(ブルームバーグ):イラン戦争はエネルギー市場と金融市場に波紋を広げ、インフレ懸念と経済成長へのリスクを再び強めている。こうした懸念の発端がトランプ米大統領の関税措置だった昨年とは異なり、今回は高水準の原油価格が続く可能性への不安が背景にある。
エネルギーコストが高止まりする状況が長引けば、インフレに上昇圧力をかけ続けると同時に、経済をリセッション(景気後退)に陥れる恐れがある。こうしたまれな経済状況は、「stagflation(スタグフレーション)」と呼ばれる。
スタグフレーションとは何か
スタグフレーションは、経済成長の鈍化と失業率の上昇、そしてインフレの加速が同時に起こる状態を指す。
英国の政治家イアン・マクラウド(1913-1970)が1965年、景気停滞を意味する「stagnation(スタグネーション)」と「inflation(インフレーション)」を組み合わせてこの言葉をつくった。
かつて多くのエコノミストは、スタグフレーションは起こり得ないと考えていた。通常は需要が弱まれば企業が財(モノ)やサービスの価格を引き上げる余地が小さくなり、価格上昇が抑えられるためだ。
しかし関税や原油供給ショックのように、需要拡大によらない新たな物価上昇圧力が生じた場合には発生し得る。
スタグフレーションの原因は
エコノミストらによれば、外部からのショックと政策判断の誤りが組み合わさるとスタグフレーションが生じやすい。そうした分析の多くは、1970年代の米国で起きた最も有名なスタグフレーションの事例に基づいている。
1971年に当時のニクソン大統領は国際収支に対し長年積み重なっていた圧力に対処するため、米国を金本位制から離脱させた。資本流出が流入を上回る状況が続いていたためで、これによりドルは変動相場制に移行した。ドルはその後、他通貨に対して下落し、国内のインフレ圧力を高めた。
さらに1973年、石油輸出国機構(OPEC)のアラブ加盟国は、第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)でイスラエルを支持した米国などに対し石油禁輸を実施し、原油価格が急騰した。
その結果、米企業はコスト増を価格に転嫁しただけでなく、生産活動も減らした。この動きはインフレを押し上げると同時に失業を増加させた。
また、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを遅らせたことも政策ミスだったと指摘する声がある。1975年には、インフレ率と失業率を合計したいわゆるミザリーインデックス(悲惨指数)は19.9%に達し、1980年に22%でピークを付けた。
スタグフレーションリスクは現在どう変化しているか
石油や石油製品を含む供給の混乱が長期化した場合にのみ、スタグフレーションのリスクは大きく高まるとエコノミストらはみている。
ただしリスクを完全に排除することはできない。ホルムズ海峡を通過する海上輸送はほぼ停止状態に近く、米国の労働市場は脆弱(ぜいじゃく)だ。
さらに消費者は依然として高い生活コストに不満を抱えている。燃料価格の上昇が続けば、経済成長の主要な原動力となってきた家計支出を抑制する可能性がある。
どの程度深刻になり得るのか
エコノミストらによると、関税によるインフレ圧力などスタグフレーション要因の一部は徐々に積み上がっている。
BMOキャピタル・マーケッツのシニアエコノミスト、サル・グアティエリ氏は、イラン戦争がインフレを押し上げる一方で、投資家や企業の信頼感を揺るがすとの見方を示す。
ただし多くのエコノミストは、失業やインフレが1970年代半ばの水準に近づくとは考えていない。当時は失業率が9%に達し、インフレ率は10%を超えていた。
米国の消費者への影響は
スタグフレーションが定着した場合、企業がエネルギーや家庭向けサービス、輸送のコスト増を価格に転嫁するため、消費者は幅広い財やサービスの価格上昇に直面する。同時に、失業する米国人が増え、新たな仕事を見つけるのがより難しくなる。
金利にはどのような影響が出るのか
金利を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)は、労働市場を支えるため利下げするか、それともインフレ期待を抑えるため金利を据え置くかの判断を迫られることになる。
シカゴ連銀のグールズビー総裁は3月上旬、原油価格上昇のような供給ショックは「スタグフレーション方向へと向かわせる可能性がある」と述べた。一方、ウォラーFRB理事はイラン紛争がインフレに持続的な影響を与えるとは予想していないとの見方を示した。
原題:Why the Iran War Is Reviving Stagflation Fears: Explainer(抜粋)
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