トランプ米大統領は、イランの核計画を抑制する合意が協議で得られなかったとして、同国を攻撃する脅しを実行に移した。イランには報復の選択肢の一つとして、ホルムズ海峡の航行を遮断、あるいは事実上封鎖する措置がある。

ペルシャ湾の入り口に位置するこの狭い水路は、世界の海上石油貿易の約4分の1を扱う。中東から中国や欧州、米国など主要エネルギー消費国に原油や天然ガスを運ぶ大型タンカーの航行をイランが阻止すれば、供給の混乱は原油価格の急騰を招き、世界経済を不安定化させる恐れがある。

原油相場は2月にすでに6カ月ぶり高値を付けた。トランプ氏が軍事攻撃を命じるとの観測が背景だった。

 

ホルムズ海峡はどれほど重要なのか

ホルムズ海峡はペルシャ湾とインド洋を結び、北岸にイラン、南岸にアラブ首長国連邦(UAE)、オマーンが位置する。

この海峡は世界の石油貿易に不可欠だ。ペルシャ湾周辺の多くの産油国には、海上輸出の代替ルートがほとんどない。ブルームバーグの集計データによると、2025年には日量約1670万バレルの原油とコンデンセートがタンカーでホルムズ海峡を通過した。サウジアラビアとイラク、クウェート、UAE、イランはいずれもホルムズ経由で石油を輸送しており、その大半はアジア向けだ。

ホルムズ海峡は液化天然ガス(LNG)市場にとっても極めて重要だ。昨年は世界のLNG供給の約5分の1が通過し、その大半はカタールからの輸出だった。

ホルムズ海峡は全長約100マイル(約161キロメートル)で、最も狭い部分の幅は21マイルに過ぎない。双方向の航路の幅はわずか2マイルだ。水深が浅く機雷の脅威を受けやすい。特にイランに近い位置にあるため、沿岸からのミサイル攻撃や巡視船、ヘリコプターによる妨害の標的になりやすい。

本当にホルムズ海峡を封鎖できるのか

国連海洋法条約(UNCLOS)の下では、沿岸国は自国の海岸線から12カイリ(約22キロメートル)まで主権を行使できる。これはホルムズ海峡の最狭部よりも短い距離だ。沿岸国は外国船舶の領海における「無害通航」を認めなければならず、国際航行に使用される海峡では無害通航や通過通航を妨げてはならない。イランは1982年に条約に署名しているが、議会での批准は行っていない。

イラン政府はこれまで地政学的緊張が高まった局面で、海上封鎖を実施する能力があると主張してきた。だが、ホルムズ海峡を完全に閉鎖するという脅しを実行に移したことはない。仮に全面封鎖となれば、このエリアを巡回する米国をはじめとする西側から強い反応を招く可能性が高い。

イランは、軍艦を1隻も出さずとも深刻な混乱を引き起こすことが可能だ。海峡沿いの海岸線を活用できるためで、小型高速艇による嫌がらせといった比較的影響の小さい手段から、タンカーをミサイルや無人機で攻撃して商船の航行を危険にするという過激な選択肢まである。機雷を敷設することも可能だが、自国船舶へのリスクも高まるため、その可能性は相対的に低いとみられる。

現代の船舶はGPS信号の妨害にも脆弱(ぜいじゃく)だ。航行を混乱させるこの手法は、国家主体や非国家主体によって世界各地で使われつつある。昨年6月のイランとイスラエルの衝突時には、ホルムズ海峡周辺で数千隻の船舶が航行障害に見舞われた。

ホルムズ海峡が混乱した場合の原油市場への影響は

ホルムズ海峡の航行が危険になれば、船舶は西側諸国の海軍の護衛下で船団を組んで通過する可能性もある。通行に時間はかかるが、世界の石油供給に大きな影響は及ばないと考えられる。

一方、ホルムズ海峡が数日を超えて完全封鎖される事態となれば、エネルギー市場にとって悪夢のシナリオになる。ケプラーのシニア原油アナリスト、ムーユー・シュー氏は昨年6月、イランが海峡をわずか1日封鎖しただけでも、原油価格が1バレル=120-150ドルまで急騰する可能性があると試算。国際指標の北海ブレント原油は2月20日時点で年初来平均66ドルだった。

ホルムズ海峡の封鎖は、イラン経済にも打撃となる。自国の石油を輸出できなくなるためだ。また、中東からの原油供給が滞れば、イラン産原油の最大の買い手であり、国連安全保障理事会で拒否権を行使して欧米主導の制裁や決議からイランを守ってきた中国との関係悪化も招きかねない。

ホルムズ海峡に最も依存している国はどこか

ホルムズ海峡経由で最も多くの石油を輸出しているのはサウジアラビアだ。だが、国内を横断して紅海沿岸のターミナルに至る746マイルのパイプラインを利用し、出荷先を振り替えることができる。東西パイプラインの原油輸送能力は日量500万バレルだ。

UAEも油田からオマーン湾沿いの港に至るパイプラインを活用することで、ホルムズ海峡を一定程度避けられる。ハブシャン・フジャイラ・パイプラインの原油輸送能力は日量150万バレルだ。

イラクにはトルコを経由して地中海沿岸に至るパイプラインがあり、昨年再開された。ただ、北部油田からの原油しか輸送できないため、原油輸出のほぼ全てはバスラ港から海上輸送され、ホルムズ海峡を通過する。クウェートやカタール、バーレーンには代替ルートはなく、同海峡を通じて輸出するほかない。

イランも石油輸出でホルムズ海峡に依存している。ブルームバーグがまとめた船舶追跡データによると、25年に同海峡を通過したイラン産原油の量は18年以降で最多となった。

米国と同盟国はホルムズ海峡の脅威にどう対応してきたか

1980-88年のイラン・イラク戦争では、石油施設への攻撃が激化し、両国がペルシャ湾で商船を攻撃する「タンカー戦争」に発展した。米海軍は、イラク産原油を運ぶクウェート船舶の護衛に乗り出した。

米国とイランの最近の緊張局面では、船舶は危険にさらされる時間を最小限に抑えるため、ホルムズ海峡通過時の速度を上げている。米国はまた、米国旗を掲げる船舶に対し、ホルムズ海峡航行時には可能な限り、イラン領海から距離を取るよう勧告している。

原題:How Strikes on Iran Put Focus on the Strait of Hormuz: QuickTake(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.