(ブルームバーグ):中国の人工知能(AI)半導体大手、摩爾線程智能科技の株価が今月の上場初日に425%急騰し、2019年以降では中国で最も成功した新規株式公開(IPO)となった。AIチップの進展に対する投資家の期待の強さが示されたが、中国の半導体製造業界の長期的な展望を妨げかねない基本的な技術的ハードルは根強く残っている。
摩爾線程から中科寒武紀科技(カンブリコン・テクノロジーズ)、沐曦集成電路(メタX)に至るまで、かつては無名だった企業群を市場は歓迎している。こうした会社は今や、少なくとも国内では米エヌビディアに挑むという野心を抱いている。
アリババグループや百度(バイドゥ)など大手も、政府の最優先課題の一つであるAI開発を支える半導体分野で進展を見せている。最近では、カナダの調査会社テックインサイツがHuaweiのスマートフォンを分解調査したところ、中国の半導体メーカーには製造不可能と考えられていた高度な技術を用いたプロセッサーの存在が明らかとなった。
また、事情に詳しい複数の関係者によると、中国は半導体セクターの支援に向けて最大700億ドル(約10兆8500億円)規模のパッケージも準備している。
だが、中国の半導体セクターは資金だけでは容易に解決できない技術的なボトルネック、特に製造面での課題に直面している。
Huaweiなどは最先端技術に到達するため、半導体受託生産大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)に依存している。SMICは米国の制裁対象となっており、先端チップを効率的に大量生産するのに必要な装置を調達できない。
テックインサイツはリポートで、SMICは先端半導体を製造できてはいるものの、その達成には割高なコストや効率の悪さが伴っていると指摘。カンブリコンの最上位プロセッサーの歩留まりは約20%にとどまっており、組み立てラインから出てくるシリコンダイの5個に4個が使用不能として廃棄されていることを意味する。
摩爾線程は投資家が過熱気味になっている恐れがあると警告し、12日の同社株は一時19%急落した。
対米格差
アバディーン・インベストメンツの中国株担当インベストメントマネジャー、カール・リー氏は「重要な課題は引き続き先端ノードのウエハー生産能力へのアクセスだ」と指摘。「供給不足はなお顕著だ。中国はこの制約を解決するために先端ノードの能力拡大を重視すると予想されるが、米国との技術格差は今後数年残るとわれわれは見込んでいる」と話す。
現在の熱狂は、国家の命運を左右しかねない分野で米国の優位を弱めるため、中国政府が国産半導体メーカーを支えるためにあらゆる手段を講じるだろうという見方を反映している。それには必然的に国内でエヌビディアの代替品を開発することが含まれる。
トランプ米大統領は今月、エヌビディアに対し、比較的高性能の「H200」の中国への販売を許可する意向を示したが、これまでのところ中国側は沈黙を守っている。
フォレスター・リサーチのアナリスト、チャーリー・ダイ氏は、「H200へのアクセスが可能となれば、性能面の制約が一時的に緩和され、一部企業の切迫感を軽減する可能性はある」と指摘しながらも、「半導体の自立に向けた中国の戦略的コミットメントは揺るぎない。短期的には大きな影響があるだろうが、政策や資金、人材が国内のイノベーションを推進し続けるため、時間の経過とともにそれも限定的になるだろう」と述べた。
原題:Chinese AI Euphoria Masks Long-Term Technological Challenges (1)(抜粋)
--取材協力:Jessica Sui、Maggie Eastland.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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