インドの株式市場は世界で最もボラティリティーの低い市場の1つとなっており、同国の巨大デリバティブ(金融派生商品)市場の参加者は戦略見直しを迫られている。

地政学的な緊張の高まりや最近の世界的なリスク資産売りにもかかわらず、インドの代表的な株価指標のNSEニフティ50指数はここ数カ月ほとんど動いていない。国内資金が海外資金流出を穴埋めする中、デリバティブ取引への規制強化でボラティリティーが抑制されたためだ。将来の相場変動を占うインドNSEボラティリティー指数は19日、過去最低水準で取引を終えた。

取引量で世界最大の同国オプション市場を支えるトレーダーにとっては、おなじみの戦略で利益を上げるのがより困難になったことを意味する。ボラティリティーはデリバティブ取引のエンジンだ。市場が大きく動けば、投資家はコストをかけてもヘッジに動き、オプション価格は上昇する。株式市場が静かな場合、プレミアムが縮小してオプション売り手のリターンを損ない、従来の戦略では採算が合わなくなる。

 

カルナ・ストック・ブローキングのパートナーでデリバティブトレーダーのニテシュ・グプタ氏は「市場はより効率的で競争的になった。その結果、標準的なボラティリティー売り戦略のリターンは低下した。こうした状況でリターンを改善するには、一段のリスクテークが必要となる」と述べた。

インド証券取引委員会(SEBI)が昨年、大がかりな規制に乗り出したのが転換点となった。投機的な動きを抑制し、個人投資家の損失に対処することが狙いで、日中の価格変動を増幅させてきた人気の週次オプション取引の一部が廃止された。

その影響は明白だ。取引活動は2月の低水準からは持ち直したものの、今年の1日当たり平均取引高は約240兆ルピー(約422兆円)と、2024年から35%減った。17年にさかのぼるデータで、年間ベースでの減少は初めてとなる。

デリバティブ取引の減少は現物市場にも跳ね返っている。ニフティ50指数は151営業日連続で1日の値動きが1.5%未満にとどまり、23年に記録した水準に迫る。3カ月間の実現ボラティリティー(RV)は8ポイント近辺まで低下し、世界の主要市場で最も低い。

 

こうした市場の低ボラティリティーは、株式保有者にとって大きなリターンにはつながらない。ニフティ50指数の年初来上昇率は9.8%にとどまり、MSCI新興市場指数の27%、MSCIオール・カントリー・ワールド指数の20%を大きく下回る。

重しの1つはバリュエーションだ。ブルームバーグの集計データによると、ニフティ50指数の予想株価収益率(PER)は20倍と5年平均を上回り、MSCI新興市場指数の13倍と比べても割高だ。

アルファグレップ・インベストメント・マネジメントのバウティク・アンバニ最高経営責任者(CEO)は「低ボラティリティー環境と週次オプション取引の廃止が、オプション売りで利益を得る戦略に打撃を与えた」と指摘。現在のボラティリティーは低過ぎるとして、いずれ上昇に転じるとの見通しも示した。

原題:World’s Calmest Stock Market Challenges Options Traders in India(抜粋)

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