(ブルームバーグ):トランプ米大統領はかねてイランの石油部門の掌握に言及している。その狙いの一つとして、米国の世界的なエネルギー支配力を拡大し、中国との貿易問題で交渉力を強化したい思惑がある。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
6日にホワイトハウスで記者会見したトランプ氏は、イランの石油を巡るこの構想に繰り返し言及。中東へのさらなる関与に伴う政治的リスクを認めつつも、米国にとって利益になるとの認識を示した。
トランプ氏は「選べるなら何をしたいか。石油を手に入れることだ。そこにあり、奪うことができる。彼らにはどうすることもできない」と述べた。
その上で、「残念ながら、米国民は撤退を望んでいる。私に任せれば石油を手に入れて保持し、大きな利益を上げるだろう」と語った。
トランプ氏はこれまでも、石油資源の支配が国際舞台での力につながるとの認識を示してきた。ベネズエラのマドゥロ前大統領を排除し、現政権との間で同国の原油資源にアクセスする合意を結んだ経緯がある。
関係者によると、イラン産原油への関心の背景には複数の要因がある。その中には、イランのエネルギー資源を米国の影響下に取り込むことで、中国の習近平国家主席に対する交渉力を高められるとの思惑がある。トランプ氏の考えについて、関係者が匿名を条件に話した。
トランプ政権当局者は、ベネズエラと中東での米国の作戦により、中国の影響力が低下しているとの見方について協議していると、関係者の1人が明らかにした。中国は主要な原油輸入国だが、イランでの戦争によって要衝ホルムズ海峡が事実上封鎖されたことで供給が制約され、原油やガスの相場は世界的に急騰している。
イランのエネルギー資源を長期的に支配することは極めて大規模な取り組みとなり、米国がこの紛争に投じている資金や人員をはるかに上回るリソースを必要とする可能性が大きい。国際法上の問題も浮上すると考えられる。世論調査では、米国民の過半数が戦争の早期終結を望んでおり、11月の中間選挙を前に有権者はガソリン価格の上昇にも直面している。
ホワイトハウス当局者は、トランプ氏がイランの石油を掌握する構想に関心を示しているとしつつも、正式な計画は存在せず、現行のプログラムにも含まれていないと説明した。トランプ氏は米東部時間7日午後8時(日本時間8日午前9時)を交渉期限としているが、紛争終結に向けた条件としてイランのエネルギー施設の支配を挙げてはいない。
一方で中国は、こうした情勢の影響を異なる形で受け止める可能性が高い。トランプ氏は軍事衝突を巡り同盟国の支持確保に苦戦し、軍事資源をアジアから中東へ振り向けていることが背景にある。
習氏はイランでの戦争に直接言及していないが、中国は長年にわたりこうした事態に備え、石油備蓄の積み増しや国内の炭化水素増産、大規模な再生可能エネルギー産業の育成を進めてきた。
原油相場が現在の水準で推移すれば、中国や同国の精製業界は打撃を受ける可能性があるものの、経済的な痛みに耐える能力も高いと考えられる。
中国外務省にコメントを要請したが、これまでのところ返答はない。
トランプ氏は5月14、15両日に北京訪問を予定している。習氏との首脳会談は、世界の二つの経済大国にとって重要な試金石となる。米中は関税に加え、現代の製造業に不可欠な重要鉱物などを巡って応酬してきた。数十年ぶりのエネルギーショックが、この構図を一段と複雑にしている。
「戦利品」
トランプ氏はこれまでも、2003年のイラク戦争後に米国が同国の石油を掌握しなかったことを戦略的な誤りだと繰り返し指摘してきた。軍事作戦に要した費用を原油資源で回収できたはずだとの認識に基づくものだ。
6日の記者会見でも「勝者が戦利品を得るものだ」と述べ、「なぜそれを使わないのかとも言ってきた。勝者が戦利品を得るべきだが、われわれはそれを得ていない」と語った。
トランプ氏は現時点でイランの石油掌握構想よりも、ホルムズ海峡を通過する原油や天然ガス、肥料の輸送がほぼ停滞している状況への対応を優先していると見受けられる。イランに海峡の開放を求める一方で、中国など他国が航路の安全確保を担うべきだと主張し、発言は揺れ動いている。
対中圧力
他方、トランプ政権の地政学的な動きは既に中国に影響を及ぼしている。
マドゥロ氏の拘束前、中国の独立系製油業者は制裁対象となっていたベネズエラ産原油の主要な買い手で、割引価格を有利に活用していた。現在も購入は可能だが、エネルギーアナリストによればコストは上昇し、地域における中国の影響力も低下している。
同様に、中国は米国とイスラエルによる戦争前、制裁下で割安だったイラン産原油の主要顧客だった。しかし軍事衝突の結果、そのディスカウントは小幅なプレミアムに転じた。
このほか、従来は制裁対象だったロシア産原油の購入を認める米国の適用除外措置も、中国には逆風となっている。中国向けだった原油タンカーの行き先がインドへと急速に変更され、他のアジアの買い手も参入したことで価格が上昇した。
クリアビュー・エナジー・パートナーズのマネジングディレクター、ケビン・ブック氏は、米国の制裁はこれまで中国が割安な原油を調達する機会を広げていたと指摘する一方で、現在は「米国の軍事行動がその扉を閉ざしている」と解説した。
今回の石油ショックは、中国の巨大な独立系製油部門にも影響を及ぼし、前例のない圧力になっている。ただ、この痛みを伴う逼迫(ひっぱく)は、過剰供給の一部解消につながる可能性もある。
トランプ政権は、西側の石油企業によるベネズエラ復帰を後押しし、同国からの輸出を容認することで生産を押し上げてきた。2月の原油生産は78万8000バレルと5カ月ぶりの高水準に達した。
これはピーク時の約300万バレルには遠く及ばないものの、米大陸からの供給増加と、トランプ氏のいわゆる「ドンロー主義」に基づく西半球支配の強化を通じて、米国の影響力拡大につながっている。
ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級研究員クレイトン・サイグル氏は、米国がベネズエラで採った手法をイランにも適用する余地があると指摘する。
具体的には、アラビア海でイラン産原油に対する制裁執行を強化すれば、同国の攻撃が及びにくい海域で対応が可能になるとし、掌握した原油は商品取引会社が国際市場で売却し、イラン側に利益が渡らないようにできるとの見方を示した。
原題:Trump Floats Seizing Iran Oil as He Weighs Chinese Leverage Play(抜粋)
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--取材協力:Charlie Zhu、Serene Cheong、Laura Davison.
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