中東での紛争拡大で、一つの事実があらためて鮮明となっている。投資家が安全資産に殺到する局面にあって、ドルが最も選好される資産であることに変わりはない点だ。

米国・イスラエルとイランとの軍事衝突激化を受けて株価が急落し、本来安全資産であるはずの金や米国債相場までもが下落する中、ドルの上昇が際立っている。紛争開始以降、ドルは2日間ベースで約1年ぶりとなる大幅上昇を記録している。

パイオニア・インベストメンツのストラテジスト、パレシュ・ウパダヤ氏は「こうしたリスク回避や不確実性の局面にあって、ドルは典型的な動きをしている。安全資産の王者だ」とし、「事態は単なるリスク回避や質への逃避を超え、市場が世界経済の成長やインフレの見通しそのものを疑問視する段階に拡大している」との見方を示した。

 

ドル需要の高まりは、世界の主要準備通貨としてのドルを巡る疑念の対抗軸となっている。トランプ大統領による貿易戦争を背景に浮上していたドルの「ディベースメント(通貨価値下落)」論を抑え込む形だ。

紛争が長期化すれば、米国の政策判断や国際社会における地位を巡る懸念が一段と強まる可能性はある。それでも少なくとも現時点では、ドルに代わるより良い選択肢は存在しないのが実情だ。

ブルームバーグ・ドル・スポット指数は今週に入り1.3%上昇。ブルームバーグが追跡する主要16通貨のほぼ全てが3日に下落し、ユーロは昨年11月以来の安値水準まで下げた後、下げ幅を縮小した。

オプション市場もドル・スポット指数の動きに同調している。広範なドル上昇のリスクに備えるには、ヘッジのための支払いが必要となっている。ドルの先行きについて、わずか数日前まで判断が分かれていたのとは対照的だ。市場のポジション動向を示す指標のリスクリバーサルは、ドルに対する短期的な強気度合いが2024年以来の高水準にあることを示唆している。

ブルームバーグのストラテジスト、スカイラー・モンゴメリー・コーニング氏は「ドルが引き続き中東紛争で最も追い風を受けているのは明白だ。安全資産としての地位に加え、米国がエネルギーの純輸出国であることが支えとなっている。一方で主要な他通貨の多くは純輸入国だ。供給主導の石油ショックに対するドルの歴史的な関係を踏まえると、なお上昇余地がある」との分析を示した。

こうした外国為替市場の動きの一方で、株価は世界的に下落。また、中東での紛争がエネルギー価格を押し上げ、インフレ再燃の懸念が高まることで、米連邦準備制度の追加利下げの道筋が複雑化しかねないとの不安が広がり、米国債利回りは上昇している。

アプタス・キャピタル・アドバイザーズのポートフォリオマネジャー、デービッド・ワグナー氏は「今後の市場やリスクヘッジには、これまでとは異なる発想が必要だ。債券が従来果たしてきたほどの防御の役割を発揮するとは思わない」と指摘した。

「本来の地位」

3日のニューヨーク市場では株価が下落し、S&P500種株価指数は0.9%安で取引を終えた。一方、北海ブレント原油先物はイラクがルマイラ油田で生産を停止したことを受け、1バレル=85ドルを上回り、24年7月以来の高値を付けた。主要航路であるホルムズ海峡を通じた供給途絶により、在庫は逼迫(ひっぱく)している。

ロード・アベットのポートフォリオマネジャー、リア・トラウブ氏は「米国は自国で天然ガスを生産しているため、中東からの石油やガスの供給途絶は米国よりもアジアや欧州にとって一層深刻な影響を及ぼす可能性がある」とし、「ドルは安全資産通貨として本来の地位を取り戻した」と話した。

いわゆるクロスカレンシー・ベーシスの指標も、主要通貨との比較でドル需要の急増を示している。これは米国外でドルを調達する際に、米国内での調達と比べて投資家が追加で支払うか、受け取るコストを示すものだ。紛争激化を背景にドル資金への広範な需要が強まっていることを示唆している。

近年の中東発の原油供給混乱時とは異なり、米国は過去数年でシェール生産を拡大したことで、ショックへの耐性を強めている。かつては石油・ガスの大幅な純輸入国だったが、現在は世界最大の生産国であり、主要な輸出国でもある。原油価格が上昇する局面では、こうした構図がドルの下支え要因となる。

米国とイスラエルによる対イラン攻撃開始を前に、市場ではドル安を見込むポジションが大勢を占めていた。ブルームバーグが米商品先物取引委員会(CFTC)の最新データを集計したところ、デリバティブ(金融派生商品)市場では2月24日時点で、ドル安に連動する賭けが約190億ドル(約3兆円)に達し、昨年のピーク水準に匹敵していた。

BMOアセット・マネジメントのマネジングディレクター、ビパン・ライ氏は「ドル上昇は市場のポジショニング把握が極めて重要であることをあらためて浮き彫りにしている」とコメント。「スポット市場ではここ数カ月、ヘッジ需要の高まりを背景にドルのネットショート(売り持ち)が積み上がっていた。だが、そのテーマは当面、尽くされた可能性が高い」との見方を示した。

原題:Dollar Reclaims Ultimate Haven Role as War, Inflation Angst Grow(抜粋)

--取材協力:Miles J. Herszenhorn、George Lei、Alexander Nicholson、Carmen Reinicke、Vassilis Karamanis、Alice Gledhill、Mark Tannenbaum.

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