トランプ米大統領は、巨大なものを造るのが好きなことで知られる。自らの名を冠した大規模プロジェクトであれば、なおさらだ。危機が深まりつつある米国最大の電力網への対応策として、国内最大規模となる発電所の建設を打ち出したのは、いかにもトランプ氏らしい発想といえる。

ホワイトハウスのファクトシートも、その巨大さを強調する。だが、ファクトシートと称しながら、肝心の事実は乏しい。しかも、この発電所は、日本が高関税を回避するために約束したとされる5500億ドル(約85兆7900億円)規模の対米投資の一環と位置付けられている。

もっとも、その関税措置は最高裁が無効と判断したばかりだ。そう考えると、この計画は実体より構想が先行しているとの見方も成り立つ。さらに、出力9.2ギガワットと、オハイオ州の発電能力を単独で3割超押し上げる規模のガス火力発電プロジェクトについては、州当局や送電網事業者にとっても寝耳に水だったようだ。

ただ有用な数字が一つだけある。総事業費330億ドルだ。この数字は、電気料金を押し上げる要因の大きさを如実に示す。

この総額から逆算すると、設備容量1キロワット当たりのコストは約3600ドルに達する(注:330億ドルの内訳は示されていない)。ブルームバーグNEFの試算では、ガス発電と蒸気タービン発電を併用するガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)の建設コストは通常、2023年で1キロワット当たり1000ドル強、2025年でも2000ドル強にとどまる。

人工知能(AI)を支えるデータセンターの急増に伴い、電力需要の見通しが膨らむなか、タービン需要も急増している。新規タービンの納期は4年超に延びており、1キロワット当たり3000ドル超というのは需給逼迫(ひっぱく)による異例の価格水準といえる。

もともと天然ガスは他の発電方式に比べてコスト面で優位にあったが、その優位性は薄れつつある。ブルームバーグNEFの最新分析によると、米国のガス火力発電の均等化発電原価(LCOE)は2025年後半に前年同期比で48%上昇した。LCOEは、新規発電所の建設、運転・維持、廃棄に至る生涯コストを発電量で割って算出する指標だ。

 

筆者自身の前提(燃料価格や割引率など)で試算すると、今回のオハイオ州ガス火力発電所プロジェクトのLCOEは1メガワット時当たり約75-80ドルとなる。これは、米東部の広域電力系統を運営する「PJMインターコネクション」が管理する卸電力市場の平均先物価格(60ドル未満)を大きく上回る水準だ。さらに送電費用として1メガワット時当たり15-20ドルを加えれば、需要家に届く電力コストは100ドル近くに達する。

これは同地域で大手テクノロジー企業が複数の原子力発電所と結んだ供給契約の価格に近い。しかもガス火力は原子炉と異なり二酸化炭素を排出する。仮に炭素価格が1トン当たり50ドルとすれば、さらに1メガワット時当たり約17.5ドルが上乗せされる計算になる。

ソフトバンクグループ傘下のSBエナジーが主導し、日本の資金で賄われる巨大ガス火力計画が実際にオハイオで実現するかどうかはひとまず置くとしても、その採算性はトランプ氏や中西部の住民、そしてハイテク大手にとって強い警鐘となる。これまで公共料金の上昇の主因は、発電ではなく配電網整備にかかる資本コストの増加だった。発電コストまで大きく膨らめば、問題は一段と深刻化する。

仮にAI向け電力需要が本当に急拡大するのであれば、割高なガス火力や新設の原子炉を含め、発電能力の増強は避けられないだろう。だが、トランプ氏の「巨大で美しい発電所」が示しているのは、想定される需要ピークに合わせて巨大発電所を建て続ける従来型モデルが、経済的にも環境的にも、そして政治的にも持続可能ではないという現実だ。

(リアム・デニング氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。元バンカーで、ウォールストリート・ジャーナルのコラム「Heard on the Street」の編集に携わり、フィナンシャル・タイムズのコラム「Lex」も執筆していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Softbank’s US Power Plant Offers AI Sticker Shock: Liam Denning(抜粋)

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