏と清二氏の間で分割された。鉄道は義明氏が、百貨店は異母兄の清二氏がそれぞれ引き継いだ。

2人の確執はドラマ顔負けの激しさだった。清二氏は後に無印良品やファミリーマート、インターコンチネンタルホテルズなどを含む小売りグループを率い、一方の義明氏は不動産資産を背景に世界一の富豪と一時もてはやされた。だが両者とも重大な法的問題に直面し、それが西武グループの退潮につながった。

清二氏は、西武鉄道が通っていない渋谷に西武百貨店を進出させた。そこは東急が西東京の住宅地へ延びる鉄道網を掌握し、強い影響力を持つ地域だった。

西武の渋谷進出は数十年にわたる「百貨店戦争」の引き金となった。最盛期のウディ・アレンを起用した広告を展開し、若者文化を前面に押し出してベビーブーマー世代の拡大する消費を取り込もうとした。

これに東急が対抗。こうした主導権争いはやがて日本、そして世界を魅了する渋谷サブカルチャーを育む土壌となった。

しかし渋谷での競争激化に伴い、西武の売上高は減少。周辺の通りが観光客であふれる中でも、上層階は閑散としていることが多かった。勝者となった東急は百貨店モデルを捨て、渋谷の店舗を閉鎖し、商業施設・オフィス・ホテルを組み合わせた複合ビルへと転換した。

とはいえ、こうした状況が、実店舗の終焉(しゅうえん)を意味するとは言い切れない。東京ではJR東日本が主導する高輪ゲートウェイシティなどの新たな複合開発が集客につながっている。

筆者が最近、スイスブランドのスニーカー「On(オン)」を買おうと銀座を訪れた際には、入店予約の整理券を得るために約100人の列ができていた。

米国では衰退しつつあったショッピングモールにZ世代が戻りつつある。モールを目いっぱい楽しもうという造語「mallmaxxing」まで生まれた。レコードやフィルムカメラ、ボードゲームといったアナログ回帰の流れと軌を一にし、若者たちは再びリアルな体験を求めている。

1980年代後半、西武の幹部だった水野誠一氏は、「人と同じことをやっているのでは進歩がないわけで。絶えず新しい何かをつかもうということで、勇気をもって踏み出していかないと仕事にならない」と語っていた。

渋谷は一つの象徴を失うかもしれない。しかし人工知能(AI)があらゆる分野に浸透する時代において、人間の感性による選択はこれまで以上に重要になる。

AIエージェントを利用したショッピングの拡大は画一的な小売業にとって逆風となるだろうが、体験価値を創出できる企業にはむしろ追い風となる可能性がある。

それこそが、百貨店が最も優れていた時代に提供していた価値だ。人の手で選び抜かれ、自分では必要と気付いていなかったものと出会わせてくれる場だ。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Has the Department Store’s Death Reached Japan?: Gearoid Reidy(抜粋)

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