リクルートホールディングスの出木場久征社長がブルームバーグのインタビューに応じ、顧客企業の採用活動にAI(人工知能)ツールの活用を促進することで、自社の収益向上につなげていく方針を示した。主力の米国市場を中心に、企業の間で高まる効率的な人材採用への意識を捉える狙いだ。

出木場氏は「AIエージェントのようなソリューションを顧客に少しずつ出し始めている」と述べ、過去の膨大な求人や応募データをもとに、採用業務の効率を高めるサービスを拡充していく考えを明らかにした。

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

子会社である米国の求人検索大手「インディード(Indeed)」では、企業が採用候補者に確認したい点をAIに指示すると、AIが代わりに面接を行い、録画された内容を企業に返すようなサービスを開発している。試験的に提供した企業の反応は良いという。AIが採用担当者の代わりに候補者を抽出し、連絡する機能もテスト中だ。

「人材紹介産業は約65%が人の作業」で、面接日程の調整などにかかる労力は広告費よりも大きな人的コストだと指摘する。採用業務のスピードと質を高める有料サービスが広がれば、同じ求人数でも収益性は高まる。米国では1求人あたりの売上収益を新たな業績の指標として導入しており、今後は単価の成長率も注視していく意向だ。

ブルーワーカービリオネア

リクルートHDの収益は、インディードを中核とするHRテクノロジー部門の割合が大きい。同社が重視するEBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)に株式報酬費を加えた指標で全体の7割弱を占める。

企業はインディードに無料で求人広告を掲載できるが、より条件に合う求職者に届きやすくするための有料サービスもある。採用の効率化を促す戦略は奏功しており、求人数が減る中でも売上収益が上昇。11月には2026年3月期の業績を上方修正した。

 

リクルートHDは米国求人数が2026年1-3月期(第4四半期)に底に近づくと想定する。出木場氏はその後、しばらく横ばいが続くか、回復があっても緩やかなペースになると述べた。トランプ政権の移民規制で、生産年齢人口の減少リスクが強まっていることが指摘されており、米国も日本同様の労働力不足に近づきつつあるという。

出木場氏は、日本で転職市場が拡大したように、米国でも若い世代を中心に職場を変える動きが活発化していると述べた。そして転職回数の増加は、採用支援サービスを展開する同社の追い風になると説明した。

AIで代替できない職種への注目も高まっている。米国では、「ブルーカラービリオネア」という言葉が話題になっている。水道管修理のように機械化が難しく、人手の確保が難しい分野で報酬が高くなる現象だ。米労働統計局は、2020〜2030年の新規雇用の約60%が学士号や修士号が不要の仕事になると予測する。

出木場氏は、AIで省人化が進む一方で、新たに人材が集中する仕事が生まれると指摘する。こうした労働需給のギャップも同社の商機となりそうだ。

株価の重し

ただ、市場の評価はおぼつかない。株価は昨年12月高値から約27%下落した。AIを逆風とみる投資家からは、主に2つの質問を聞かれるという。

1つ目は、AIによって労働力が大規模に代替され、人材採用という産業自体が先細っていくとの見方だ。答えは「わからない」としつつ、もし雇用が劇的に減少する事態になれば、国レベルの政策対応が必要になる問題だと話した。

2つ目は、求人検索機能の需要を生成AIが奪うのではないかという懸念だ。これに対しては、生成AI経由で求人に応募する方法が広がるとは考えづらいと述べた。何千という求人に自動でアクセスしようとする動きはすでにあり、AIと人間を判別する対策が広がっているためだ。

同社は積極的な自社株買いでネットキャッシュの膨張を抑えているが、新たな企業買収(M&A)の可能性への関心も高い。この点については「良い会社がフェアプライス(適正価格)ならぜひ買いたい」としながら、今は自社の既存事業への投資が大きくなっていると述べた。

(一部詳細を補いました)

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