(ブルームバーグ):米投資会社ブラックストーンは3月末、イランを巡る戦争が始まってからペルシャ湾岸地域で初めてとなるプライベート・エクイティー(PE、未公開株)投資を発表した。米銀シティグループのジェーン・フレーザー最高経営責任者(CEO)は600語から成るメモを著し、同地域の事業に対する熱意を強調した。
2億5000万ドル(約400億円)に上るブラックストーンのPE投資とフレーザー氏のメモが発表されたのは、アラブ首長国連邦(UAE)が丹念に築き上げてきた安全と安定のイメージがイランの攻撃で危機に瀕した、まさにその時だった。
こうした「短期的な逆風」にもかかわらず、ブラックストーンはUAEに大規模な資本を投入する大きな好機を見出していると、ジョン・グレイ社長兼最高執行責任者(COO)はPE投資の発表に際して発言。同業他社から「見事」と称賛されたこの投資に続き、同社は米国とイランが2週間の停戦に合意した直後に別の取引も発表した。
ウォール街は長年にわたり、政府系ファンドによる巨額の取引が増え、合併・買収(M&A)が活発化する中東での事業拡大に注力してきた。だが、イランがペルシャ湾岸の主要都市を標的としたことで、好況をけん引してきた地域がリスクの源となった場合にどうするのかという問題に、ウォール街の幹部は向き合わざるを得なくなった。

今のところ、米金融大手の幹部らは自らを忠実なパートナーとして描こうと躍起だ。長年にわたり潤沢な資金を抱え利益の上がる市場であり続けた同地域から離れたくないという思いと、次のビジネスチャンスを見据えているからだ。
ゴールドマン・サックス・グループのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)はブルームバーグ・ニュースに対し、「我々の支持は揺るぎない。この地域全体で、当社顧客の野心に変化はない」と述べた。
たとえ戦争が長引くとしても、民営化の頓挫や資産売却の遅れ、政府系ファンドの資金引き揚げはない-。こうした考えが金融幹部の行動の根底にある。むしろ、湾岸諸国政府は過去の危機時と同様に好機をつかもうと、オイルマネーを活用してさらに大きな役割を演じようとするだろうと見込む。
実際、戦争のさ中にも、オルタナティブ投資やプライベート・クレジット、テクノロジープラットフォームなどに同地域の巨額の投資は続いた。
「UAEの海外投資戦略は、比較的影響を受けにくいだろう」と、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)のステフェン・ヘルトグ教授は述べた。「彼らはビジネスにオープンであることを示したいと考えており、むしろ今は海外とのパートナーシップ構築がこれまでよりも一段と重要性を増した」と指摘した。
中東では、しばらく前から新たな現実も始まっていた。金融業者が地域に来さえすれば、巨額の小切手が勝手に向こうからやって来ることが期待できる時代はとっくに過ぎ去った。
合計でおよそ5兆ドルを運用する地域の政府系ファンドは外国の金融機関に対し、支援と引き換えに地域でより多くの会合を催したり、現地事務所を開設したり、より多くの人材を呼び込んで生活・勤務させたりすることを明確に求めている。

いま撤退すれば深刻な結果を招き、政府系機関と提携する能力にすら影響が出る恐れがあると、外部の観測筋は指摘する。
ポリスフィア・アドバイザリーを運営するアラブ湾岸諸国研究所の非居住フェロー、ロバート・モギエルニツキ氏は「既存の、あるいは計画中の湾岸地域での投資に影響が出て、地域の情勢に動揺している投資家も中にはいるだろう」と述べつつ、「しかし、経済的に厳しい時期を耐え、地域の長期的な見通しに強気を維持する投資家を湾岸諸国の政府は優先するだろう」と論じた。
「変更はない」
金融大手幹部は今のところ、状況にうまく対応している。
過去1年間で中東に約20億ドルを投じた米オルタナティブ資産運用会社のKKRは、「地域のパートナーと共に積極的な関与」を続けていると、スコット・ナタール共同CEOは説明。ブルックフィールド・アセット・マネジメントのコナー・テスキーCEOは、同地域は引き続き魅力的な長期投資先だと述べ、カタール投資庁(QIA)と共同で200億ドルを投資し、データセンターを構築する計画に変更はないと明言した。
ゴールドマンのソロモン氏ほど、この地域に深く関与している金融関係者はほとんどいない。同氏は昨年、リヤドで開催された年次会合「フューチャー・インベストメント・イニシアティブ」に出席した。続いて訪問したクウェートでは、現地事務所の開設を発表。クウェート投資庁による100億ドルの運用委託獲得も狙っている。
カタールでもゴールドマンはQIAとの提携拡大を進め、同社の資産運用部門は250億ドルの運用委託契約を得る可能性がある。ゴールドマンは中東での関係強化に向け、最高幹部によるチームまで設置した。
一方、JPモルガン・チェースは、リードを守ることに軸足を置く。ジェイミー・ダイモンCEOは長期間の歳月をかけ、地域の石油企業や政府系ファンドとの直接的な関係を構築してきた。サウジアラムコは世界でもJPモルガンのトップ顧客の1社で、同社の案件はまずJPモルガンに持ち込まれ、競合が容易には突き崩せない優位性を築いている。
ダイモン氏ら同行幹部は頻繁にペルシャ湾岸地域を訪れている。事情に詳しい関係者によると、安全な渡航が可能だと判断されてから24時間以内に同地域への航空券の手配を済ませた上級幹部もいるという。
競合他社も参入を試みている。シティのフレイザーCEOは、長年にわたり同全域の顧客との関係強化に努めてきた。その努力は今年ようやく実を結び始め、シティはサウジアラムコの大型資産売却で役割を任された。アラムコを含む地域のエネルギー施設は攻撃を受けているが、この売却は予定通り進んでいる。
「中東を訪れるたびに、この地域は未来に向けて発展しているとの確信を強くする」とフレイザー氏は社員宛てのメモで主張し、「勢いは一時的に鈍ったかもしれないが、中東の将来的な見通しは変わっていない」と強調した。
ブルームバーグ・ニュースはこのメモを確認した。
JPモルガンの広報担当者は、ペルシャ湾岸地域の戦略に「変更はない」と回答。シティの代表者は、同地域の経済の回復力に強い自信を持っていると語った。
原題:Goldman’s ‘Unwavering’ Support Shows Gulf’s Lure for Wall Street(抜粋)
--取材協力:Alex Dooler、Swetha Gopinath、Layan Odeh、Hannah Levitt.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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