(ブルームバーグ):日本銀行が政策金利を30年ぶりの高水準に引き上げた。ただ、デフレと低成長に長年苦しんできた日本経済の「復活」としてその節目を祝うようなものではなく、植田和男総裁は依然として金利が低水準であることに留意するよう求めている。追加利上げの余地はなお大きいとも示唆した。
鍵を握るのは、植田氏による次の一手とそのタイミングだ。昨年前半以降4回の利上げを実施した後でも、借り入れコストは他の主要経済圏と比べてまだかなり低い。
今回の利上げで政策金利は0.75%となったが、米国との金利差は特に大きく、これがしばしば円安の要因として指摘されてきた。植田氏は今回の動きを引き締めと呼ぶことに慎重で、政策は依然として緩和的だと強調している。
同氏はこれまでも強気の発言をしながら、市場の反応や政治的反発を受けて後退した例がある。
2023年の総裁就任当初からマイナス金利や大規模量的緩和といった超金融緩和の時代に終止符を打ちたいと考えていた植田氏だが、実際の行動は慎重そのものだ。
今回も利上げが見送られても、不思議ではない局面もあった。トランプ米大統領による関税措置で市場が動揺した今年5月、世界的な景気減速への懸念が強まる中、植田氏は追加利上げには非常に高いハードルがあるとのメッセージを発した。
同月時点で、物価目標が達成されるかどうかを「予断を持たずに判断していくことが重要」だとしていた日銀だが、12月19日に姿勢を転換。今回の金融政策決定会合では「賃金と物価がともに緩やかに上昇していくメカニズムが維持される可能性が高い」との認識が示され、トランプ政権発足前に示していた利上げ方向へのスタンスに回帰した。
日銀が再び政策金利を小幅に引き上げることができたのは、植田氏の戦略を雄弁に物語っている。今の金融政策サイクルは、漸進主義と実務重視が特徴だ。
植田氏は前総裁の黒田東彦氏の特徴だったサプライズ演出を好まない。市場を驚かせてメッセージを強調することに価値は乏しいとみているためだ。
インフレ率はゼロを上回って安定しており、急上昇はしていない。経済成長も力強さを欠く中で、市場を揺さぶる必要がないためだ。植田氏は慎重な運営を好み、これまでの利上げは全て、時に詳細に至るまで事前にメディアに漏れていた。
円相場
「中立金利」見通しで苦慮しているのは日銀だけではない。どの程度のペースで利下げすべきかを巡って議論が続く米連邦準備制度理事会(FRB)でも主要なテーマだ。
こうした模索は当面終わりそうにないし、永遠に続くのかもしれない。しかし、植田氏にとっては未解明のままの方が都合がいい。
もし中立金利が上方にシフトしていると示唆すれば、今後も複数回の利上げが視野に入ることになるからだ。選択肢が制約される展開は避けたいだろう。半年ごとに0.25ポイントずつ、2027年初めまで利上げするというシナリオも考えられる。
高市早苗首相がどこまで同調するかも焦点だ。日本政府は円安の深刻化を避けるため、今月か来月に1回だけの利上げを容認していたとの見方もあった。高市氏はこれまで利上げに否定的だったが、円の下支えやインフレ抑制につながるのであれば歓迎するだろう。
今回の利上げは円相場にはほとんど影響せず、銀行に加え、資産を多く保有するシニア層を利する一方、企業の賃上げ余地を狭め、インフレに苦しむ現役世代の住宅ローン負担を増やすだけだと懸念する向きもある。
日米金利差縮小がこれまでのところ期待に反して、ドル安・円高につながっていないことは確かだ。

大きな論点はタイミングだ。昨年夏の小規模な市場混乱や、今年1月に発足したトランプ政権が市場にほとんど悪影響を及ぼさないとの時期尚早な期待など、植田氏は局面を何度も読み誤ったとも指摘されている。
日銀は来年最初の政策決定会合を1月下旬に開くが、それまで5週間しかない中で、春闘の賃上げ要求を待たずに今回の決定を下したのは不可解にも映る。
ただ、今回の判断は世界経済の状況も反映している。今年5月に利上げを見送った当時は、トランプ氏によって国際貿易システムが破壊されたとの議論が広がっていた。だがその後、米国が関税措置を緩和したこともあり、そうした事態は起きていない。日本の輸出は11月に前年同月比6.1%増えた。
とはいえ、関税の本格的な影響は来年、表面化する可能性もある。その場合、減速の兆しを早期に察知できるかどうかが植田氏の大きな課題となる。
30年前の1995年、バブル崩壊に見舞われた日本は長期にわたる景気低迷の初期段階だったが、今は状況が異なる。今回の決定は重要な節目だが、日銀の説明によれば、歩むべき道はまだそれなりの距離がある。
(ダニエル・モス、リーディー・ガロウド両氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Japan’s Rate Milestone Is Just One More Step: Moss & Reidy(抜粋)
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