(ブルームバーグ):トランプ米大統領はイランを攻撃する正当性や目的について、議会を含むいかなる相手にも一度も説明してこなかった。だが、大規模軍事作戦「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」が始動した今、その狙いは明確になった。
答えは「すべて」だ。かつてカジノ経営に携わったトランプ氏にとっても、今回の決断は前例のない規模の賭けに踏み出したことを意味する。
軍事行動の目標を定めることは、なぜそれが必要なのか、どのように実行するのか、そして成功を何で測るのかを明確にすることにほかならない。トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に8分間の動画を投稿し、戦争に踏み切る理由を少なくとも6つ挙げた。
最初に示したのは、米国への差し迫った脅威を未然に防ぐ必要性だった。だが、イラン核協議は来週にも実務者レベルで再開される予定だったため、そうした差し迫った脅威は存在していなかった。
トランプ氏はさらに、この大規模攻撃の理由として複数の項目を挙げた。イランの核開発計画を完全に排除すること、ミサイルとその生産ラインを破壊すること、軍事力と国外の代理勢力を支援する能力を打ち砕くこと、47年にわたるイランによる米軍人への攻撃に報復すること、そしてイランによる自国民のさらなる殺害を食い止めることだ。
だが、最も野心的な目標であり、他のすべてを意味あるものにするために達成が不可欠とされるのは、体制転換だ。それが実現しなければ、イランの活動は弱体化や中断、遅延はできても、止めることはできない。ミサイルや核開発計画、国内での弾圧、国外での軍事活動はいずれ復活するだろう。しかも次は、今回の教訓を踏まえ、戦時下という状況のもとで動き出すことになる。
イラン指導部が交代しなければ、トランプ氏やイスラエルが解決を目指した問題の多くは、むしろ一段と手に負えなくなる。例えば、イランはほぼ間違いなく、核査察官を国外に追放するだろう。そうなれば、米国などがイランのウラン濃縮の動向を把握する能力は大幅に低下する。
もちろん、トランプ氏が体制崩壊を実現させれば、その勝利は疑いようがないものとなる。イランの最高指導者ハメネイ師は国内での支持が乏しく、国外ではなおさらだ。その指導体制に評価すべき点はなく、それがなくなれば世界は確実により良くなるだろう。
しかし、今回の作戦に伴うリスクは紛れもなく現実のものだ。これほど大規模で、しかも目標を限定しない攻撃に米国が踏み切ったことで、イラン指導部は生き残りを懸けた戦いと受け止めざるを得ない状況に追い込まれた。残る問題は、イランが米国とその同盟国にどの程度の損害を与え得るのか、そしてそれがどの程度の期間に及ぶのかという点にある。
イランが、ホルムズ海峡の封鎖や原油タンカーへの攻撃、さらには石油インフラへの打撃といった脅しを実行に移す能力をどの程度維持しているのかも不明だ。こうした危険があるからこそ、イランに好意を抱いていないサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などのスンニ派主導のアラブ諸国は、米・イスラエルによる攻撃を支持することに慎重な姿勢を崩していない。
空爆だけで体制転換を実現できる国があるとすれば、イランはその条件を備えた国かもしれない。とはいえ、空軍力のみで体制を打倒した前例はない。だからこそトランプ氏は、イラン国民に立ち上がり、自ら主導権を握るよう呼びかけた。今やすべては国民にかかっている。
もっとも、体制転換が実現したとしても、その影響はイラン国内にとどまらず、周辺諸国にも広がるだろう。イランは人口9200万人を抱え、長い歴史と強い自負を持つ国だ。ただ、政権を引き継ぐ態勢が整った組織的な国内勢力は存在せず、規模の大きい少数派集団が混乱に乗じる可能性もある。
米国はこうした局面を過去にも経験してきた。アフガニスタンでの20年に及ぶ関与、2003年以降のイラク、2011年のリビアなど、中東での軍事介入が失敗に終わった例は枚挙にいとまがない。
だからといって、今回もうまくいかないと決まったわけではない。しかし、一つ確かなのは、この戦争の行方を見通せる者は米政権内にはいないということだ。
(マーク・チャンピオン氏は、欧州・ロシア・中東を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はウォールストリート・ジャーナルのイスタンブール支局長を務めていました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:US Goals for Iran Are Clear - It Wants Everything: Marc Champion(抜粋)
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