ロシアのプーチン大統領は昨年末、ウクライナ東部のクピャンスクを制圧したと大々的にアピールしたが、その直後、ゼレンスキー大統領は同市からビデオ演説を行い、主張を即座に否定した。

事情に詳しい2人のロシア関係者によると、同国軍は現在、クピャンスク周辺から徐々に駆逐されつつある。

この後退はプーチン氏にとって恥辱だ。鉄道の重要な分岐点でもあるクピャンスクの状況について、ロシア国防省はコメントしていない。

ロシアにとって、クピャンスクからの後退は戦略的ではなく戦術的な性格に近いが、5年目に突入した戦争においてプーチン氏が公言した目標の達成には程遠いことを浮き彫りにする。一部でロシア軍がゆっくりと占領地を拡大する一方、ウクライナ軍が領土を奪還している地域もある。互いに戦況を決定的に打開できないまま、全体としてこう着状態が続いている。

双方とも「最前線から30キロメートルの範囲ではなく、300キロ先まで敵の移動の自由を封じようとしている」と、北大西洋条約機構(NATO)の欧州連合軍副最高司令官を務めたジェームズ・エバラード氏は指摘。「敵陣深くを支配する側が、補給や増援の流れを断ち、相手を窒息させることができる。これが現在の戦いだ」と論じた。

トランプ米大統領の関心が米・イスラエルのイラン攻撃に向いているため、ウクライナとロシアの戦争に対する外交的解決への期待はしぼみつつある。米主導の和平協議は行き詰まり、交渉が近く再開される兆しもほとんどない。

ロシア大統領府内の協議や前線の状況に詳しい関係者によると、ロシア軍は新たな攻勢を準備。交渉で突破口が開かなければ、戦争はあと1-2年続く可能性があると、関係者の1人は述べた。別の関係者は、ウクライナのドローン防衛網をロシア軍が崩すことはできないため、わずかにしか進軍できない公算が大きいとの見方を示した。

ロシアは4月から5月にかけてウクライナ東部ドネツク州の要塞都市スロビャンスクとクラマトルスクの制圧を目指して攻勢をかけるだろうが、それに必要な十分な戦力はない可能性が高いと、キーウの国家戦略研究所の研究フェロー、ミコラ・ビエリースコフ氏は述べた。

ただ、「ロシアがウクライナの防衛を突破できないということは、残念だがウクライナの重要インフラ破壊に軸足を移す公算が大きい」と同氏は語った。

戦略

双方の戦略は、残酷なほど単純だ。

ロシア大統領府によると、2026年における同国の軍事目標は、ルハンシク州とドネツク州からなるウクライナ東部ドンバス地方の未占領地を掌握し、和平交渉でロシアの立場を強化するために可能な限り多くの領土を支配することにある。

ロシア国防省は1日、同国軍がいまやルハンシク州全域を掌握していると発表した。ウクライナ当局は今のところコメントしていない。

ウクライナ側の戦略は、ロシアが補充できる数よりも多くのロシア兵を死傷させることだ。それにより侵攻を持続する能力を徐々に奪い、反攻の機会が生まれることを狙う。

ウクライナは月間5万人のロシア兵死傷を目標に掲げる。ロシアが月間平均で3万5000~4万人の新兵を調達しているとみられるためだ。今のところ、ウクライナはこの目標を達成できていない。

ゼレンスキー氏は1日、「ロシア軍は攻勢を強化しようとしている」とX(旧ツイッター)に投稿。「だが、これはロシア側の損失を増大させるだけで、われわれの作戦を妨げるものではない」と主張した。

同氏は3月17日、ロシアの新兵採用数は月間で最大4万5000人に上った一方、過去3カ月間にウクライナは約10万人のロシア兵を死傷させたと述べた。

米国は先週、同盟国に対し、現時点では進展がなくロシアとウクライナの隔たりは依然大きいものの、両者を交渉の席につかせることは可能との考えを維持していると伝えた。非公表の協議内容だとして匿名を要請した関係者によると、米国は一部のロシア産石油の販売について制裁を緩和したが、これは一時的な措置だと明言している。

中東戦争による原油高でロシアは「棚ぼた」的な収入を手にし、戦争予算を拡大できる。一方でウクライナは、米国が対イラン戦争に軍事資源を優先させているため、欧州同盟国が購入した防空ミサイルなどの米国製兵器の供給が鈍る可能性を考慮しなくてはならない。

週末にゼレンスキー氏は、繰り返されるイランの攻撃に対応せざるを得ないペルシャ湾岸諸国とウクライナの対ドローン技術を共有して利益を得ようと、中東諸国を歴訪した。この訪問で同氏はサウジアラビアおよびカタールと、「数十億ドル」相当に上る10年間の防衛協定に調印した。

ゼレンスキー氏が期待するのは、ウクライナの安価なドローン迎撃機を湾岸諸国に供給し、その見返りにロシアのミサイルから守るためには欠かせない防空ミサイルの備蓄へのアクセスを得ることだ。

同氏はまた、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)への訪問で、1年分以上のディーゼル燃料供給に関する取引に合意したと述べたが、詳細は明らかにしなかった。

ロシアは冬を通じてウクライナのエネルギーインフラを執ように狙い、容赦のない空爆を続けた一方で、ウクライナもまた、戦争をロシアの一般市民にとって身近にしつつある。

ロシア安全保障会議によると、2025年にロシアのインフラに対するウクライナの攻撃は2万3000回以上に上り、前年の6200回からほぼ4倍に増加した。

前国防相のショイグ安全保障会議書記は3月17日、「無人システムを中心とした破壊手段の開発ペース、その使用方法の高度化で、今やロシアに安全と感じられる地域はない」と述べたと、インタファクス通信は報じた。

原題:Russia Plans New Ukraine Offensive as World Focuses on Iran (1)(抜粋)

--取材協力:Aliaksandr Kudrytski、Andrea Palasciano、Volodymyr Verbianyi.

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