(ブルームバーグ):ゴールドマン・サックス証券の企業投資部門は、今後10年間で買収を含め日本企業への出資に8000億円を投じる方針だ。企業価値で300億ー3000億円の規模を対象に、MBO(経営者が参加する買収)や事業承継、子会社売却案件を手掛ける戦略だ。
アセット・マネジメント部門で企業投資を統括する糸木悠マネジング・ディレクターはインタビューで、「これまでの2-3倍のペースで投資できる環境になっている」とし、日本発の投資案件に対する世界の機関投資家の意欲と、国内で急増するMBOや子会社売却案件など「需要と供給がそろってきた」と説明した。
上場企業の間では資本効率やガバナンス(統治)の改善を重視し、カーブアウト(非中核事業の売却・分離)案件などが増えている。一方、企業価値向上や成長戦略の手段として合併・買収(M&A)を活用する中堅企業も目立っている。
ゴールドマンは1999年以降、日本企業40社以上に総額約5300億円超を投資してきた。
中堅企業は国内で安定した事業基盤や高いシェアを持ちながら、海外展開やM&Aに踏み出すための資本や人材が不足しがちだ。糸木氏は「ビジネスの質は高いが、次の成長に必要なリソースがないケースは多い」と指摘する。
ゴールドマンは、2022年にENEOSホールディングスと共同で約2000億円を投じて道路舗装大手のNIPPOを買収した。24年には分譲マンション管理などを手掛ける日本ハウズイングを創業家などと組み約940億円でMBOした。安定事業を非公開化することで次の成長ステージを目指す案件となる。
4つの重点セクター
重点セクターには、テクノロジー、ヘルスケア、コンシューマーのほか、 NIPPOや日本ハウズイングを含むインダストリアル(製造業など)の4つを据える。
糸木氏は、インダストリアルについて「日本特有の重点セクター」であるとし、投資対象には「必ずしも高成長ではないが技術・サービスの質が高く、オペレーション効率化やバランスシートのスリム化で価値向上の余地が大きい」企業を想定している。今月11日にはネット印刷のラクスルのMBOを総額1200億円で実施すると発表したばかりだ。
テクノロジーとヘルスケアの投資実績では、調剤薬局向けSaaS(ソフトウエア・サービス)のカケハシへの出資のほか、タクシー配車アプリのGOやスマートロックのビットキーへの出資などがある。デジタル化や生産性向上を通じた成長余地を見込んだ案件と位置付けている。
最後の空白にバーガーキング
コンシューマーではこれまで実績がなく「空白」だったが、11月に発表したバーガーキングの日本事業買収がそれを埋めた。香港の投資会社からゴールドマンが約700億円超で譲り受けることで合意した。バーガーキングは日本では日本マクドナルド、モスバーガーなどに次ぐプレーヤーだ。
糸木氏はバーガーキングについて、「国内に強いブランド認知と差別化された商品を持ち、店舗網を大きく広げて成長の余地がある」として、同セクターの本格参入を象徴する案件だと述べた。
バーガーキングの日本事業はロッテリアの下で拡大し、それを引き継いだファンドがブランドポジションを築いた。糸木氏は「前オーナーが立て直したところを、われわれが2倍、3倍の成長につなげるという意味で、ある種の事業承継だ」と話す。
日本チームならではの強み
日本は言語や商慣習、規制面でのハードルが高く、海外のPEファンドが自前でチームを立ち上げて直接投資するには時間とコストがかかる。
糸木氏は、「日本にチームと実績を持つハウスに、LP(出資者)として資金を託すのが合理的だと考える投資家は多い」とし、ゴールドマンに託されたマネーを「責任を持って日本企業の成長に振り向けたい」と語った。
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