(ブルームバーグ):米国がウクライナに軍事情報の提供を一時停止した2025年3月、その影響は即座に表れた。ウクライナ軍は戦場で決定的な打撃を被り、欧州の支援国はなすすべなく見守るほかなかった。
この情報共有停止は数日間で解除されたが、新たな現実を突きつけられた欧州には衝撃が走った。米国はもはや信頼できる軍事パートナーではなく、欧州にはそれに代わる計画が必要になったという現実だ。
欧州は、ますます敵対的になる米国を北大西洋条約機構(NATO)につなぎ留めようと奮闘する一方で、再軍備を急ぐ。そして今、冷戦終結後初めて、欧州独自の核抑止力を構築する方法が域内首脳の間で話し合われていると、事情に詳しい関係者が明らかにした。
ドイツのメルツ首相は13日にミュンヘン安全保障会議で行った演説で、この問題が現在進行形であることを確認。「自分はフランス大統領と、欧州の核抑止力について部外秘の協議を始めた」と明らかにし、「欧州に安全保障上の格差が生じることは許容しない」と続けた。
欧州に配備されている米国の兵器とNATOの相互防衛協定から成る、いわゆる「核の傘」を欧州は米国に依存している。米国がもはや信頼できないとなれば、世界最大の核兵器を持つロシアに欧州は単独で立ち向かわざるを得ない。
現時点で核兵器を保有するのは欧州では英国とフランスだけだ。事情に詳しい関係者によれば、マクロン仏大統領は今月、同国の核抑止力を欧州他国に提供することを提案する見通しだ。マクロン氏は既に昨年、フランスの核の傘を欧州全域に広げる可能性に言及した。

資金さえあれば、理論上は欧州他国も核ミサイルを入手できる。だが、それには苦渋の選択が伴う。自国で核兵器を開発するなら、巨額の費用と国際条約違反を覚悟する必要がある。さもなくば、同盟国の防衛に参加することに同意し、それによって自国が攻撃されるリスクを受け入れるかだ。
国連軍縮研究所(UNIDIR)の上級研究員、パベル・ポドビグ氏は「ロシアがエストニアに侵攻すると想像してみて欲しい」と述べ、「フランスはロシアに甚大な損害を与える能力はあるが、ロシアも確実にフランスに甚大な損害を与えるだろう。フランスにその覚悟はあるだろうか」と問い掛けた。
欧州は慎重に歩みを進めている。協議に詳しい関係者によれば、当局者はこの問題に取り組むにあたり、ロシアに送るシグナルを常に意識し、強い信頼関係にある国々の間で、二国間または三国間の場でのみ議論を進めてきたという。敏感な問題であるため、匿名を条件に関係者は語った。

この議論に関与しているのは、国内に米軍の資産を抱え、ロシアに近くプーチン大統領の脅威を直接感じている国々が多いと、協議に詳しい関係者は述べた。協議は軍の深層部で行われ、閣僚であっても知らない可能性があると、関係者は付け加えた。
13日から始まるミュンヘン安保会議では、核抑止力について熱い議論が交わされる見通しだ。
米国の「傘」を欧州の新兵器で代替することは、多くの国にとって財政的に困難であるほか、さまざまな問題があると、専門家は指摘する。 欧州は既に通常戦力の増強に莫大な費用を投じており、2025年に欧州連合(EU)と英国を合わせた防衛費は5300億ドル(約81兆円)を超え、ポーランドの国内総生産(GDP)の半分以上に相当した。
スウェーデンのヨンソン国防相はミュンヘンで、同国に独自の核兵器を取得する計画はないとしつつ、英国およびフランスとは「核の管理と拡散、この点で欧州が果たすべき役割」についても協議されていると明らかにした。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の上級研究員、ダリヤ・ドルジコワ氏は、現時点で欧州にできる最善策は、ロシア国内の重要目標を攻撃し侵攻を鈍らせることが可能な、高度な非核兵器の開発だとみている。
「汎欧州的な核抑止力は現実的ではない」と、欧州の核抑止力について最近リポートを著したドルジコワ氏は指摘。「それが実現可能だとは思わない。むしろ検討する余地があるのは、英仏両国が自国の抑止力をどう捉え、それが欧州全体の安全保障にどう影響するかという点だ」と語った。
英仏両国が配備する核弾頭は合わせて約400発。これに対し米国は1670発で、核兵器を規制する米国とロシアの新戦略兵器削減条約(新START)が今月で失効することを踏まえると、今後さらに増える可能性がある。
数は比較的少ないものの、フランスと英国の核弾頭で数百の都市を十分に破壊できると、ドルジコワはみている。一方でロシアは機動性に優れ、小型兵器を含む膨大な兵器があるため、事態がエスカレートした際により多様な反撃方法がとれるだろうという。
英仏は毎年、核兵器維持に合計で約120億ドルを支出している。この額はNATOの最も新しいメンバー、スウェーデンの防衛予算の半分以上に相当する。
たとえこれ以上、費用が上昇しないとしても、この高額な兵器が他国の防衛に使われると有権者に納得させるのは難しいかもしれない。両国とも既に財政状況は厳しく、納税者の不満は大きい。
パリに拠点を置くシンクタンク、フランス国際関係研究所(IFRI)の報告書によれば、フランスはポーランドなど欧州他国に核兵器が搭載可能な戦闘機を配備する可能性がある。より容易な選択肢としては、フランスの核演習にNATO加盟国の参加を拡大させたり、同国とNATO核計画グループ(NPG)の連携を強化させたりすることが挙げられた。
各国は「ターンキー」能力、つまり必要に応じて核兵器を製造するためのあらゆる要素を整備する能力に投資することも可能だ。しかし、それですら原子力発電所、複雑で高価な濃縮施設、核不拡散条約に違反する政治的意思が必要だと、欧州の核協議を知る関係者は述べた。
ベルギーのデウェーフェル首相は「フランスの核抑止力は、NATOが提供するような実際の核の傘ではないため、非常に複雑な問題だ」とブルームバーグに述べ、「核兵器について話すのは、多額の支出を話していることと同じだ」と続けた。
英国とフランスで、欧州他国を保護するという約束を守る政府が常に続くとも限らない。フランスでは大統領選挙が来年行われ、マリーヌ・ルペン氏やその腹心のジョルダン・バルデラ氏は、核抑止力を他国と共有するという考えに公然と反対している。
IFRIの研究員、エロイーズ・フェイエ氏は、「同盟国は、フランスには頼れないと思うようになるかもしれない。信頼されるには、速やかに行動して、それが常態化する必要がある」と懸念を示した。
一方、NATOは結束のメッセージを強化している。ルッテ事務総長は、米国は依然としてNATOに完全にコミットしていると繰り返し述べている。米国防総省当局者は、同盟国に対して核抑止力の拡大を米国は続けていると主張した。
実際、米国が欧州に安全保障を自力で担うよう話す際、念頭にあるのは通常戦力だ。この件に詳しい関係者によると、トランプ大統領は核の傘に言及したことはなく、米国側から非公開の場でこの問題を切り出されたこともないという。
ホワイトハウスはコメントの要請に応じなかった。
原題:Europe Talks Nuclear Weapons After US Delivers Reality Check (2)(抜粋)
--取材協力:Ellen Milligan.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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