三菱UFJモルガン・スタンレー証券が、スタートアップ支援の専門部隊を拡充する。新規株式公開(IPO)をゴールとするのではなく、創業まもない早い段階から上場後も一貫して支援することで、企業価値の最大化を後押しする。

昨年12月に東京証券取引所グロース市場に上場した大型蓄電池の製造・販売などを手掛けるパワーエックス。東証によると会社設立から4年9カ月での上場は、製造業分野では過去10年において3番目に短い。上場時に519億円だった時価総額は18日終値時点で約2180億円と4倍超に拡大し、同市場で4位に着ける。

創業時からの成長を支えたのが三菱モルガンの「スタートアップ・アクセラレーション・チーム(SAT)」だ。企業の合併・買収(M&A)を手掛けるバンカーやアナリストらを含む約20人のメンバーで構成し、創業直後から上場前の資金調達、IPO準備、上場後の成長戦略まで一気通貫で支援する。

SATを率いるスタートアップ・アクセラレーション部長の高橋照典氏は「グローバルカンパニーを目指すスタートアップに対して、一定程度の企業規模に成長させた上で上場するサポートを強化する。上場後の企業成長も後押ししたい」と述べた。今後、陣容を2割程度拡大することを検討しているという。

高市政権もスタートアップ育成を重点施策の一つと位置付けているが、欧米と比べてIPO時の時価総額や資金調達額が小規模であり、上場後の成長が停滞していることなどが課題だ。

東証はグロース市場の上場維持基準について、30年3月から上場5年後の時価総額を40億円以上から100億円以上に引き上げる方針。持続的な成長を実現できなければ退場を迫られる。17日時点で時価総額が100億円を超えるのは206社と全体の34%にとどまる。

そうした状況もあり、他の大手証券会社でもスタートアップ支援の動きは広がっている。野村証券は25年10月、スタートアップの持続的な成長を総合的に支援するために社内の知見を集約し、「プライベート・コーポレート・ソリューション・アドバイザリー部」を新設した。

400億円超の資金調達支援

三菱モルガンは19年にSATを設置した。パワーエックスへの支援は、資金調達に奔走していた同社の伊藤正裕社長が創業直後の21年7月、面談を申し入れたことが契機となった。当時、複数の大手証券会社に財務アドバイザー(FA)の契約締結を依頼したが、実績に乏しい同社に対しては各社けんもほろろの扱いで、半ば背水の陣で臨んだのが同証との面談だった。

三菱モルガンは当時、SATを中心にスタートアップ支援の本格強化に乗り出す方針を固めていた。国内では数少ない大型蓄電池の生産メーカーを目指す伊藤社長のプレゼンテーションを受け、ビジネスモデルに共感してパワーエックスとFA契約を締結した。

SATはIPO支援はもちろん、出資を募る投資家の取りまとめや資金調達手法の提案などフルパッケージでパワーエックスを支えた。上場するまでの間、FAとして総額約416億円の資金調達を支援した。三菱UFJ銀行が計15億円を融資するなど、三菱UFJフィナンシャル・グループとしてスタートアップ支援の本気度を示す案件にもなった。

パワーエックスの伊藤社長(右)と話し合う三菱モルガンの高橋部長(中)ら(2月、都内)

三菱モルガンは上場後もFAとして同社の成長戦略や資本戦略をサポートしている。パワーエックスの伊藤社長は「企業という船が座礁しないよう、どういう針路を取ればよいか指示する水先案内人の役割を果たしてくれている」と語る。同社は今年2月、今期(26年12月期)純損益が10億-15億円の利益と初の黒字見通しを発表した。

三菱モルガンが19年以降に手掛けたIPO案件のうち、3割程度をSATが担った。IPOの規模が大きいほど証券会社が得る手数料も増える。一方、東証は不正企業の上場を未然に防ぐため、提出書類や確認作業の強化を求めており、上場準備にかかる時間や費用のコストは増加している。支援先企業が期待した成果を出せないケースも十分あり得る。

東洋大学の野崎浩成教授は三菱モルガンの取り組みについて、「欧米に比べて後れを取っている日本のスタートアップシーンには極めて有意義な取り組み」と評価する。その上で、スタートアップ支援では、IPOによる出口戦略を急がせるのではなく、成長による企業価値向上に軸足を置くことが重要とも指摘した。

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