「アート」「芸術」とは何か?巧妙な贋作が世界に問うこと
小川彩佳キャスター:
今も漂流している作品があるということで、私達は作品の何を見ているのか、作品そのものなのか、はたまた誰かが付与した価値なのか、など色々なことを考えてしまっている時点で、もうベルトラッキ氏の手のひらの上だなと感じます。

東京大学准教授 斎藤幸平さん:
「ベルトラッキ展」をやったら、多分すごく人が来て作品も売れるぐらい、彼の作品の持っている“ある種の魅力”が、一つのアートになりかけてるわけですよね。
思い出すのが、哲学で「ソーカル事件」という事件があったのですが、これは物理学者のニューヨーク大学の先生が、現代思想という難解な文章を書く学問を批判するために、数学などを織り交ぜて、でたらめな論文を書いたところ査読を通ってしまい、大事件になりました。
「結局、現代思想は何なのか」ということを問い直す大きなきっかけになったのですが、ベルトラッキ氏がやっていることも、「アートとは何か」という問い直しに一石を投じているかも知れないですよね。

藤森祥平キャスター:
ベルトラッキ氏は、今回取材したディレクターにも「フジタは白い色を際立たせるために、あえてベージュがかったキャンバスを使っているのではないかと私は見ているんだ」というような、専門的な話をしたそうです。
研究熱心でこれだけ腕があるのであれば、ベルトラッキ作で勝負したらいいのでは、と聞くと「それじゃ人生つまらない」と言うそうです。
東京大学准教授 斎藤幸平さん:
私もやってることがベルトラッキ氏と似ているな、と思うときがあります。マルクスのノートや手紙を読んで、「マルクスは、実は『資本論』の2巻と3巻をこう書いたのではないか」というような、空白を埋める作業を実際しているので、それが面白いことで、そこに価値があるんだという彼が最後に言っていたことは、わかるところがあります。
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<プロフィール>
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済・社会思想
著書「人新世の『資本論』」