世界情勢が揺れる中、静かに存在感を増しているのが日本の電子部品です。
アップルが評価した技術から見える、サプライチェーンの要としての日本の現在地を取材しました。
アップルに認められたセンサー “磁性”で世界シェアNo.1

今年も日本中がアップルの新製品に沸きました。
2025年9月に発売されたiPhone17。
発売のたびに語られるのは新機能やデザインですが、その“中身”については、意外と知られていません。
都内にある企業の倉庫。
そこでは企業からの依頼を受けて、パソコンや家庭用ゲーム機など、あらゆる電化製品を分解し、レポートをまとめています。
フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ 柏尾南壮 CEO
「こちらがiPhone17 Pro とAirになります」
最新のiPhoneも発売と同時に分解したといいます。その結果…

フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ 柏尾南壮 CEO
「iPhoneにおいては、ほとんど日本製。日本なしではスマホは作れない」
最新のiPhoneには日本製の部品が1300個近く使われていて、圧倒的な存在感を示しています。
フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ 柏尾南壮 CEO
「昨今の台湾有事の話も報道されましたが、あの国(中国)に何かあった時の電子部品の調達先として、日本の立場・ポジションは上がる」
中でも存在感を示している部品が…
フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ 柏尾南壮 CEO
「日本が強いのがカメラ回り。TDKの『TMR(磁気抵抗)センサー』と呼ばれるもの」
TMRセンサーとは、カメラのオートフォーカスや手ぶれ補正を担う部品です。
これを作っているのが、日本の電子部品大手のTDKです。
2025年9月、東京で開催された世界陸上。
数々の名場面を生み出したアスリートたちの胸をよく見ると、「TDK」の文字があります。
実は今、この会社が存在感を高めています。
2025年9月、アップルのティム・クックCEOに、自社をアピールするTDKの齋藤社長の写真があります。

実はアップルの極秘研究施設が横浜市にあり、これらの写真はそこで撮影されました。
この日、日本のメーカー4社が招かれ、それぞれの技術をクックCEO自ら称賛したといいます。
TDKといえば、かつてカセットテープでトップシェアを誇った企業。
なぜ今、世界のアップルから称賛されているのでしょうか?
長野県のTDKの工場で、特別に撮影が許され、初めてテレビカメラが入りました。
記者
「両サイドから凄い勢いの風が吹いています」

エアシャワーの後に手洗い、そして再びエアシャワー。
徹底的に埃を落とした人だけが入室できるクリーンルームです。
細かな製造工程は機密ですが、唯一撮影が許されたのが部品の形を作る重要な装置です。

TDK 「TMRセンサー」製造 伊藤範之 統括部長
「TMRセンサーをつくるうえで、非常に重要なパターン(素子の形)を作る装置になります」
こうした特殊な機械を使い、いくつもの工程を経て、完成するのが…
米粒よりもはるかに小さく、指先に乗せても気付かないくらいの「TMRセンサー」です。

TDK 「TMRセンサー」事業 宮下勇人 統括部長
「我々の最先端の技術・情熱、全てをつぎ込んだものがこの小ささの中にある。これが我々の強み」
極小の中に凝縮された最先端技術を、アップルは高く評価したのです。
会社の注目度は別の場面でも証明されました。
ラトニック商務長官
「TDKは250億ドル相当のAIインフラに不可欠な電子部品やパワーモジュールを作る」
対米投資についても、アメリカ側からの期待が高まっています。
会社はどのように成長してきたのでしょうか。
TDK 齋藤昇 社長
「社会がトランスフォーム(変化)していくわけですから、私達もトランスフォーム(変化)し続けていく」
会社は1935年、電子部品との相性が良い磁性素材「フェライト」の工業化を目的に創業。
時代の変化に合わせ、主力製品を柔軟に変えることで成長してきました。
今は「TMRセンサー」といったスマホ向け部品がけん引しています。
そして、成長を加速させたのが「買収」です。
TDK 齋藤昇 社長
「40年前からМ&A(買収)を続けてきているが、ここ10年を見ても、相当数の仲間に当社に入っていただいた」

例えば、2005年に約100億円で買収した中国の電池会社は、今やスマホ用電池で世界シェア6割にまで成長しました。
買収を繰り返してきた結果、今では…
TDK社員(グローバル研修会)
「人を集めることで、新しいアイデアが生まれると思う」
グループ企業は141社まで拡大。

10万人を超える社員(10万5077人)の9割は、外国籍です。
グローバル企業となった今も、世界中の幹部を集めた研修を通じて、共通の価値観を共有しています。
その軸となるのが「フェライトツリー」。
創業以来、磨いてきた磁性素材を操る技術です。

TDK 齋藤昇 社長
「磁性素材をいかした形でカセットテープとか、いろんな製品が枝や木のごとく出てきているというのが当社の事業の変遷」