国外在住の米国民として筆者は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中でも特に忠実な同盟国であるデンマークを威圧し、グリーンランド引き渡しを迫るトランプ米大統領の露骨な試みに対し、欧州が抱く怒りに共感する。

米国がこの姿勢を変えないのであれば、欧州の人々には米国からの輸入品やソーシャルメディアのプラットフォーム、さらにはサッカーの2026年ワールドカップ(W杯)さえもボイコットするよう勧めたい。

ただし、一部の指導者が、欧州連合(EU)のいわゆるバズーカ砲と呼ばれる対抗措置「反威圧措置」(ACI)を用いて、米国との全面的な貿易戦争に踏み出すべきだと主張していることについては、引き金を引く前に、その結果を冷静に見極める必要があると考えている。たとえ、そうした集団的な行動が、どれほど原則に忠実で、正当性があり、感情的な解放感を伴うものであってもだ。

こうした強硬論の背景にある考え方自体は妥当だ。欧州はもはや限界に達している。トランプ氏を融和し、お世辞を並べることで関係維持に努めてきたが、その試みは失敗した。

結果として、米国の最も親密な同盟諸国は弱いとのトランプ氏の認識を裏付けることになり、さらに拍車をかけてしまった。なぜなら、トランプ氏が欧州を「押し切れる」と感じているからだ。

本来であれば、トランプ氏の主張には合理性がほとんどなく、同氏に方針転換を促すことは可能なはずだ。トランプ氏が掲げる「米国の安全保障」を確保するためにグリーンランドが「絶対に必要」な理由は存在しない。

結局のところ、トランプ氏はグリーンランドが欲しいのだ。その理由はそれほど重要ではない。同氏が領有に固執する限り、この広大な氷に覆われたグリーンランドの行方は、原則ではなく力によって決まる。そして、そこではトランプ氏が常に優位だ。

EUは貿易分野では米国と互角に渡り合えるかもしれないが、トランプ氏は通商と安全保障を区別せず、いずれも交渉のレバレッジとして扱う。ベッセント米財務長官が18日に示したように、欧州は米国の軍事力に過度に依存しており、NATOとウクライナの両方を失うようなリスクを取ることはできず、欧州は引き下がると、米国はみている。

ポーランドやバルト3国は、グリーンランド問題を巡って米国による安全保障の傘を危険にさらす覚悟が本当にあるのだろうか。領土主権は彼らが重視する原則だが、あくまで原則に過ぎない。

一方、ロシアから守ってもらうという米国の保護を失う脅威は、存亡に関わる問題だ。情報共有や、ウクライナへのパトリオット防空ミサイルの売却を撤回する口実をトランプ氏に与えるリスクを、ポーランドやバルト3国、そして欧州諸国の大半が本当に取るだろうか。同様に、トランプ氏が関税を課すと警告した欧州8カ国に含まれていないイタリアが、対米貿易戦争の開始を支持するだろうか。

将校1人をグリーンランドに派遣した英国も、関税を課すと脅された国の一つとなった。常に融和的とされるスターマー首相は、この対応を「完全に間違っている」と批判した。しかし、すでに苦境に立つ同首相が、米国との貿易戦争によって輸出や対内投資が打撃を受けるリスクを取るだろうか。

さらに重要なのは、米英の諜報(ちょうほう)機関の緊密な関係、そして英国のトライデント核抑止力でさえ米国製ミサイルに依存しているほど、両国の防衛体制が深く結び付いている点だ。スターマー氏は19日の記者会見で、あらゆる立場に配慮したが、答えはほぼ明確な「ノー」だった。同氏は現実的な対応の必要性を訴えた。

その現実主義はおそらく、トランプ氏ではなく、英国と欧州が主導して示さなければならない。欧米関係のあらゆる分野に波及する貿易戦争に勝てるほど、欧州勢は強くない。仮に試みたとしても、通商のバズーカ砲を撃つべきかどうかで足並みが乱れ、最初の関門でつまずく可能性が高い。

欧州にとって最大の望みは、自己顕示欲に基づく計画のためにNATOを犠牲にしようとするトランプ氏に対し、共和党内から反発が起こり、同氏に撤回を迫ることだろう。

トランプ氏にとってグリーンランドを領有するということは、同氏の敬愛するマッキンリー大統領が1898年にハワイを併合して以来の領土獲得を成し遂げた米国の大統領になれるということだ。これも魅力的に映っているのだろう。

もし、このグリーンランド論争が利己的な自己愛のようなくだらない動機によるものではないと思っているなら、トランプ氏がノルウェーのストーレ首相に送ったとされるテキストメッセージを読めばよい。そこでは、グリーンランド買収の提案が、オスロに拠点を置くノーベル委員会が自身に平和賞を授与しなかったことと結び付けられている。

二つの世界大戦以前、他国から領土を購入したり奪取したりすることは一般的だった。デンマークでさえ、1917年にカリブ海の植民地(現在の米領バージン諸島)を売却している。その後、こうした行為が大きく減ったのは、冷戦と米国の支配的地位があったからだ。だが、悲しいことに、その国際秩序を支えてきた米国自身がそれを壊そうとする中で、欧州にはその枠組みを維持し続けるだけの力はない。

(マーク・チャンピオン氏は、欧州・ロシア・中東を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はウォールストリート・ジャーナルのイスタンブール支局長を務めていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Europe Can’t Afford a Throwdown Over Greenland: Marc Champion(抜粋)

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