高市早苗首相は、就任からわずか3カ月で衆議院解散・総選挙に踏み切る見通しだ。日本初の女性首相である高市氏は、高い内閣支持率を追い風に、与党の議席増を通じて政治基盤の強化を図り、長期政権への足場を築こうとしている。

高市氏は昨年11月、物価高による家計負担を和らげるため、大規模な経済対策を打ち出した。裏付けとなる2025年度補正予算の一般歳出はコロナ禍以降で最大規模。安全保障面では、防衛費を対国内総生産(GDP)比2%とする目標を2年前倒して25年度に達成した。一方、高市氏の台湾有事を巡る発言に中国が反発し、日中関係は緊張感を増している。

高市氏の歯に衣を着せぬ物言いや保守的な路線への転換は、高い支持率につながっている。NHKが10-12日に行った世論調査によると、内閣支持率は62%と昨年10月の発足から6割台と高水準を維持。一方、自民党の支持率は30%台と低迷している。

高市早苗首相(1月16日)

物価高への対応を最優先に「強い経済、強い外交・安全保障の実現」を掲げる高市氏は、26年度予算案の早期成立を目指すとしてきた。総選挙で勝利すれば首相の政治的求心力が高まる一方、政局入りにより予算の成立が遅れる可能性がある。

高市氏は14日、23日召集の通常国会の早期に衆院を解散する意向を与党幹部に伝えた。公示日や投開票日などの日程を含め詳細は19日に記者会見を開き、首相が説明する。

解散の理由は?

自民党の鈴木俊一幹事長は14日、日本維新の会との政策合意の内容をしっかりと進めるためにも「国民の審判を得る必要がある」と発言。責任ある積極財政や安保3文書の見直しなど高市政権が新たに打ち出した政策の審判を仰ぐとした。

同氏は、補正予算に盛り込まれた物価高対策の執行を急ぐとともに、26年度予算の成立が4月以降にずれ込む期間も短くし、経済への影響が出ないようにする考えも示している。

勝敗ラインは?

解散・総選挙が行われれば、衆院定数(465)のうち、289議席が小選挙区から選ばれ、176議席が比例代表で選出される。

自民党の鈴木氏は勝敗ラインについて、連立与党として「過半数を最低限確保しなければいけない」と言明。維新の吉村洋文代表は14日、選挙区調整はしない考えを示した。

自民と維新の連立与党は現在、無所属議員の自民会派入りにより、衆院で233議席とかろうじて過半数を確保している。今回の総選挙は、自民党にとって長年連立を組み選挙協力を行ってきた公明党抜きで臨む選挙となり、自民党が単独でどこまで議席を確保できるかも、選挙後の政策運営の安定を占う上でポイントとなる。

最大野党の動き

最大野党の立憲民主党は、公明党と新党「中道改革連合」を結成した。立民の野田佳彦代表は15日、衆院選での獲得議席目標について「新党が比較第1党になることを目指すことが筋」だと言明。公明の斉藤鉄夫代表は、小選挙区には公明出身の候補者は擁立せず、同党出身者は「比例代表を中心とした戦いになっていく」と語った。

現在の衆院での議席数は、無所属を含む立民会派が148、公明が24で、自民党・無所属会派が199議席。新党結成により公明党票が立憲民主に流れ、自民党が苦戦する可能性がある。創価学会を支持母体とする公明党の票は1選挙区あたり2万票ほどとされる。

ピクテ・ジャパンの市川真一シニア・フェローは15日付のリポートで、24年総選挙の結果を基に各小選挙区における比例代表区での公明党票を自民党候補から控除してシミュレーションすると、無所属を含む自民党系候補の当選者は197人から142人に減少したと分析。さらに、公明が立憲と完全に連携した場合、自民の獲得議席は120議席程度で、立憲は213議席になるという。

市川氏は、立憲・公明が本格的に連携する場合、今回の総選挙が名実共に政権選択選挙となることは確実だとし、「各陣営は有権者の支持を獲得する上で、競って積極財政政策を打ち出さざるを得ない」と指摘している。

複数の国内メディアは週末、高市首相が衆院選の公約に、食料品の消費税を時限的に0%にする案を盛り込むことを検討していると報じた。共同通信によると、早ければ27年1月から減税を実施する案が浮上している。立憲、公明が結成した新党も消費減税策を打ち出す方針で、19日に基本政策を発表する予定。

有権者の関心事は?

世論調査によると、有権者の最大の関心事は生活費の高騰だ。インフレ率は3年半余りにわたり2%以上の水準が続く一方、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない期間が大半を占め、家計への負担が強まっている。

円安の進行も食品やエネルギーなど輸入価格の上昇を通じてインフレ圧力を強めている。一方、円安により訪日外国人観光客が急増し、オーバーツーリズムが深刻化する中、外国人を巡る制度や対応の問題も浮き彫りになっている。昨年7月の参院選では、新興右派政党の参政党が「外国人問題」への対応を公約に掲げ、票を伸ばした。

高市首相にとっての勝敗の意味

今回の総選挙で勝利すれば、高市氏の政策に対する明確な信認が得られ、今後の政策運営でより強い主導権を握ることができる。高市氏は、防衛政策の強化に加え、政府主導の成長投資を軸とする経済対策で景気を押し上げ、税収増を通じて財政健全化を図る方針を掲げている。

一方、敗北すれば、高市氏の政治的立場は一気に弱まる。石破茂前首相は24年に衆院解散・総選挙に踏み切ったものの、連立与党が過半数を失い、その翌年の参院選でも大敗。わずか1年で辞任に追い込まれた。

日本以外の国にも影響を及ぼすのか?

日本はその経済規模から国際金融市場で無視できない存在であり、政治情勢の変化は金利や為替相場、投資家のリスク許容度に影響を及ぼし得る。

選挙を巡る不透明感はすでに円安を招き、国債利回りを押し上げている。これは、日本の財政健全性や政策運営に対する投資家の警戒感を反映した動きだ。

今回の選挙は、地政学や外交面でも重要な意味を持つ。高市氏が勝利すれば、中国が軍事的威圧を強める中で日本は防衛費を拡大し、米国の主要な安全保障同盟国としての役割を一段と強化する方向に進むとみられる。一方、敗北すれば党内の権力争いが激化し、こうした取り組みは鈍化、あるいは複雑化する可能性がある。

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