(ブルームバーグ):3日の米国株式市場で主要指数が下げ渋った際、トランプ大統領が自ら招いた新たな危機の火消しに向け、何らかの収束策を打ち出すとの期待が投資家の間で再び強まったかのようにみえた。
だがウォール街のストラテジストは、イラン戦争を巡ってはいわゆる「トランプ・プット」に頼るべきではないと警告している。
ニューヨーク拠点の投資会社アンリミテッドの最高投資責任者(CIO)、ボブ・エリオット氏は「戦争についての古典的な言い回しに立ち返ることになるが、いったん始まれば戦争は独自の勢いを持つ。市場に生じている痛みに影響を与え対応する能力は、いわば『解放の日』のように、基本的にトランプ大統領が政策選択を完全にコントロールしていた状況ほど容易ではない」と語った。
米国とイスラエルによるイラン攻撃は中東を不安定化させ、原油価格の上昇を通じて米国経済に新たなインフレショックをもたらす恐れがある。いつ、どのように終結するのかも見通せず、長期化や予期せぬ結果が生じる可能性が高まっている。
この点でイラン戦争は、トランプ氏の貿易戦争やグリーンランド領有を巡る発言、米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性に対する脅威とは異なる。これらはいずれも米国内外の投資家を動揺させたが、それぞれの局面でトレーダーは金融市場が大きく下落すればトランプ氏が方針を修正すると予想するようになった。この戦略は「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプ氏はいつもおじけづく)」トレードと呼ばれ、押し目買いの心理を生み、株価の反発を後押ししてきた。
こうした背景が、米国市場の初期の反応を和らげた可能性がある。米国株と米債券の下げ幅は海外市場に比べて小さい。直近2日間はいずれも米国株が大幅安で始まったが、取引時間中に下げを取り戻した。3日のS&P500種株価指数は一時2.5%下落したものの、終値は0.9%安だった。
インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「これまでの下落局面と同様、最初の押し目買いが妥当なサポート水準で入り、 FOMO(乗り遅れ恐怖症)に駆られたトレーダーが反発をさらに押し上げた」と述べた。

トランプ氏は3日、ホルムズ海峡を航行する石油タンカーやその他の船舶の安全を確保するため、米国が保険と海軍による護衛を提供すると明らかにした。
しかし原油価格の急騰は米国のインフレをさらに悪化させる恐れがあり、FRBが利下げを再開するかどうかに疑問を投げかけている。ここ数週間、株式市場は人工知能(AI)を巡る懸念やクレジット市場でのストレス、雇用の伸び鈍化への不安などがすでに重しとなっていた。
ベアードの投資ストラテジスト、ロス・メイフィールド氏は、中東の石油インフラが広範な被害を受けるリスクがあり、戦争の終結が早くても影響が長引く可能性があると指摘した。
トランプ政権はイランへの攻撃が数週間続く可能性を示唆しているが、紛争終結の条件について明確に説明していない。現時点では、市場の反応は米政権に重大な懸念を抱かせるほど深刻ではないとアナリストはみている。昨年4月には広範な市場の急落を受け、トランプ氏が関税措置を一時停止した経緯があった。
BCAリサーチの地政学・米政治担当チーフストラテジスト、マット・ガートケン氏は、米政権に強い圧力をかけるには「市場主導のリセッション(景気後退)」リスク、あるいは株価が約10-15%下落する必要があると述べた。
HBウェルス・マネジメントのチーフ市場ストラテジスト、ジーナ・マーティン・アダムス氏は、トランプ氏にとって「本当に問題になるには、もっと深刻にならなければならない。はるかに深刻である必要がある」と語った。
ナティクシスの米金利戦略責任者、ジョン・ブリッグス氏は、トランプ氏が紛争から手を引くには、債券利回りが上昇し、それが「クレジット市場や株式市場に波及するような混乱的な動き」になる必要があると述べた。
もっとも、トランプ氏の対応にかかわらず、株式市場は紛争が原油価格に与える影響に大きく左右される可能性がある。モルガン・スタンレーのCIO兼米国株チーフストラテジスト、マイク・ウィルソン氏によれば、中東での紛争時でも原油価格が前年から75%以上急騰しない限り、株式は上昇する傾向がある。
RBCキャピタル・マーケッツのロリ・カルヴァシナ氏は、地政学的イベントによる下落後に株式を買うとリターンが得られる傾向があるとの過去の事例には注意が必要だと指摘した。株式の反発は、より広範な戦争に伴うリスクを必ずしも反映していないと警告する。
同氏は「2022年にロシアがウクライナに侵攻し、米国が新型コロナウイルス禍後の大幅なインフレ急騰を経験した際と同様、今回の経験は、株式市場に関して地政学的イベントを単独で評価することがいかに難しいかを思い起こさせる」と述べた。
原題:Wall Street Sees No ‘Trump Put’ for Stocks Rattled by Iran War(抜粋)
--取材協力:Carmen Reinicke、Youkyung Lee、Miles J. Herszenhorn.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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