(ブルームバーグ):トランプ米大統領による対イラン戦争は、中間選挙を8カ月後に控えるなか、有権者の不満が高まる経済情勢にさらなる打撃を与えるリスクをはらんでいる。
米国民にとって最も大きな影響は、ガソリン価格の上昇という形で表れる公算が大きい。トランプ大統領が一般教書演説でガソリン価格の下落を誇ったわずか数日後、米国とイスラエルはイランへの攻撃に踏み切った。
ただ経済学者らは、イランの体制転換を目指す今回の軍事行動が、エネルギー市場にどのような影響を及ぼすかを判断するのは時期尚早だとしている。
底堅さを保ってきた米経済への影響を左右する最大の要因は、戦争がどの程度長期化するかだ。それが原油や天然ガスの供給停滞の度合いを決め、ひいては米国民が支払うガソリンや天然ガス価格を左右する。
そうした状況は、インフレ再燃に警戒を強めている米連邦準備制度理事会(FRB)にとって新たな難題だ。紛争が長期化し、サプライチェーンの混乱が再び広がれば、より広範なリスクが生じかねない。
経済への影響だけでなく、11月の中間選挙で共和党がどのような結果を迎えるかも、戦争の行方次第だ。
トランプ氏は、イランに対する攻撃が「4-5週間」続く可能性があると述べ、「必要とあらばいくらでも」延長する用意があるとしている。一方、ヘグセス国防長官は、イランとの軍事衝突が終わりのない戦争に発展することはないと否定。国防総省で開いた記者会見で「これはイラクでも、終わりのない戦争でもない」と語った。
最近の世論調査では、トランプ大統領の経済運営や関税政策といった看板政策に対し、すでに米国民の過半が不支持を示している。インフレへの怒りを追い風に同氏が大統領選に勝利した2024年からは大きく様変わりした。
ホルムズ海峡ショック
ガソリン価格は、これまでも景気に対する国民の見方を左右してきた。同価格が中東情勢の影響を受けやすいのは、世界で海上輸送される原油や天然ガスの約5分の1が、イランが通航を事実上握るホルムズ海峡を通過しているためだ。 米国とイスラエルがイランを空爆した2月28日以降、タンカーの往来は急減している。
この状況が続けば、原油価格は1バレル=100ドルを上回る水準で推移する可能性が高いと、エネルギー調査会社ウッド・マッケンジーは指摘する。
INGのチーフ国際エコノミスト、ジェームズ・ナイトリー氏によると、原油価格がその水準まで上昇すれば、全米のガソリン価格は現在の1ガロン当たり3ドル前後から4.50ドル程度まで上がる可能性がある。それだけで総合インフレ率を約1.5ポイント押し上げる可能性があり、航空運賃や物流コストへの波及も見込まれる。

投資銀行ナティクシスのエコノミストは1日のリポートで、インフレが上昇するなかで今年の米経済成長率が0.5-1.5%に減速するシナリオを示した。さらに、少なくとも数四半期にわたり景気が後退する可能性もあるとした。
もっとも、米国は以前に比べれば原油ショックに対する耐性を高めている。国内生産が大幅に増加し、エネルギー輸出国へと転じたためだ。
野村の先進国担当チーフエコノミスト、デービッド・セイフ氏は「現在の米国では石油生産が大幅に増えているため、原油価格が急激に変動しない限り、経済全体への影響は比較的小さい傾向にある。ただし、経済への影響の出方は一様ではない」と述べた。
原油価格が上昇すれば、テキサス州などの産油州は恩恵を受ける。RSMのチーフエコノミスト、ジョセフ・ブルスエラス氏は「米国が純エネルギー輸出国であることが、結果として予想外に国内総生産(GDP)を押し上げる可能性がある」と指摘する。
スタグフレーションの兆し
アナリストらは、紛争の長期化や拡大が進み、混乱がエネルギー分野を超えて深刻化した場合の影響を探っている。すでにその兆候が出ているとの指摘もある。
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO=ピムコ)の元トップ、モハメド・エラリアン氏は、保険料の急騰や貨物船の引き返しや迂回、航空便の混乱に言及し、これらの累積的な影響は「世界経済を揺るがしかねない新たなスタグフレーションの兆し」だと1日に指摘した。
米経済成長率が打撃を受ける経路としては、戦争を受けた株式市場の下落もある。株価の急上昇は資産効果を通じ、消費支出を押し上げてきた。
また、イランと友好関係にある中国との間に新たな緊張が生じる可能性もある。トランプ氏は米中の貿易戦争の沈静化を図っており、今月末には北京を訪問する予定だ。
原題:Trump’s Iran War Adds New Potential Shock for US Economy, Voters(抜粋)
--取材協力:Vince Golle、Malcolm Scott.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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