米フィンテック企業ブロックが従業員の約半数に当たる4000人を削減すると先週発表した際、共同創業者のジャック・ドーシー氏が示した説明は一見、単純明快にみえた。人工知能(AI)の活用で、より多くの業務をより少ない人員でこなせるという内容だ。

だがこの説明は、AIと雇用の将来を巡る複雑な議論に火を付けた。前例のないペースで雇用が奪われるとの強い懸念がある一方、企業が従来型のコスト削減を技術革新と装って実行に移しているとの冷ややかな見方も交差する。

企業がAIを体裁の良い口実に、不都合な人員削減を従業員や投資家に対して正当化しているのではないかとの見方は広がり、「AIウォッシング」という言葉さえ出回っている。

ジャック・ドーシー氏

ブロックのここ数年を振り返れば、AI導入だけが人員戦略に影響しているわけではない状況が示唆される。同社は新型コロナウイルス禍の最中とその後に人員を大幅に増やし、2019年から22年にかけて従業員数は3倍超に膨れたが、これを縮小するペースが同業他社より遅かった。株価は25年初めから約40%下落したが、その要因はAIではない。肥大化した組織にあった。

フィンテック専門の投資銀行、フィナンシャル・テクノロジー・パートナーズのシニアアナリスト、ザカリー・ガン氏は「従業員数全体を見ると、AIというよりも、長年にわたって事業が膨張していた要因の方が大きい」と指摘した。

企業は新技術を積極的に取り入れている姿勢を投資家に示そうとするが、職場の自動化に詳しい専門家はAIツールについて、労働市場で大規模な人員削減を引き起こす段階にはまだ達していないとみている。

雇用崩壊懸念は「過度」

ゴールドマン・サックスは2月27日に発表したリポートで、AIが雇用を崩壊させるとの差し迫った懸念は「過度だ」との見方を示した。同行のエコノミストによれば、AIの影響を受けるテクノロジーなどの分野が米雇用者数の伸びを押し下げるペースは月間5000-1万人程度で、AI導入が進むにつれ、失業率は0.5ポイント上昇する見込みだ。

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も先週、AIが雇用喪失を引き起こしている兆候を同中銀のエコノミストらは注視していると述べた上で、「懸念されているような大量解雇の波はまだ見えない」と語った。

アマゾン・ドット・コムが昨年に大規模な人員削減を発表した際には、その理由がAIではないことを強調している。10月の決算発表でアナリストらから質問を受けたアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は、「財務的な理由でもなく、AI主導でもない。少なくとも現時点ではそうだ」と説明していた。

一方で、セールスフォースやHPなど、AIによる効率化を理由に人員削減を挙げる企業のケースは過去1年で増え、AIは雇用を奪うのかという疑問は提起されてきた。

折しも、ブロックの人員削減発表のタイミングは、調査会社シトリニ・リサーチがニュースレターで大規模失業という悪夢のシナリオを描き、株価を幅広く急落させてからわずか数日後だった。

労働者の不安は増幅

こうしたリポートや見方は、厳しい雇用環境に対する多くの労働者の不安を増幅させる。米企業が1月に発表した人員削減は10万8000人超と、金融危機下にあった2009年以来、年初としては最多となった。

ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された最近の世界の経営幹部調査によると、AIを理由とする人員削減はあるものの、そのほぼすべてが先取り的な措置だ。経営陣は、まだ実現していない大幅な効率化効果を見込んでいる。

ドーシー氏は従業員に送付しソーシャルメディアでも共有した書簡で、既にAIに置き換えられた職種よりも、今後起きると見込む変化に重点を置いた。

「私には2つの選択肢があった。転換が進む中で数カ月から数年かけて徐々に人員削減するか、現状を率直に示し今すぐ行動するかだ」と記し、「私は後者を選んだ」と続けた。

ドーシー氏はまた、自身の企業の肥大化を指摘した向きに対し、ソーシャルメディアで反論した。コロナ禍での「過剰採用」や一部の事業運営で非効率性があったことは認めつつ、これらは是正済みで、現在は従業員1人当たり200万ドル(約3億1200万円)超の粗利益創出を目指していると説明した。コロナ前の4倍の水準に相当するという。

ウォール街の反応を見る限り、懐疑論はかき消されたようだ。人員削減の発表後、ブロックの株価は17%近く上昇して取引を終了。このうち、どの程度がAI導入への期待によるもので、どの程度が人件費縮小への安心感によるものかを切り分けて考えるのは、人員削減を好感しがちな市場においては、さほど重要ではないかもしれない。

原題:Dorsey’s 4,000 Job Cuts at Block Arouse Suspicions of AI-Washing(抜粋)

--取材協力:Natasha Mascarenhas.

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.