米国とイスラエルによるイラン攻撃を受け、エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上封鎖状態となった。原油価格高騰に伴いガソリン価格や物流コストなどが上昇して日本でもインフレが加速する恐れがある。

イランのアラグチ外相は1日のアルジャジーラTVとのインタビューで、ホルムズ海峡を封鎖する意図はないと主張し、現時点で海峡は開かれていると述べた。ただ、イラン革命防衛隊はタンカー3隻を攻撃したと表明したとも報じられており、ホルムズ海峡は事実上、封鎖されている状況だ。日本郵船や川崎汽船などの国内大手海運会社も通峡を停止している。

 

イラン南岸にあるホルムズ海峡を2024年には世界全体の消費量の約20%に相当する原油が通過した。原油輸入の約9割を中東に依存する日本の場合、23年輸入量の約74%がホルムズ海峡経由だったとされ、封鎖の影響はさらに大きい。

日本は12月末時点で254日分の石油を備蓄しており、国内の石油製品の供給にただちに支障が生じることはない。ただ、情勢の緊迫化を受け原油価格は2日の取引で急騰している。ICEフューチャーズ・ヨーロッパの北海原油代表種ブレント先物は、一時25年1月以来の高値を付けた。日本政府が11月中旬以降に行った補助金拡大や暫定税率廃止で下がったガソリン価格が再び上昇する公算が高まっている。

楽天証券の吉田哲コモディティアナリストは、ホルムズ海峡は「しばらくは航行できない状況が続く。結局は原油需給を引き締める方向に向かいやすくなる」と述べた。日本においてはガソリン価格や燃料費などの上昇によりインフレが進む可能性があり、「高市政権が今行っている物価高対策や日銀の金融政策にも影響が出る」と続けた。

高市早苗首相は2日の衆院予算委員会で、緊迫化する中東情勢に関し、「わが国のエネルギー安定供給確保に万全を期す」と述べた。その上で国民生活や経済活動への影響を最小限に抑えるための必要な対応を機動的に講じたいとした。

また木原稔官房長官は同日の記者会見で、「石油需給において直ちに影響が生じるとの報告は受けていない」と説明。供給懸念が発生した場合の石油備蓄の放出について「現状では具体的な予定はない」とした。

 

LNGは中東依存度低く

船舶を所有する船主の費用などを補償するための相互扶助の組織である日本船主責任相互保険組合(P&Iクラブ)は2日、再保険者からイランおよびペルシャ湾における戦争リスクに対する補償を解約するとの通知を受け、同組合も同様の措置をとる方針だと明らかにした。イラン領海のほか、ペルシャ湾およびその隣接水域での戦争リスクに対するカバーが日本時間6日午前9時に終了する。用船者責任保険特約など一部保険の戦争リスクが対象となる。

石油元売り大手のコスモエネルギーホールディングスの広報担当者は、ホルムズ海峡が封鎖されても、備蓄があることなどからただちに石油製品の供給に影響が出ることはないと述べた。出光興産の広報担当者は、原油の調達状況に変化はないとし、米国からの輸入に切り替える必要などは生じていないとした。最大手のENEOSホールディングスの広報担当者は、操業への影響や今後の対応について検討中だとした。

伊藤忠商事の広報担当者は、原油・石油製品の船積みに一部影響が出ているとした。状況を注視する一方、中東地域以外からの調達を適宜検討していく方針だという。

日本は中東地域からはアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、オマーンの3カ国から液化天然ガス(LNG)を輸入しており、貿易統計によると昨年は全体の約11%に当たる約70万トンを輸入した。石油に比べ中東への依存度は低い。国内発電最大手のJERA(ジェラ)が21年に大型の長期契約を更新しなかったことなどを受け、世界有数のLNG輸出国であるカタールからの輸入量はかつてに比べ大幅に減っている。

UAEのADNOCガスからLNGの供給を受ける石油資源開発(JAPEX)は、ホルムズ海峡の封鎖期間によっては事業への影響は可能性があると述べた。関西電力はエネルギー輸送が長期間滞るなどの影響が出た場合、「代替調達も含めたあらゆる手段を含めて対応を検討し、燃料の安定調達に全力を尽くす」とコメントした。

JERAの広報担当者は1日の時点で影響を受ける液化天然ガス(LNG)の輸送船はなく、当面は発電に必要な分について適正在庫を確保できる見通しだと述べた。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは2日付のコラムで、イランがホルムズ海峡を完全封鎖し、これが長期化した場合、日本の実質国内総生産(GDP)は1年間で0.65%押し下げられ、物価は1.14%押し上げられると試算した。「その場合、日本は景気悪化と物価高騰が共存するスタグフレーションの様相を強め、景気後退に陥る可能性が生じるだろう」という。

企業業績にプラス影響も

INPEXやJAPEXなど石油やガスの権益を持つ企業はエネルギー価格上昇の恩恵を受けそうだ。INPEXの決算資料によると、原油価格が1ドル上昇すると、同社の純利益は55億円のプラス影響が出ると見込まれる。同社の株価は2日の取引で一時前週末比11%高を付けた。商社も業績にプラスに作用する。三菱商事では原油価格が1ドル上昇すると、通期純利益ベースで20億円の押し上げに、三井物産も24億円の押し上げになる。

逆に原油高がマイナス影響となる業界もあり、原油価格高騰により航空燃料コストが上昇する恐れがある航空会社もその1つだ。ANAホールディングス(ANAHD)の決算資料によると、4-12月の燃油費・燃料税は計3492億円と営業費用全体の2割を超える。1バレル当たりの価格が1ドル上昇するごとに今期の収支に約2億円のマイナス影響があると試算されるという。

ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、エリック・チュー氏らはリポートで、中東での紛争が長期化すれば航空燃料の価格は1バレル100ドルを突破する可能性があり、アジアの航空会社の26年上半期の業績がおびやかされていると指摘した。JALやANAHDなどヘッジを実施している航空会社は価格高騰への耐性が強いとも述べた。

外出避けるよう指示

ブルームバーグが各社の広報担当者に問い合わせたところ、プラント大手の千代田化工建設では、カタールの駐在員など約200人に対して屋外に出ないよう指示している。UAEの主要都市アブダビに現地法人がある東芝では、中東地域への出張を禁止するという。

三菱自動車は、UAEやサウジアラビアに合計6人の駐在員がおり、全員の安全を確認済みだとした。丸紅は中東地域の駐在員の安全は確認できており、今後も状況を注視しながら安全第一に対応するとしている。住友商事もイラン含む中東の従業員については安全を最優先に、適切に対応しているとした。

(保険に関する情報を追加して更新します)

--取材協力:関根裕之、照喜納明美、小田翔子、前川祐補.

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