(ブルームバーグ):2026年に入り、ベネズエラやイラン、グリーンランドを巡る混乱がニュースの見出しを飾っている。しかし、米国にとって最大の外交課題は中国だ。米中の競争関係は依然として、世界情勢の中心的な分断線だ。
トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は2月4日、電話会談を行った。両首脳の間で激しい外交が展開される1年の始まりだ。2人は年内に北京やワシントン、その他の場所で会談する可能性もある。今後数カ月、トランプ氏が米国の競争上の立場を崩すことなく、この対話を維持できるかどうかが試される。
25年の米中関係は貿易戦争で始まり、停戦で終わった。トランプ氏は「解放の日」と銘打った4月2日に関税措置で先制攻撃を仕掛け、中国は報復関税とレアアース(希土類)輸出規制で応じた。
断続的に続いた貿易戦争は、昨年10月末に両首脳が韓国で会談したことで休戦に至った。ただしその前に、トランプ氏は半導体を巡る米国の対中輸出規制の巻き戻しに着手しており、中国ではなく米国が先に身を引いたとの印象を世界の多くに与えた。
理論上、米国が26年に採用する戦略は硬軟織り交ぜたものになる。政権当局者は非公式に、トランプ氏が個人的な外交を通じて関係の安定を保ち、その間にレアアースのサプライチェーンの強化を進めると主張している。米中のデカップリング(切り離し)は避けられないかもしれないが、できれば米国が主導する時間軸と条件で進めたいという考えだ。
米政府は台湾を含む太平洋のホットスポットに関するレトリックを和らげる一方で、同盟国に軍事支出を大幅に増やすよう促し、台湾向けに過去最大規模の武器取引を承認し、その他の形でも米国の立場を強化していく。
先端半導体の対中輸出容認は、中国に米国産半導体を使わせることで米国の影響力を高め得ると米当局者は主張している。
それにより、米国によるテクノロジー分野の締め付けが時期尚早な軍事衝突を招くリスクも低減するとみている。
政権内部では、米国は1941年の過ちを繰り返しかねない危険に直面しているとの見方がある。当時は米艦隊が戦う態勢を整える前に、石油禁輸で日本を経済的に締め上げようとした。
米国は長年にわたり、台湾や人権問題を巡り過度な姿勢表明を続けてきた。一方、自国の防衛を確実にするために必要な軍事投資は、米政府もその同盟国も不十分だった。
中国による輸出規制と執拗な軍備拡張により、米国が相対的に弱くなる局面に入っているのであれば、大きなこん棒を準備しながら、発言は控えめにする方が得策だ。
トランプ氏が最近打ち出した重要鉱物を巡る一連の取り組みは、鉱山会社への政府投資や新たな戦略備蓄の創設、同盟・友好国との数多くの協力関係の構築から成り、道のりは長いものの、産業面での安全保障を高める工程を描いている。
個人的な外交が敵対的な関係を一変させることはないにせよ、センシティブなメッセージをあまり表に出てこない習氏に確実に届ける助けにはなり得る。しかし、さらに掘り下げると、潜在的に致命的とも言える4つの問題点が浮かび上がる。
ディール重視
第一に、トランプ氏のアプローチは一貫したロジックがあるように見えるが、実際には不可解な矛盾をはらんでいる。米国が衝突に備えているのであれば、中国人民解放軍が米兵と戦うために使う可能性のある米エヌビディアの人工知能(AI)半導体「H200」を中国に売るのはクレージーだ。
これらの半導体が競争上のボトルネックを解消し、中国のAI開発を加速させるなら、米国が持つ非対称的な優位性を損なうことになる。
こうした硬軟織り交ぜた戦略は、トランプ氏を取り巻く異なる派閥が整合性を欠く政策を押し進めていることの表れに過ぎないのかもしれない。ディール(取引)重視の大統領は、ハイテクの輸出品を売り込み、政府の取り分を確保することに関心を向けている。
第二に、長年にわたって進行してきた危険は、すぐに解消されるわけではない。トランプ氏の重要鉱物を巡る取引は有望だが、中国依存を意味のある形で減らすには数年を要する公算が大きい。
それでもなお、中国製の医薬品原料など、他の深刻な依存関係が残る恐れがある。中国政府は米国が力を蓄えるのを黙って見てはいないだろう。トランプ氏が輸出規制をさらに緩和しない、あるいは台湾への武器売却を停止しない場合、レアアースを用いた締め付けを再開すると脅す恐れもある。
第三に、トランプ氏のやり方は同盟国やパートナーを冷遇するリスクがある。米政権は日本と台湾、韓国の政府に対し防衛準備を怠らないよう求めたことで正当な評価を受けるべきだ。
しかし、米国防総省(ペンタゴン)は、全面的な台湾侵攻という想定、いわゆる「Dデー」シナリオに焦点を絞っている(Dデーとは1944年のノルマンディー上陸作戦が始まった日だ)。
これについて、台湾の指導層は、台湾の主権を日常的にむしばみ、士気をそぐ中国の「グレーゾーン威圧」への対応を米国側が軽視しているのではと危惧している。
高市早苗首相は、ペンタゴンが望んでいた通りに台湾に対する中国の攻撃に抵抗する日本の意思を明確にし、その結果として中国の反発を買った。だが、トランプ氏のチームが日本に対して公に示した支持は煮え切らないものだった。
アジア以外に目を向けると、トランプ氏の一方的かつ保護主義的な衝動が、中国の経済規模に対抗するために必要な民主主義陣営の世界的な協力を妨げてきた。
最後に、トランプ氏が抱える他の国際危機が、中国に対する立場を強めるのか弱めるのかは不透明だ。ベネズエラのマドゥロ大統領拘束は、中南米における中国の影響力に強烈な打撃を与えた。
イランを再びたたきのめせば、中東における中国の戦略的パートナーを無力化するかもしれない。北大西洋条約機構(NATO)を北極圏の安全保障に集中させることは、いつの日か、中国が高緯度地域へ進出する動きを鈍らせる助けになる可能性がある。
しかし、トランプ氏がデンマークからグリーンランドを接収すると脅したことは逆効果で、無益な亀裂を大西洋同盟にもたらした。ペンタゴンがならず者国家への対応に集中すればするほど、大国の競争相手に割ける余力は減る。現在イランを威嚇している空母打撃群は、南シナ海から移された兵力だ。
トランプ氏の外交政策は分析が難しい。公の場での道化じみた振る舞いが、より鋭い意図を覆い隠すことがあるからだ。トランプ氏は政権1期目に政策転換を図り、対中競争に軸足を移した。今年は、その競争が厳しさを増す中で、勝ち切るための戦略を持っているかどうかが明らかになる。
(ハル・ブランズ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授で、シンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所」のシニアフェローで、マクロ・アドバイザリー・パートナーズのシニアアドバイザーも務めています。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Four Fatal Liabilities in New US Approach to China: Hal Brands(抜粋)
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