トランプ米大統領は新たなグローバル関税の導入に踏み切り、連邦最高裁の判断で否定された通商政策の立て直しを図るだけでなく、米経済が深刻な国際収支危機に直面していると宣言した。

しかし、この主張を巡りトランプ政権にとって潜在的な問題となるのは、多くのエコノミストや現時点の金融市場が、世界一の経済大国がそうした崖っぷちに立たされているとはみていないことだ。

今回の新たな輸入関税は、再び法的な争いを招き、貿易相手国や企業、消費者、投資家にさらなる不確実性をもたらす可能性が濃厚だ。

トランプ氏は20日の最高裁判断で無効とされた関税に代わる措置として、10%の世界一律関税導入を発表し、その後、関税率を15%に引き上げた。この発動の根拠に1974年通商法122条を挙げた。

この条項は、国際収支に根本的な問題が生じている状況において、大統領が最長150日間、関税を課すことを認めている。具体的には、大規模で深刻な米国の国際収支赤字や、ドルの差し迫った大幅下落などが含まれる。

ベッセント財務長官は22日、CNNとFOXニュースのインタビューで、新たな関税は一時的な措置であり、歳入を引き続き財務省に確保するとともに、最終的には別の権限に基づく関税に置き換えられると述べた。

「5カ月間のつなぎ」

ベッセント氏はCNNに対し、実施前に調査を必要とする他の関税権限に言及しつつ、議会がどう対応するか見守る必要はあるが、122条は1962年通商拡大法232条関税や1974年通商法301条関税の調査が行われる間の「5カ月間のつなぎ」になる可能性が高いと述べた。恒久的な制度というよりは橋渡し的な措置だと説明した。

FOXニュースに対しては、122条は「非常に強力な権限」だとも語った。

ただ、ベッセント氏は新たな関税が特定の国際収支危機への対応として必要だとは述べなかった。財務省は追加コメントの要請に22日時点で回答していない。

トランプ氏は20日に署名した大統領令で、米国の貿易赤字やその他の資金フローを「大規模で深刻」な国際収支赤字の証拠として挙げ、新たな輸入関税を発表した。

トランプ氏が指摘した項目の一つが、対外純投資ポジションだ。これは米国の対外投資と外国からの対米投資の差を示すもので、現在は26兆ドル(約4000兆円)の赤字となっている。ただし、国内外の企業に対し米国への投資拡大を迫る関税措置は、この数字をさらに拡大させる可能性がある点には触れていない。

また、1月に公表されたこのポジションに関する最新の報告書で、米株式市場の評価額急上昇を、米国の対外純投資ポジションのマイナス拡大の主因として米商務省経済分析局が挙げている点にも言及していない。トランプ氏はこれまで、株価上昇を米国への信認の証しだと強調してきた。

ドルの底堅さ

多くのエコノミストが指摘する問題は、トランプ氏の宣言にもかかわらず、米国が債務を支払えない、あるいは海外投資家に対する義務を履行できないことを示す証拠がない点だ。

もしそのような状況にあれば、金融市場で米国の資産が売られ、米経済や世界で最も支配的な準備通貨であるドルに対する信認の低下を背景に、ドルは急落しているはずだ。

国際通貨基金(IMF)の筆頭副専務理事だったギータ・ゴピナート氏は22日、「(元)IMFの立場から言えば、米国には国際収支の根本的な問題はない」とSNSに投稿した。

同氏は同日、ブルームバーグ・ニュース宛ての電子メールで、「150日間の関税は貿易赤字を持続的に縮小する効果はほとんどない。主に、輸入企業が関税を回避しようと購入時期を調整することで、貿易統計が再び大きく変動する結果になる」と指摘した。

バイデン政権下で米財務省の国際部門トップを務めたジェイ・シャンボー氏もインタビューで、トランプ氏の宣言にもかかわらず、米国が国際収支危機に直面していることを示す証拠はないと述べ、国際収支危機とは「国外に流出する資金を相殺するだけの資金が国内に流入していない状況を指す」と説明した。

しかし実際には、国内への資金流入が貿易赤字を相殺している。もしそうでなければ、ドルは、国外への資金流出を賄うために米国に資金を投じようとする者がいなくなり、「急速に下落している」はずだとシャンボー氏は語った。

元米財務省高官のマーク・ソーベル氏もトランプ氏は的外れだとし、同氏は「財政見通しをはるかに懸念すべきだ。多くの試算では、今後10年間の財政赤字は国内総生産(GDP)の年平均6%に達し、その後さらに大きく拡大し得る」と言及。「世界市場が吸収しなければならない米国債発行額は膨大で、金利を大きく押し上げかねない」と警鐘を鳴らした。

米大統領が国際収支上の懸念に対応するため関税を発動した前例は、1971年に当時のニクソン大統領が10%の関税を導入したケースが最後だ。この措置は数カ月間続き、固定為替相場の再交渉を各国に迫り、過大評価されていたドルに対処する狙いがあった。

米国がこの時、直面していた根本的な国際収支問題は、保有する金準備がドルの価値に見合っておらず、投機筋がドルへの攻撃を始めていたことだった。

122条は、実際にはこの「ニクソン関税」への対応として議会が制定した法律の一部であり、将来の大統領による権限行使に一定の歯止めを設ける目的があった。

一方で、トランプ政権が122条の規定を用いたことには一定の妥当性があると主張するエコノミストもいる。

米外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー氏は、米国の経常赤字は現在GDPの約3、4%に達しており、「大規模で深刻」との定義に該当するほど重要だとの見解を示した。

「赤字は大きい」

ただし、米国が「根本的な国際収支問題」に直面しているかどうかは、より難しい問題だと、元米財務省高官の同氏は22日、一連のSNS投稿で記した。

「赤字は大きい」としつつも、米国への2025年のポートフォリオ投資流入は、5000億ドルの対外赤字を賄うのに十分な強さを維持していると指摘。「ドルは現在かなり強い」とコメントした。

一部の通商専門家は、トランプ氏が国際収支危機を理由に関税を発動することについて、米国または他国がこの措置を世界貿易機関(WTO)に提起しそうだと論じる。

その場合、国際通貨基金(IMF)が関与し、関税措置を正当化する危機が米国に存在するかどうかの判断を求められる可能性がある。

ジョージタウン大学ロースクールのジェニファー・ヒルマン教授は、「122条の条件を満たしているかどうかは明確ではない」と述べるとともに、米国が金本位制を放棄して以降、この条文が想定する理由自体が存在しているのか疑わしいと指摘した。

セッツァー氏はトランプ氏の関税措置の正当性が最終的に裁判所で争われるのは確実だとしつつも、「より重要なのは、根本的な国際収支問題や国際収支赤字の意味を巡る訴訟が150日以内に決着するとは思えないことだ」と話した。

「そのため、裁判所が判断を下す前に関税の期限が切れる公算が大きい」とみているという。

原題:Trump Pegs New Tariffs to a Payments Crisis Experts Doubt Exists(抜粋)

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